上 下
24 / 32
番外編

パウロの話 4

しおりを挟む
「・・・・・・私の番、みたいですね。ミハスの騎士団・・・所属・・・じゃなさそうですけど。ランドルフ様、この子どこの誰ですか?」

「・・・ハニル、お前この状況でよく落ち着いていられるな。」

「いえ、こう見えてかなり・・・動揺してますけど。・・・とりあえず、君、一回離れようか。」

僕はふるふるふるふると首を振り全力で拒否した。離れたくない!ようやく会えたんだもん。
ハニルさん?の甘い匂いがする首にがっしり腕を回して、首筋に顔を埋めたまま、ぎゅう、と力を込めた。

僕の突然の飛びつき抱擁に、ジルさんもダレスさんもニールさんも、ランドルフさんも・・・とにかく、そこにいた人たちはみんなびっくりしている。
飛びつかれたハニルさんの声は落ち着いていて、動揺してないように聞こえるだろうけど、僕の耳にはハニルさんの、ドクンドクンって大袈裟なぐらい大きく鳴ってる鼓動が聞こえる。それに僕が番だって分かってくれた。嬉しい!嬉しい!

「パウロ、くん。ハニルが君の番・・・なのか?本当に?」

ダレスさんの声が聞こえる。僕は嬉しくて声が出せない。必死にこくこくと大きく縦に首を振った。「そうか・・・ハニルが・・・」と何やら困ったようなダレスさんの声がする。
・・・まさか、僕の旦那様、すでに誰かと番になってたり?結婚してたり?する??それは考えてなかった!僕の身体がサァーと冷えていく。急に絶望感が襲ってきて、カタカタと小さく震えてきた。

「・・・どうした?どこか具合が悪いのか?」

僕の異変にすぐハニルさんが気づいてくれる。頭の中は「どうしようどうしよう」ばっかりで震えは止まらない。でも確かめなきゃ。諦めるなんて・・・絶対出来ないけど。

「あの、あ、あなたは、他の人と、け、結婚し、てますか?」

「ん?結婚?していない。番もいない。・・・仕事が忙しくて出会いなんてないからな。」

「その目はなんだよ。俺のせいかぁ?」

「ランドルフ、ハニルさんにお世話されっぱなしだもんね・・・ごめんなさい、ハニルさん。」

「ナディル様が謝る必要ありません。・・・君、もしかしてそんなことが心配だったのか?」

「そ!そんなことじゃない、です!ぼ、僕、うう・・・」

間近でハニルさんの顔を見たら、何かうまく喋れなくなった。フィードさんに似た黒と茶のまだら模様の耳、切長で少し吊り目。黒に近い茶色の瞳。目の下に小さな切り傷がある。昔怪我したのかな、心配だな。僕が思わず目をうるうるさせながら、ハニルさんの顔を見つめていると、僕の後ろ頭にハニルさんの手が伸びてきて、また首筋に顔を押し付けられた。
急な力に「うぶっ」と可愛くない声が出る。押さえつけられた僕の鼻にハニルさんの良い匂いがぶわっと香ってくて、自然と力が抜けた。さっきまでの震えもない。

「ランドルフ様、この子と2人で話がしたいので、今から休みいただけませんか。」

「うはっ、めっずらしい!いいぞいいぞ。屋敷の談話室貸してやるよ。ナディルも屋敷に戻ろう。ゆっくり抱っこしたくなった。」

「ひゃっ!も、もう抱っこしてるでしょ!みんな見てるってば!は、恥ずかしいからおろして!」

「ハニル。その子、パウロって言って・・・リリー俺の番の弟だ。・・・・・・分かってるよな?」

「・・・・・・分かってる。話をするだけだ、ダレス。」

「・・・義弟の番が騎士・・・リリーが心配する・・・はぁ・・・」

なるほど。ダレスさんがさっき困った声だったのはリリー姉さんのことを瞬時に考えたわけか。あそこもなかなか熱い2人だもんな。人前でイチャイチャしないだけで。一人で勘違いしていたことに気づいて、僕はホッとして、また首に力を入れてしがみついた。

「今日は誰とここにきたんだ?話をしないと・・・」

「・・・・・・ん。」

僕はジルさんを指差した。ジルさんは何とも言えない顔をしている。その隣のニールさんは口を手で押さえて噴き出すのを我慢しているようだった。

「・・・ミハスの副団長様ですね。少しこの子・・・パウロくんを預からせていただいてもよろしいですか?話をさせてください。」

「・・・分かった。後ほど屋敷に迎えに行く。パウロくんの仕事は・・・もう終わった。ゆっくり話をすると良い。」

「ぐふっ!・・・そうそう。ゆっくり話ししてあげてよ。じゃあね、パウロくん。またあとで。」

僕はハニルさんの首からチラッと横目でニールさんの方を見て、手をひらひら振っておいた。そしてまたすぐに首に顔を埋める。「ブハッ」と吹き出す声がしたけど無視だ、無視。今はハニルさんの匂いを嗅ぐことに専念する。甘い、甘い、良い匂い。さっきよりも強い気がする。

「・・・っ、そんなに、嗅がれると・・・チッ。先に屋敷に向かいます。談話室お借りしますからね、ランドルフ様。」

「へいへーい。食い散らかすなよー。」

「ランドルフ様!義弟の前でそんなこと言わないでください!」


ギャーギャー騒ぐ人たちを他所に、ハニルさんは「しっかり捕まってなさい」と僕に囁いた後、ビュン、と一気に走り出した。
僕も足は速い方だけど、やっぱり肉食系の獣人には敵わない。あっという間に速度が落ちて、屋敷に着いたらしい。建物の中に入ってすぐ、談話室と思われる小さめの部屋の扉が開き、ガチャン、と鍵がかかる音がした。

僕を抱えたままソファに座ったハニルさんは、僕の背中をとんとん、と優しく叩く。

「パウロ、と言ったな。俺はハニルだ。会えて嬉しいよ。顔を見せてくれ。」

僕はそろり、と顔をあげ、下から覗き込むようにハニルさんの顔を見た。
嬉しくて、嬉しくて、ついついニヤけてしまう。へらっと、力の抜けた笑い方になってしまった。

「パウロです。リスの獣人。歳は14だけどあと少しで15。あなたに会いたくてここまで来ました。好きです。僕と番になって。結婚もして。」

「・・・14?まだ未成年なのに、この匂いか・・・!」

「・・・もうすぐ15です。僕はハニルさんと早く番になりたい。噛んでみてください。匂いが強いなら、もう番にもなれるかもしれないですよ。」

僕はグイッと自分の頸を差し出した。なのにハニルさんはその辺にあったタオルをぐるぐるっと僕の頸に巻いて見えなくする。
タオルを取ろうと暴れる僕と、そうはさせまいとするハニルさん。ちょっとした小競り合いが始まった。

「ちょ、ちょっと、落ち着け!・・・っ、噛みたくなるだろうが!」

「~~っ、だから、噛んでいいですってば!」

しばらく続いた小競り合いは圧倒的な力の差により、ハニルさんが勝利する。めちゃめちゃ手加減してくれているみたいだけど。
納得いかない僕は「うう~」と唸りながらハニルさんを睨みつけたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】黒兎は、狼くんから逃げられない。

N2O
BL
狼の獣人(異世界転移者)×兎の獣人(童顔の魔法士団団長) お互いのことが出会ってすぐ大好きになっちゃう話。 待てが出来ない狼くんです。 ※独自設定、ご都合主義です ※予告なくいちゃいちゃシーン入ります 主人公イラストを『しき』様(https://twitter.com/a20wa2fu12ji)に描いていただき、表紙にさせていただきました。 美しい・・・!

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

楽園をかたどったなら

ジンノケイ
BL
動物たちが進化して獣人となり、ヒトは彼らに敗北し絶対的な弱者となった世界。 シロクマ獣人の医師ディランはかつて、ヒトを実験生物として扱う「楽園」という組織に属していた。 良心の呵責に耐えきれなくなったディランは被験体のヒトを逃してしまい、「楽園」を追われることとなる。 そうして五年後のある雨の日。 逃がしたヒトの子・アダムが美しく成長した姿でディランの元へ現れた。幼いヒト似獣人の少女を連れて。 「俺をもう一度、お側に置いてください」 そう訴えるアダムの真意が掴めないまま、ディランは彼らと共に暮らし始める。 当然その生活は穏やかとはいかず、ディランは己の罪とアダムからの誘惑に悩み苦しむことになる—— ◇ ◇ ◇ 獣人×ヒトの創作BLです シリアスで重い話、受から攻へのメンタルアタック、やや残酷な表現など含みますが最終的にはハッピーエンドになります! R描写ありの回には※マークをつけます (pixivで連載している創作漫画のifルートですが、これ単体でも読める話として書いています)

処理中です...