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ジルは午前しか休みが無いらしく、紅茶とパウンドケーキを綺麗に食べた後、ミハスへと戻っていった。
去り際なんか「また会いに来る」と僕の手の甲にちゅ、とスマートな口付けをして、無表情のまま出ていったのだ。
残された僕とパウロとフィードは3人とも口がポカンだし、初めての口付け(手の甲だけど!!)に僕の心臓はバクバク鳴ってるし。
とりあえずフィードに詰め寄り、こうなった経緯を説明してもらった。





ことの始まりは一週間ほど前。
騎士団の詰所の休憩スペースで、数日前に僕らの家で作った胡桃のクッキーをフィードが食べようとした時に遡る。胡桃のクッキーは結構日持ちする。
フィードにもいつもより多めに分けたのだ。
そして、クッキーを頬張る前に、ちゃんと手を洗おうとしたらしい。
偉いぞ、フィード!
クッキー作りの時にいつも口をすっぱくして言った甲斐があった。
手を洗った後、僕がフィードに貸してそのままだったハンカチで、フィードが手を拭こうとした。

その時。

ガシィ、と腕を後ろから掴まれたらしい。驚いて振り返ると、ろくに会ったことも話したこともない氷の副団長様が自分の腕を掴んでいることに気づいて、何か余計なことをしたのかと、いっそのこと、気絶したかった(本人談)、ということだった。

ちなみに氷の副団長、と言う異名は若手の騎士団員が勝手に付けたらしい。
その由来は「何があっても氷のように冷たく、表情が変わらない」というところから来ているらしい。

・・・なるほど。
何か分かる気がする。








「それでさぁ、そのハンカチはお前の物か、とか、そのクッキーは誰が焼いたんだ、とか・・・あの顔で聞いてくるんだぜ・・・尋問だ・・・あれは・・・」

「そ、そっか、何かごめんね・・・?」

「いや、ラピが謝らんでいいだろ。それで、使おうとしてたのラピのハンカチだってこと思い出して、クッキーもラピが作ったし・・・名前は伏せたんだけど、次はいつその人物に会いにいくんだ、って詰め寄られて・・・んで、今日だ。」

「な、るほど?そして僕がまさかの番だった、ってことだね。びっくりだね。」

「だから、な・ん・で!そんな落ち着いてんだよ!」

「ええ・・・?だって何かの間違いだって。僕、分かんなかったもん。一応こんな身体だけど獣人だよ?人間じゃないよ?」

「でもリリー姉さんだって、最初ダレスさんのこと気付かなかったじゃん。小型獣人だから、気付きにくいのかもってダレスさん言ってたでしょ!」

「・・・待て、今ダレスさんっつったか?まさか牛のダレス?騎士団の?」

「ん?よく知ってるね。知り合い?ダレスさんは姉さんの番なんだ。」

「はぁぁぁあ?!牛のダレスって言ったらそっちの騎士団の上層部だろ!・・・待て。あの喫茶店に口聞きしてくれたの、そのダレスさんの知り合いなんだろ。獣人か?」

「えっ?う、うん。会ったことはないけど、ハイエナ獣人って言ってたよ。そういえばフィードと同じだね。」

「・・・・・・・・・それ絶対俺のいとこの兄ちゃんだ。」

「ええええーーー!!何か僕達、不思議な縁で結ばれてない?!」

「「「確かにーーー!」」」







意外な繋がりにキャハハっと盛り上がったのはいいものの、本来の話題である「氷の副団長の番はラピである」という事については本人の僕が分からない以上、追求のしようがない、という結論に至り、解散になった。



何かの間違いだろう、ともうすでにジルの番発言を記憶から消そうとしていた僕は、二週間後、再び現れたジルによって強制的にまた記憶の底から番のことを掘り起こすことになったのである。
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