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番外編
パウロの話 3
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「パウロ・・・くん?何してるんだ、こんなところで。」
「・・・・・・ダレスさん、コンニチハ。」
僕はすっかり忘れていた。リリー姉さんの番、ダレスさんも騎士だということを。しかも僕の旦那様と同じサルマンの、だ。
サルマンの騎士団の詰所に着いて、出迎えてくれたのはダレスさんと団長のディックさんだった。ディックさんは狐の獣人で、耳の形がジルさんに似ていた。ダレスさんよりは小さいけど、狐獣人にしては背も割と高くて、凛々しい顔つきだった。ミハスの団長、ニールさんとは、また違ったタイプだと思う。月と太陽って感じ。もちろん太陽がニールさんだ。
「ダレス様、お久しぶりです。パウロくんは今日記録係として着いてきてもらったんです。な?パウロくん。」
「・・・うん!僕の絵のうまさは画家と比べても遜色ないって、ダレスさんも言ってくれてるでしょう?」
「ま、まあ、そうだが・・・こんなところで身内に会うとは思ってなかったから驚いたんだ。今日は色々見て行ってくれ。パウロくんもジル様もまた家に遊びに来ると良い。」
「ありがとう、ダレスさん。そうするね!」
満面の笑みで乗り切り、ダレスさんとディックさんの案内で騎士団の詰所、訓練場を見て回る。僕は初めて騎士団の施設をこんな内部まで見た、ということもあって、興味津々でスケッチをした。もちろんラフ画だけど、記憶力はいいからラフ画があれば後で思い出せる。「ふんふふーん」と鼻歌まで歌いながら、訓練場のベンチに座って鉛筆を走らせた。根本的に絵を描くことが好きなんだ。描いてるだけで落ち着くし、楽しい。そんな僕をジルさんは何とも不思議そうな顔で見ている。
そして、訓練として模擬戦が始まった。サルマンとミハスのそれぞれ若そうな騎士が出ている。普段見慣れない光景に僕はハラハラドキドキして、手で顔を覆いながら、指の隙間から覗き込むようにして見る。
「うひゃあ・・・い、痛そう。寸止めじゃなくて当たってるよ?け、けがしないの?」
「・・・けがはする。訓練用の剣だからほとんど切れない。そんなに血も出ないさ。」
「え゛!ち?血?ひゃあ~・・・!騎士団って凄いんだね・・・ぼ、僕毎日気絶しそう・・・」
「アッハハ!パウロくんみたいなか弱い子を守るのが仕事だからな。俺たちが弱かったら困るだろう?」
さらっと失礼な言い方をするニールさんだが、僕は否定できない。篭って絵を描いている分、体力も無いし、力も弱い。
僕の旦那様はきっとここの若い騎士の人たちよりもずっと強いんだろうなぁ。また頭の中では想像上の旦那様の姿が浮かぶ。
すると突然、後ろから知らない声がした。
「お、君は絵が上手いなぁ。俺の番の絵も描いて欲しいぐらいだ。頼めるか?」
ガバッと声のした方を振り返ると、美しい金髪で、ミントグリーンの瞳をした獅子の獣人が腕を組み、僕の膝の上にあるスケッチブックを覗き込んできた。
その獅子獣人の両腕には繊細な彫刻の、少しくすんだ色をしたバングルがはめてある。おそらく僕が今日左腕にはめてきたものと同じ製作者だ。僕も絵を描く分、そういうところはすぐ分かる。大胆だけど、賞賛に値する緻密で繊細な彫刻。他にはいない才能の持ち主だ。
ぽかんとその声の主の顔とバングルを見比べていると、その背中からひょこっと人間の可愛らしい男の人が顔を出した。
「・・・わ、わぁ、嬉しい!僕のバングルだ。最近・・・彫ったやつ、だね。ハニルさんに頼まれたものだ。2つ作ったけど、1つは君がつけてくれてるんだね。・・・ありがとう。」
「・・・・・・へっ?『願いが叶うバングル』の製作者の方ですか?!」
「ほう、そんな評判がついたのか。さすがナディル。俺も鼻が高い。おいで、抱っこしよう。」
「わっ、や、やめて!ランドルフ!は、恥ずかしい!ほら、リスの獣人さんびっくりしてるよ!わあ!」
僕、今目の前でイチャイチャを見せつけられてるよね?お揃いの指輪もしてるし、夫婦だ。しかも人間の方の頸にうっすら歯形が残ってる。番になった後、こうやって歯形が残る人もいるって聞いたし、この2人の様子からしてそうなんだろう。
真っ赤な顔をした、ナディル、と呼ばれた男の人と、その顔をデレデレさせながら抱っこをやめない金髪の獅子獣人。僕はこの堂々としたイチャイチャをしばらく見せつけられた。
・・・そういえばさっき「ハニルさんに頼まれた」って聞こえたな。もしかして「ハニルさん」っていうのが僕の旦那様の名前かもしれない!僕は胸がドキドキしてきた。
そして2人のイチャイチャを止めたのは、僕の義兄ダレスさんだった。
「ラ、ランドルフ様!何してるんですかこんなところで!今日の執務は終わったんですか?!」
「終わったって~~!ナディルが身体動かしたいっていうから、来たんだよ。」
「い、言ったけど、ま、まさか、騎士団の訓練場とは思わないでしょ!か、帰ろ!ハニルさん、絶対ランドルフ探してるよ?!」
「・・・ハニルも意外としつこいんだよな。すぐここ来る。多分。」
「あ、あの!そのハニルさんって・・・」
僕が「もしかしてハイエナの獣人ですか?」と聞こうとした時、訓練場に繋がる通路の方から足音が聞こえてきた。タッタッタと軽く走る音だった。
そして僕が寝る前に必ず嗅いでいたあのとてつもなく良い匂いも、通路から吹き込む風に乗って香ってくる。間違いない、旦那様の匂いだ。
僕は膝に乗せていたスケッチブックのことも忘れて、バサッと立ち上がると通路に向けて駆け出す。
突然走り出した僕に周りはみんなビックリしてたけど、もう抑えられなかった。
そして通路の出入り口から、旦那様ことハニルさんが出てくるのと、僕がハニルさんに飛びつくのはほぼ同時だった。
「~~~っ!見つけた!!僕の旦那様!!!!!」
いきなり飛びついた僕の身体をひょいっと訳がわからないまま受け止めたハニルさんからは、もう堪らなく甘い甘い匂いがした。
「・・・・・・ダレスさん、コンニチハ。」
僕はすっかり忘れていた。リリー姉さんの番、ダレスさんも騎士だということを。しかも僕の旦那様と同じサルマンの、だ。
サルマンの騎士団の詰所に着いて、出迎えてくれたのはダレスさんと団長のディックさんだった。ディックさんは狐の獣人で、耳の形がジルさんに似ていた。ダレスさんよりは小さいけど、狐獣人にしては背も割と高くて、凛々しい顔つきだった。ミハスの団長、ニールさんとは、また違ったタイプだと思う。月と太陽って感じ。もちろん太陽がニールさんだ。
「ダレス様、お久しぶりです。パウロくんは今日記録係として着いてきてもらったんです。な?パウロくん。」
「・・・うん!僕の絵のうまさは画家と比べても遜色ないって、ダレスさんも言ってくれてるでしょう?」
「ま、まあ、そうだが・・・こんなところで身内に会うとは思ってなかったから驚いたんだ。今日は色々見て行ってくれ。パウロくんもジル様もまた家に遊びに来ると良い。」
「ありがとう、ダレスさん。そうするね!」
満面の笑みで乗り切り、ダレスさんとディックさんの案内で騎士団の詰所、訓練場を見て回る。僕は初めて騎士団の施設をこんな内部まで見た、ということもあって、興味津々でスケッチをした。もちろんラフ画だけど、記憶力はいいからラフ画があれば後で思い出せる。「ふんふふーん」と鼻歌まで歌いながら、訓練場のベンチに座って鉛筆を走らせた。根本的に絵を描くことが好きなんだ。描いてるだけで落ち着くし、楽しい。そんな僕をジルさんは何とも不思議そうな顔で見ている。
そして、訓練として模擬戦が始まった。サルマンとミハスのそれぞれ若そうな騎士が出ている。普段見慣れない光景に僕はハラハラドキドキして、手で顔を覆いながら、指の隙間から覗き込むようにして見る。
「うひゃあ・・・い、痛そう。寸止めじゃなくて当たってるよ?け、けがしないの?」
「・・・けがはする。訓練用の剣だからほとんど切れない。そんなに血も出ないさ。」
「え゛!ち?血?ひゃあ~・・・!騎士団って凄いんだね・・・ぼ、僕毎日気絶しそう・・・」
「アッハハ!パウロくんみたいなか弱い子を守るのが仕事だからな。俺たちが弱かったら困るだろう?」
さらっと失礼な言い方をするニールさんだが、僕は否定できない。篭って絵を描いている分、体力も無いし、力も弱い。
僕の旦那様はきっとここの若い騎士の人たちよりもずっと強いんだろうなぁ。また頭の中では想像上の旦那様の姿が浮かぶ。
すると突然、後ろから知らない声がした。
「お、君は絵が上手いなぁ。俺の番の絵も描いて欲しいぐらいだ。頼めるか?」
ガバッと声のした方を振り返ると、美しい金髪で、ミントグリーンの瞳をした獅子の獣人が腕を組み、僕の膝の上にあるスケッチブックを覗き込んできた。
その獅子獣人の両腕には繊細な彫刻の、少しくすんだ色をしたバングルがはめてある。おそらく僕が今日左腕にはめてきたものと同じ製作者だ。僕も絵を描く分、そういうところはすぐ分かる。大胆だけど、賞賛に値する緻密で繊細な彫刻。他にはいない才能の持ち主だ。
ぽかんとその声の主の顔とバングルを見比べていると、その背中からひょこっと人間の可愛らしい男の人が顔を出した。
「・・・わ、わぁ、嬉しい!僕のバングルだ。最近・・・彫ったやつ、だね。ハニルさんに頼まれたものだ。2つ作ったけど、1つは君がつけてくれてるんだね。・・・ありがとう。」
「・・・・・・へっ?『願いが叶うバングル』の製作者の方ですか?!」
「ほう、そんな評判がついたのか。さすがナディル。俺も鼻が高い。おいで、抱っこしよう。」
「わっ、や、やめて!ランドルフ!は、恥ずかしい!ほら、リスの獣人さんびっくりしてるよ!わあ!」
僕、今目の前でイチャイチャを見せつけられてるよね?お揃いの指輪もしてるし、夫婦だ。しかも人間の方の頸にうっすら歯形が残ってる。番になった後、こうやって歯形が残る人もいるって聞いたし、この2人の様子からしてそうなんだろう。
真っ赤な顔をした、ナディル、と呼ばれた男の人と、その顔をデレデレさせながら抱っこをやめない金髪の獅子獣人。僕はこの堂々としたイチャイチャをしばらく見せつけられた。
・・・そういえばさっき「ハニルさんに頼まれた」って聞こえたな。もしかして「ハニルさん」っていうのが僕の旦那様の名前かもしれない!僕は胸がドキドキしてきた。
そして2人のイチャイチャを止めたのは、僕の義兄ダレスさんだった。
「ラ、ランドルフ様!何してるんですかこんなところで!今日の執務は終わったんですか?!」
「終わったって~~!ナディルが身体動かしたいっていうから、来たんだよ。」
「い、言ったけど、ま、まさか、騎士団の訓練場とは思わないでしょ!か、帰ろ!ハニルさん、絶対ランドルフ探してるよ?!」
「・・・ハニルも意外としつこいんだよな。すぐここ来る。多分。」
「あ、あの!そのハニルさんって・・・」
僕が「もしかしてハイエナの獣人ですか?」と聞こうとした時、訓練場に繋がる通路の方から足音が聞こえてきた。タッタッタと軽く走る音だった。
そして僕が寝る前に必ず嗅いでいたあのとてつもなく良い匂いも、通路から吹き込む風に乗って香ってくる。間違いない、旦那様の匂いだ。
僕は膝に乗せていたスケッチブックのことも忘れて、バサッと立ち上がると通路に向けて駆け出す。
突然走り出した僕に周りはみんなビックリしてたけど、もう抑えられなかった。
そして通路の出入り口から、旦那様ことハニルさんが出てくるのと、僕がハニルさんに飛びつくのはほぼ同時だった。
「~~~っ!見つけた!!僕の旦那様!!!!!」
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