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「倒れる……?」
「霊力を使いすぎる。マドカにはまだ荷が重い」


 そうだ、念話だって今日初めて成功したんだ。椿を召喚しょうかんしている間だって霊力は使っている。
 でも、今は椿しか頼れない。
 どうする。どうする?

 円が迷っていると、騰蛇が椿に声をかける。


「俺の力を間接的に使えないか?」
「?」
「俺の力をマドカに流し込む。それを使うことはできるか?」
「やってみてくれ」
「マドカ、嫌だろうが俺の手を握れ」


 言いながら、騰蛇が手を差し出してくるから反射的に握る。すると、握った手から、圧倒的な量の力が流れ込んで来るのがわかった。


「う、わ……!」
「! 大丈夫そうだ。続ける」
「頼む!」


 椿は、再び瞳の肩に手をかざす。少しだけ、と言っただけあって、完全に治すことはできないらしい。だが、出血量が目に見えて少なくなった。


「問題はこちらだな」


 右の肩甲骨付近。銃弾が、入ったままだと言っていた。


「銃弾を出さなければ塞げない」
「!」
「……かなり、荒療治になる。相当痛むだろうが、いいか?」


 椿は、意識が朦朧もうろうとしたままの瞳に確認する。
 わかっているのかわかっていないのか。それは定かではないが、瞳はコクリと頷いた。
 瞳が頷くのを確認した椿は、傷口に、今度は両手で塞ぐように手を当てる。


「……いくぞ」
「………っう、ぁ!」


 ビクリ、と瞳の身体が震える。思わず逃げを打とうとする身体を自らの意思で堪えている。血の気が引いた手が、ギリリとシーツを握りしめた。


「もう少しだ、我慢しろ」
「………っく……ぅ!」


 円にも騰蛇にも、椿が何をしているのか分からなかった。
 ただ、椿が瞳のために頑張っていることはわかるのだ。


「! よし、取れた……!」
「ふ……っう……」


 椿の声とほぼ同時に、瞳の身体が弛緩する。呼吸が更に荒くなっている気がした。
 椿は、血に濡れた銃弾を手のひらに持っていた。


「それは、まさか……」
「撃ち込まれたのと同じ角度で、引き抜いた。言っただろう、相当痛むと」
「……待て、すまない」


 謝罪を口にしたのは騰蛇だった。


「これ以上ヒトミの霊力は治療には使えない」
「そうか」


 騰蛇とて瞳の力を使ってここに居る。
 そろそろ瞳の体力の限界か。


「ヒトミ、太陰を呼んでくれ」
「…………」
「ヒトミ……」
「……だめ、だ」


 頑なに太陰を呼ぼうとしない瞳。太陰が何をするのかわかっているからだ。


「太陰を、呼ぶように頼めばいいんですね?」


 できるかもしれない。騙し討ちみたいになるけれど。
 円が言えば、騰蛇が頷く。


「できるか?」
「やってみます」


 円はゆっくりと瞳の顔を覗き込んだ。
 傷のせいで熱が出ているようだった。出血量のせいか顔色は悪いのに火照っている。


「……瞳」
「…………まどか?」
「うん。太陰を、呼んでくれる?」
「……いや、だ」
「律が、会いたいって言ってる」
「……りつ、さん?」
「うん」
「…………たい、いん」


 おいで。
 ふわり、と。泣きそうな顔の太陰が召喚された。


「ヒトミ……」
「すまない、太陰。頼めるか?」
「もちろんよ。ヒトミとお揃いの傷はわたしの勲章だわ」


 そう言って、両手を瞳の背中にかざして目を閉じる。集中する。ふわ、と力が集まっているのがわかる。


「あ……」


 傷口が、少し。回復したように見えた。
 ふらりと崩れる太陰を、騰蛇が支える。ひょいと抱き上げた。


「あの、なにがあったのか聞いても……?」
「…………術式自体は防いだんだ」
「……はい」
返りの風かやりのかぜに当たった術者に驚いた相手に喜んで、あろう事か隠れてろと言いおいたはずの依頼者が出てきて銃で撃たれた」
「えっ」
「撃たれた所をヒトミが自分を盾にしたんだ」
「…………」
「撃たれたヒトミを急いでここへ連れてきた。現場での後処理は、朱雀と白虎がやっている」
「俺は騰蛇だ。太陰を連れてあちらへ戻る。朱雀と白虎がきたらそう伝えてくれ」
「わかりました!」


 太陰を抱えた騰蛇がスゥと消えるのを見届け、椿を見た。


「椿、ありがとう」
「いや。それより、念話が出来たことに驚いたぞ」
「うん、俺も驚いた。必死だったから」
「ヒトミの傷口の処置をしたら我も戻る。マドカもあまり無理をするな」
「はぁい」


 素直に言いながらも、実は結構身体が重い。けれど瞳を少しでも助けることができるなら、これくらい。そう円が思っていると。
 椿は実に手早く処置を済ませ、「では、またな」と言って戻っていった。
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