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エドワードくんと初めて出会ったのは中央の街外れにある古い図書館だった。

図書館自体は小規模だけど、魔法や魔法動物に関する蔵書の数は国でも指折り。
読む人が限られる専門書ばかり置いた図書館で利用者はそれほど多くなく、いつも穏やかで過ごしやすい場所。

非番の日はここで魔法動物に関する本や文献を時間の許す限り読み漁るのが僕のお決まりの過ごし方だった。


そんなある日、あまり素行がよろしくない人たちが図書館に現れた。
本を読むどころか乱雑に扱って、職員に横柄な態度。
ここは酒場じゃないのは子どもでもわかることなのに、無断で持ち込んだであろうお酒を本に溢したのをきっかけに僕の怒りは最高潮。

これは二度とここに近付けないように実力を行使するしかないと席を立った矢先、どこからともなく現れたエドワードくんが彼らを瞬く間に図書館から引き摺り出して、ボコボコに成敗していた。

駆けつけた騎士が勘違いしてはいけないと思い、経緯を説明する役を買って出て────目撃者も多い上に彼自身が騎士で説明の必要はなかった────、引き渡すところを見届けて帰ろうとしたところ、後ろから両肩を掴まれてビックリ。

慌てて振り返ると、立っていたのは手柄を立てたばかりの赤髪の彼だった。



「あ、危ないこと、しないでください・・・っ!」

「・・・僕こう見えてとっくに成人してますし・・・大丈夫ですよ?」

「ダメです!あなたが怪我でもしたら大変ですから!」

「は、はあ・・・」



さっき集まっていた野次馬たちが口々に言っていた。
この人、巷では有名な騎士で相当強いらしい。
新聞にもよく載ってるって言ってたけど、僕はいつも魔法動物関係の記事しか読まないから知らなかった。

・・・で、そんな有名人が何でこんなに顔真っ赤なの・・・?



「お・・・俺!危ないときはいつでも俺のこと呼んでください!」

「・・・あなたを?」

「あっ・・・、急すぎますよね、えっと、その・・・っ、お、俺、エドワード・リーと言って、第一騎士団所属で、警邏とか魔物討伐とか、やってるので・・・っ、割と体鍛えてて、だから、あのっ、」

「ふ、ふふっ」

「・・・へ?」

「あ、」



まずい。
こんなに大きな体を丸めてわたわたする姿が可愛くて、つい笑ってしまった。
何でもないです、と誤魔化したけど誤魔化しきれてはない気がする。だってもっとわたわたしだしたもん。



「・・・僕は中央観測所の研究員ルイス・フランです。図書館の治安を守っていただきありがとうございました・・・えっと・・・リーさん?」

「ぜひ!!エ、エドワード、と!!」

「・・・?エ、エドワードさん、ありがとうございました。」

「~~っ、こちらこそいつもありがとうございます!」

「いつも・・・?」

「・・・あっ!!?なななななんでもないです!!」

「そ、うですか・・・、ふふ、ふ、」

「・・・・・・っ!!」



そしてこの後、エドワードくんとは顔見知りになり、友人になり、たまにお茶を飲む間柄に。

彼は仕事柄この近くの鍛冶屋に寄ることが多いそうだ。
図書館で調べ物が捗って辺りが真っ暗になってしまった時だって、偶然帰りが一緒になったことがある。
紳士な彼は家までわざわざ送ってくれたんだけど、僕が宿舎ではなくとんでもないボロ家に住んでいることを知り、最終的には同居まで提案してくれた────────。








「あなたがロニー・アイリス様ですか?」

「ああ、初めまして。」

「早速ですが、その肩の手を退けていただけないでしょうか。」

「うちの管理課は秘密主義だから苦労したなぁ?中央はティンザードだけだが、東西南北はそれぞれ複数観測所が存在する。」

「・・・手を、退けていただきたい。」

「あいつらがこいつの配属先を外部に漏らすわけがねぇ。中型の竜を難なく一人で討伐する研究員なんざ、どっかの騎士団の小隊よりよっぽど強ぇからな。組織としては重要なわけよ。分かるか?」

「・・・・・・」



冷気は一切関係ない空気のピリつき。
そして、二人の会話に全くついていけない。

ベンチに座ったままのロニーさんを見下ろすエドワードくん、相変わらずかっこい・・・・・・じゃなくて、とんでもなく目が怖い。
片やロニーさんは余裕たっぷりニヤついていて、やけに好戦的。
兎にも角にもエドワードくんは僕の肩に置かれた手が気になるらしく、この距離で僕と目はまだ合わないけど、ロニーさんの顔とこの手を視線が行ったり来たり。




「それにしても竜の視察とは名案だ。合法的にリリスへ長期滞在を許される。」

「・・・ん?視察?!聞いてないですよ?!」

「馬鹿が。いつもの倍以上食料買い込んだだろうがよ。誰が食うんだ。」

「買い出し初心者にそれを言われましても・・・」



確かに物凄い量だなとは思っていた。
だって僕とロニーさんのペアだけじゃなくて、アルバートさんとディアさんのペアも別便で買い出しに来ている。
野菜に肉、果物(やったー!)に大量の小麦。
魔法で、ある程度は長期間の保存は可能だけどさすがにこの量を次の買い出しまでに食べきる・・・?の、謎はたった今解けた。


・・・あ、あれ・・・?
今の会話からすると一か月以上エドワードくんここに居るってこと?
だってすぐまたあの雪に閉ざされた期間突入なわけだし、この買い出しの量からすると・・・?

凶暴化した竜は討伐対象。
北に生息する竜は中型以上がほとんどで継続的な観察が必要だからこそ僕たちがいるわけで・・・?
まあ、た、確かに、中央ティンザードに居た頃も定期的に騎士が視察に来て魔法動物に関する情報提供とかはやってました・・・・・・ね。

・・・・・・んんん?



「三人と聞いていたが?」

「・・・すぐに合流します。」

「じゃ、俺たちは先戻ってるから・・・・・・行くぞ、ルゥ。」

「・・・(ボー)・・・」

「おい、ルゥ。」

「・・・え?!もしかして、ル、ルゥって僕のことですか?!」

「ほら、立て。それとも手繋ぐか?」

「??!いいえ??!」

「・・・くは、はは、おもしれ~」

「???あ、ま、待って、ロニーさ、ん゛!?」



繋ぐ気なんか微塵もなかった両手をポケットに突っ込んで、ソリの方へスタスタ歩き出すロニーさんを追いかけようと立ち上がった瞬間、押さえつけられた両肩。
そのままストンとベンチに戻る羽目になった僕は、上を向くことができず彼の分厚いブーツを見つめた。

ああ・・・!鳴るな、騒ぐな、僕の心臓。



「・・・無事で、よかったです。」

「・・・あ、う、うん。えっと・・・・・・き、君も元気そうでよか、」

「そう見えますか?」

「・・・え?」

「ルイスさんからは俺が元気そうに見えるんですか?」



あまりにもか細い声を辿って、彼を見上げる。
キュッと真っ直ぐ結ばれた口元は微かに震えていて、青い瞳には影が差す。
僕は無意識に目の下にできていた隈に手を伸ばしていて、触れる直前ビクッと大きく揺れたエドワードくんの体で我に返り、慌ててその手を引っ込めた。


ソリの方から広場中に響き渡る大声で新たな僕の愛称を呼ばれ、肩に乗った手から逃げるように今度こそ立ち上がる。


ごめんなさい、と頭を下げた僕にエドワードくんは何も言わなかった。















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