【完結】ここで会ったが、十年目。

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いつもの食卓。
いつもの畑仕事。
いつもの川。
いつもの魚釣り。
いつものーーー・・・・・・



「自分達で魚を調達するのか。面白いな。」

「あっ!サフィー様じゃん。こんちは~!」

「・・・・・・はあ?」


いつもの昼飯調達光景に、めちゃくちゃ違和感のある人物登場。

ラフな白シャツを着て、腕まくりをして、少し額に汗を浮かべた赤髪の男。
白シャツを着ても尚、顔面が強い。
背後には、木に繋がれたネロの姿も見える。


どこをどう見たって、紛れもなく、サフィーだった。


開いた口が塞がらないとはまさにこれ。
釣り竿をうっかり離してしまったけど、川下側にいたリファがしっかりキャッチ。


あ、あれ?祭りの帰り際、俺から全っっっっっく離れようとしないサフィーに、また術かけて眠らせて、リファが「やっぱ可哀想・・・」とか言い出して、二人で山登りながらズーンってなってたの三日ぐらい前だよな?


あああ・・・っ!めちゃくちゃ嬉しそうな顔でこっちくるじゃん。


「ジェハ、今日もかわいい・・・!会いたかった・・・っ」

「なっ?!!サッ?こっ?!はあああ?!」

「"何でサフィーがここにいるのか"だってよ、サフィー様。」

「会いたかったからだ。」

「そっ!?きょっ?!えええ?!!」

「"そんなことある?許可もらえたの?"だって。」

「通訳助かる。・・・少し妬くがな。」

「あはははは!私にも妬くの?!サフィー様、相変わらず面白いねぇ。」



想像通り、俺を軽々抱えあげたサフィーの話によると『結婚前にジェハの普段の生活を知っておきたい』という理由で父上に許可をお願いしたところ、案外すんなり許可がおりたらしい。

・・・・・・え?そんなことある?
父上、突然ゲロ甘すぎない?




「俺にも釣竿それを貸してくれ。ほう・・・こうやって組み合わせて作ってるのか。興味深い。」

「まず、お、お、ろせ!!リファの、前でヤメロ!!」

「あら、まあ♡二人っきりにした方がいいかしら♡ね?サフィー様。」

「ああ、頼む。」

「焚き付けるな!リファァァァァア!!!!」



満足そうに弧を描く灰色の瞳。
綻ばせた顔を俺の胸元に顔を埋め、目一杯空気を吸い込んだ。
毎回『汗かいてるからやめろ』って言ってんのに『それがいいんだ』とか言うから、耳がぎゅーーっと熱くなる。



満足するまで俺の匂いを取り込んだサフィーは、ごく自然な感じで俺の頭にキスを落とすと、俺を地面にようやく下ろした。

後ろから『きゃ~~♡』と声を漏らすリファに、今度こそ顔に火がつきそうだった。


「しばらくこちらに滞在する。ジェハと一緒に仕事をさせてくれ。」

「・・・は?お、お前、馬鹿なの?帝国の皇族が、」「えええええーー!それ、めっちゃ助かる!!私とジェハじゃ、なかなか力仕事が捗らないから溜まってるんだ~!!ね!ジェハ!」

「・・・・・・・・・そ、うだけど・・・」


サフィーの方をチラリと見る。
俺と目が合うと『どうした?』と問いかけるように首を傾げたサフィー。

帝国で何不自由なく暮らしてきただろうに、なんでこんな不便極まりないところまできたんだよ。
あっちで待っとけば、俺そのうちそちらに嫁ぎますけど。

小っ恥ずかしくて、もごもごする俺の考えていることが伝わったんだろう。
サフィーは俺に近づいて、"コツン"とおでこをくっつけた。


「俺はジェハと居たい。」


至近距離で見るサフィーの瞳は、相変わらず吸い込まれそうなくらい綺麗で。



「・・・・・・容赦なく働かせるからな。」

「ジェハと一緒なら、喜んで。」



そんなに嬉しそうにすんな。
耳も顔も首だってきっと赤いのに、俺はこれ以上どこを赤くすりゃいいんだ。


「さあ、まずは魚の獲り方を教えてくれ。山道の乗馬は・・・久しぶりで腹が減った。」

「釣りは私のほうが得意だから任せて~!」

「ネロにも何か食わせてやれよ。腹減ってんだろ。めっちゃこっち見てるぞ。」

「あれはジェハを見てるんだろう。主人に似てるからな。」

「・・・・・・っ、馬鹿か?」

「馬鹿でいいさ。」

「あら、まあ♡」



リファは俺から睨まれる前にすたこらさっさと川に向き合い、サフィーを呼びつけ釣りを教えていた。


顔面が強い男は、運も強いらしい。
大量の川魚を釣り上げて、ドヤ顔のサフィーから抱き上げられるのは、この後割とすぐのことだった。




---------------------------



「呼んだ覚えはないのだけれど。」

「許可は取った。しばらく世話になる。」



焼き魚を食べ、畑仕事、山菜をとって、とんでもないスピードで薪割りを済ませる。
そして薪小屋の補修までこなしたサフィーと共に一先ず帰宅。


何とこの男、我が家に泊まるらしい。


玄関戸を開けると、我らがボス、母上が立っていて「おっふ」と息が漏れた。
二人は面識があるらしい。一人で母上が城に(殴り込みに)行った時にかな?
空気がピリッとした後『ロイ、部屋に案内して』と母上は居間へ行ってしまった。


「・・・本当、変わらないな。あの人は。」

「・・・・・・?」

「サフィー様の部屋、ジェハの隣でいいじゃん!昔の私の部屋だけど~。」

「なっ、か、勝手なこと言う、」
「ありがたい。ロイ、案内してくれ。」

「かしこまりました。」

「??!ロイ?!!」


話がどんどん進んでいき、サフィーは俺の隣の部屋に少ない荷物を置くと、居間にいた父上と話をしていた。何の話かは知らない。


そしてそのまま一切の遠慮なく俺の部屋に入ってきたサフィー。


「ジェハの匂いでいっぱいだ。」

「妙な言い方すんな!!!」

「それはそうと、またあの術を俺に使ったな?」

「・・・・・・お、まえが離れねぇからだろ。」

「起きた時の絶望感を、教えてやれないのが残念だ。」

きゅっと眉を寄せたサフィーは、俺の腕を引きよせた。
近付いたサフィーからは少し汗の匂いがしたけど、嫌な感じは全くしない。

それどころか、また俺の心臓を揺らすんだから、本当困ったもんだよ。


「泣くなよ、筋肉馬鹿。」

「俺が泣いたら慰めでもしてくれるのか?」


どう答えていいか迷った挙句、『本当に泣いたらな。』と小さく答えた俺を、嬉しそうな顔でサフィーは抱きしめた。



とくとくと、少し早い胸の音が心地よくて、自然と俺もサフィーに腕を回そうとしていた時。

「先にお風呂入ってね~!・・・あ!勿論二人で入ってもいいから♡」

「いいな、それ。」
「ぎゃ~~~~~~!!!」


いつの間にかそーっと扉を開けたリファがニヤニヤしながら背後に立っていて、変な汗がしばらく止まらなかったのは、勿論行き場をなくした腕を"ばんざーーい"と伸ばしたこの俺である。
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