上 下
1 / 6

しおりを挟む
目が開けられないほどの青い空。
舞い上がる土埃。
止まらない汗。
頭にはバケットハット、目にはサングラス、首には推しバンドのマフラータオルに、勿論バンドTに短パン。



辺り全体を支配したかのような、音に合わせて揺れる空気。

知らないバンドだったけど、今年のオープニングアクトは当たりだな。
ありがとう、腹に響く重低音。ご馳走様です。


一杯目のビールが全身に染み渡るぜ。



「あっっっっっっちぃぃい~~~~!最っっ高!!」

「田植えフェス危機だったけど、台風逸れて本当よかったな。」
(※雨でぬかるんだ状態のフェスを田植えフェスと言います)

「ま、田植えでも楽しむ自信あるけど。」

「いや、俺もだし。今からでもどんとこいや。」

「長靴もカッパも傘も全部駅のロッカーに置いてきたLevel.1の村人にそれ言う?」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

「「アハハハハハハハハ!もう何でもいいや~~!楽し~~~~!」」




アラサー男二人、青空に向かってビール入りプラカップで乾杯。

朝のシャトルバスで俺と同い年くらいの子連れパパさんに『タオル落としたよ、お兄ちゃん。』ってめちゃくそ年下扱いされたし、このビール買うのにも身分証出すまで、頑なにヤンキー兄ちゃん俺にビール売ってくれなかった。


だが、俺にとってそんなもん日常茶飯事。
今日はもうどうでもいい。(と言いながら根に持つアラサー)




俺は年に一度だけ、子どもに戻る。
今日一日、この音楽と匂いを全身の細胞の一つ一つに取り込んで、また来年まで頑張るんだ。


すーはーすーはーすーはー・・・



「で、颯太。結局今日どこで休憩?休憩無しは死ぬで?俺、ジェホとmimiは譲れん。」

「は?俺だってドニヘルとriperは譲れん。」

「「・・・・・・・・・じゃ、今日が俺らの命日かぁ。」」



うふふ。それも仕方ない。
だって颯太じょーは幼馴染だと言えどもさすがに推しが若干違う。

しかも昨日も俺はテッペン過ぎるまで仕事してたし、酒も飲んじゃった。
・・・わぁ♡熱中症ぶっ倒れフラグ立ってる~・・・


「ま、イケるしょ。まだ俺ら30歳だし。」

「・・・穣と違って俺はまだ29歳ですけど?」

「へぇへぇ、誤差誤差。それよりストレッチしたか?今年はサークルで転けて足挫くなよ?」

「・・・・・・・・・デケェ声で言うなよ。黒歴史だろ。」

「今年はもうおんぶしねぇからな。爺ちゃん。」

「ほら行くぞ、三十路。」



穣とはいつもこんな感じだ。
穣は就職と同時に隣の県に引っ越した。
だからたまにしか会えない。
今日だって現地集合、現地解散。
お互い違うシャトルバスで来て、またバラバラに帰る。
俺のアパートはこの会場から比較的近いから、ヘッドライナーからの終演花火まで全部余すことなく見届けた時間のシャトルバスに乗っても、余裕で0時前に家に着く。

ちなみに、穣は明日仕事らしい。
お互い社畜すぎて嫌んなるぜ、ほんと。



「さて!生の音楽を楽しむとしますかね!」

「出陣じゃーーーーー!」



そしてこの出陣で、ある意味大敗を喫するのだが、推しのバンドタオルを首に意気揚々と巻いたこの時の俺は、まだ知る由もない。



-----------------⭐︎


「出陣ってワードがなかなかダセェな。」

「ウルセェ。」


-----------------⭐︎


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

そういった理由で彼は問題児になりました

まめ
BL
非王道生徒会をリコールされた元生徒会長が、それでも楽しく学校生活を過ごす話。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

【完結・短編】もっとおれだけを見てほしい

七瀬おむ
BL
親友をとられたくないという独占欲から、高校生男子が催眠術に手を出す話。 美形×平凡、ヤンデレ感有りです。完結済みの短編となります。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...