14 / 18
14
しおりを挟む「良かったな。ジェハの小さな腹がはち切れるまで食べられるんじゃないか?」
ネロの背に乗り、途中から見えてきた小川の流れに夢中になっていると、背後からサフィーの声がして、十数メートル先に見覚えのある木が見えた。
聞きたいことがあったけど、一先ず忘れよう。うまく言葉にできない。
ネロの背から下ろしてもらい、木の下に座る。座るだけで、木になった実から甘酸っぱい香りがした。
それと同時に懐かしい気持ちと、あの"白黒の風景"が頭から離れない。
ここに来ると、俺は幸せだったんだ。
でも何で、だったっけ。
思い出せそうなのに、喉に刺さってとれない魚の骨みたいに、"あと少し"足りない。
「この凹みが橙色になってるのが甘くて美味いんだよな。」
「・・・・・・うん。」
「じゃあ、これだな。まず一つ目だ。ジェハが食べろ。」
「・・・・・・うん。」
サフィーに手渡されたココの実。
甘い実の見分け方をどうしてお前が知ってんだよ。
今度は何でそんなに、嬉しそうなんだよ。
お前一体、誰だ。
ごちゃごちゃした頭で、実にかぶりつく。
さっき食べた実と違って、甘味が強い。
そうそう、これ。
やっぱこの木の実が一番良い。がぶ、がぶ、と実を口に運ぶ。
果汁が腕にまで垂れてくると、隣に座ったジェハが俺の腕を掴み、小さく笑い出す。
突然笑い出したジェハを見て、いつかの強烈な既視感がまた襲ってきた。
「また、ジェハと・・・ここに来れて嬉しい。」
腕に垂れた果汁をぺろっと舐めるサフィー。
その顔が驚くほど優しくて、思わず見惚れてしまった。
俺が固まっていると少しずつサフィーの顔が近づいてきて、おでこがコツンと、くっつく。
「逃げなくて良いのか?」
そう言って、少し笑ったサフィー。
だけど俺は何も言葉がでてこない。
そんな俺の体をサフィーはそっと引き寄せ、唇に触れるだけのキスをした。
「俺は明日あちらに戻る。次の新月までに、返事をくれ。」
「・・・・・・うん。」
俺の口からようやく出てきた言葉は、これだけで、せっかくここまできたのに、結局食べた実は一つだけだった。
108
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。
みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。
男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。
メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。
奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。
pixivでは既に最終回まで投稿しています。
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる