上 下
9 / 54

しおりを挟む
「アル、迎えに来たよ。今日はまずダシュリー先生のところへパートナーの登録届を出しに行こう。」


【天下の二年ステラ組】が、かつてこんなにざわついた事があっただろうか。


放課の鐘と同時に俺の教室に現れたフィンリー・エバンズ。
・・・まさかの転移魔法かよ。
それはそんな気安く使える魔法じゃない。魔力お化けじゃねぇか。
現れたフィンリー・エバンズを見て「本当にパートナーになったんだ・・・」「こんなに近くでエバンズ様見るの初めて」「最早彫刻の美しさ・・・」と普段割と落ち着いているクラスメイト(今日に限り終始落ち着きはなかった)でさえ騒ぎ出す。

一方、俺は先日チョコレートを漁られたあの鞄を片手に「NO!」という態度をあからさまに出した。
それでも、約3m前のフィンリー・エバンズは嬉しそうに微笑んだままで、俺が側に来るのを今か今かと待っている。

・・・なあ、今気づいたけどそのネクタイピン、俺のだよな?見当たらないと思ってたけど、犯人やっぱお前かよ。
そんなボロいの公爵家が用意する訳ないよな。明らかに俺のじゃん。

あ。俺の視線に気付いた。
前髪の隙間から見てんのによくわかっ・・・・・・え?!
おい!フィンリー・エバンズ!!それ、お、俺の、ネ、ネ、ネクタイピン!!そ、そ、そんな愛おしそうに撫でんな!!触んな!やめろ!


このストーカー野郎め!


「・・・・・・・・・・・・・・・行かな」「行きます!行きます!アルフレッド君はすぐ行きますので!」

「ピノ、邪魔すんな。やっぱこいつ一発蹴ら」「もう黙れって!あの件忘れたのかよ?!お前にとっても悪くない話だったろうが!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「アル?また体調でも優れないのかい?」

「・・・・・・・・・お前のせいだろ。」

「こら、アル!言い方!!」

「ふっ、ふふ。ロベルト君気にしないで。じゃあ行こうね、アル。」

「・・・・・・なんて寛大な方だ・・・っ」

「?!ピノ!騙されんなよ!こいつはなぁ、」


後ろに居たピノの方を振り返り、フィンリー・エバンズへの怒りをぶちまけようとした時、突然後ろから俺の腹あたりに手が回され、身動きが取れなくなってしまった。

「んひっ」と思わず漏れかけた声(悲鳴)を必死に我慢して、手が伸びてきた背後をぎぎぎ、とぎこちなく振り返る。

目が合うと、にこりと微笑まれ急いで目線を元に戻した。
何という早業、いつのまに移動したんだ、フィンリー・エバンズ。
・・・そんでもって力まで強いのかよ、全く腕が解けねぇ。


俺が腕の強さに気を取られていると、ぎゅっと包み込まれるように抱きしめられた。
また漏れかけた悲鳴を口の中で必死に留め、ごくりと飲みこむ。


「・・・アルの口から他の男の名前をあまり聞きたくないなぁ。」


小さな小さな囁き声だった。
本当に俺しか聞こえないくらい小さな声なのに、どこか圧がある。
堪らず背中がぞくりとして、もう一度フィンリー・エバンズの方を振り返った。

・・・さっきよりも顔が近い。めちゃくちゃ近い。
菫色の瞳の奥で、何か恐ろしいものが揺れている。
こいつ・・・やっぱヤバい。
俺なんかのストーカーするぐらいだ。
分かってた・・・、分かってたけど・・・っ!


でも傍から見れば、そうは見えないらしい。

フィンリー・エバンズからの突然の抱擁に、周囲からは悲鳴が上がりっぱなしだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...