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「はあああああああ・・・・・・」

「・・・リシェル様。戻った早々そのように長いため息をつかないでください。」

「だってぇ・・・だってぇ・・・無理だよぉ・・・」

「はいはい。私が全て聞いて差し上げますから。まずはお召替えを。」

「・・・はぁい・・・ありがとう、サーシャ。」



リシェルのホームである離宮に戻れたのは、あれから半日以上経った後。
グラッツと出発した時は朝晴れの澄んだ青だった空が、すっかり橙色に染まっている。



わざわざ王宮に呼ばれた要件は意外にもすぐに済んだ。
内容はまあ・・・・・・リシェルのため息でも伝わるようなものだったのだが。

そしてしょんぼりとして、離宮へと戻ろうとした時、ある人物に捕まってしまい、こんな時間まで離してもらえなかったのである。


----------------⭐︎



「リシェル、待って。折角会えたのだから庭でお茶でもしよう。」

「・・・・・・い、いえ、僕のような者が・・・その・・・」

「やだなぁ、いつも言ってるだろう。私達は兄弟なんだから遠慮しないで。・・・兄さんって呼んでよ。ね?」

「・・・ルイーズ様・・・ぼ、僕は・・・」

「兄さん、だよ。リシェル。」

「・・・・・・ルイーズ、に、兄様・・・」

「うん。それでいいよ。さ、こっち。」




美しく風に靡く銀髪に、澄んだ海のような青色の瞳。

ふわりと、微笑んだ美しい青年は、半ば強引にリシェルの小さな手を握ると、嬉々として歩き出す。

第一王子のルイーズだ。

リシェルはチラリとグラッツを見たが「諦めなさい」と言わんばかりに小さく首を振るのが見えた。



執務、他国への視察、・・・と忙しい合間に、何かとリシェルへ贈り物をするルイーズ。
以前はリシェルへの接触もほぼ無かったのだがリシェルが十八歳成人を迎えてから、がらりと様子が変わった。


リリベットと第二王子のアルジャーノは、リシェルを毛嫌いしているため、ルイーズのこの態度は新たな嫌がらせなのか?と疑ったこともあるリシェルだが、どうもそういう訳ではないらしい。




「その服、よく似合ってる。」

「あ・・・ありがとう、ござ、います。その・・・こういうちゃんとした服は持っていなかったので、ルイーズさ・・・兄様の贈り物から選ばせていただきました。」

「うん。私以外が選んだ物はリシェルには相応しくないからね。必要な物があればいつでも言うんだよ?」

「い、いえっ!もう十分戴きましたから・・・っ、」

「ふふ、リシェルは欲がないなぁ。そういうところが可愛いんだけれど。」

「・・・っ、そ、そんな、ことは・・・ない、で、す・・・」

「そう?じゃ、いつでも言ってね。」

「は・・・い。」



うっとりとした顔で頬杖をつき、紅茶を飲むリシェルを眺めるルイーズ。
その顔はリシェルの一つ歳上だとは思えない程、色気があった。


あの時。
リシェルの手を引くルイーズを見た瞬間リリベットもアルジャーノも何か言いたげな鬼のような顔だった。
だがそれもルイーズがそちらを一瞥したあとすぐにおさまった。
ルイーズがどんな顔でそちらを見たのか、リシェルからは見えなかったがその視線を向けられた二人の他に、周りにいた護衛騎士達の顔色が悪くなるほど魔力を使っていたのは確かだった。





「・・・早く私のものにならないかなぁ・・・」




テーブルに並べられた色鮮やかなスイーツをキラキラした目で見つめるリシェルを見ながら小さな声で呟いたルイーズの言葉に、リシェルは全く気が付かなかった。
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