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1章
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僕はやることがなくなった。確かに疲れてはいるが、好奇心が勝った。
部屋を出て探検に行こうと決めたのだ。ドアに耳を寄せて誰も来ないことを確認する。
音を立てずにドアを最小限開き、すぐに閉めた。廊下には階段が見える。
しかし下へ行けば、ファイに遭遇してしまうだろう。きっと食事は下で作るだろうから。
同じ階には部屋がいくつかあったが、扉が閉まっていて人がいるのかすらわからなかった。僕は上の階へ進んだ。
何やら話し声が聞こえる。階段を上がると、一つの部屋から光が漏れていた。
おそらくそこから声が聞こえてくるのだろう。
そっと近づきドアの後ろ、漏れる光が当たらないギリギリのところへ移動した。そして耳を澄ませる。
「まったく、あいつはろくなことをしない。どこの馬の骨かもわからないような奴をこの屋敷に入れるなんて。どうせすぐ捨てる女なんだろう。そう思わないか、トゥリー?」
「・・・私はそうは思いません。今回の事情は私にもわかりかねますが、どうやら何かしらの覚悟があるように思えます。あれほど真剣なファイ様を見るのは、初めてです。」
これは、僕の話だろうか。
多分、最初に話した方がファイの父親だ。そして次に話した人は執事だろうか。
僕には執事がいたこともないからわからないけれど。そんな気がした。
ふと、沈黙が長いように思えた。僕は少しだけ部屋の中を覗こうと、ドアの隙間から見た。
背を向けている男と椅子に座っている男がいる。そして目が合った。体が動けなくなる。だがそれも一瞬だった。
僕はすぐにファイの部屋へ戻ろうとした。いつものように動こうとしたが、体がついてこなかった。
「あっ・・・」
よろけた。だが、すぐさま抱きかかえられた。見上げるとどうやら執事らしい。僕は小さな声で礼を言った。
「ありがとうございます。」
そのまま立ち去りたかったが、執事らしい男がそうはさせなかった。
そのまま僕の手を引っ張り、ファイの父親らしき人物の前に立たせた。何を言えというのだろう。
僕がおどおどしていると目の前の男が話しかけてきた。
「そんなに怯えなくてもいい。さっきの話を聞いていたのか?」
「あ・・・はい。で、でも、僕は女じゃなくて男です。それに出ていけというのなら、すぐにでも出ていきます。」
心では先程のファイとの約束を破ることになる、と罪悪感を抱いていた。
しかし口では淡々と話していた。男は不思議そうな表情を浮かべている。
「男?」
「男だよ!あっ、男です。」
反射的に答えてしまった。いつも初対面の人に言われるのだ。
そこまで女顔じゃないと思うんだが。鏡なんて持ってないから、自分の顔もあまり見ないけれど。
男は僕の反応に驚いたようだった。そしてなぜか笑っていた。
「そうか。いや、いいんだ。それより、まるで出ていけと言って欲しそうじゃないか。」
鋭い目で僕を見る。
確かに言って欲しいと少し思っている。出ていけと言われたら、僕はあのファイの赤い目を見なくて済むだろうから。
あの目は僕をおかしくさせる気がする。それにこの男は、僕がここから出ていくことを望んでいるはず。
それだったら、それに応えようかと思ってしまったのだ。
部屋を出て探検に行こうと決めたのだ。ドアに耳を寄せて誰も来ないことを確認する。
音を立てずにドアを最小限開き、すぐに閉めた。廊下には階段が見える。
しかし下へ行けば、ファイに遭遇してしまうだろう。きっと食事は下で作るだろうから。
同じ階には部屋がいくつかあったが、扉が閉まっていて人がいるのかすらわからなかった。僕は上の階へ進んだ。
何やら話し声が聞こえる。階段を上がると、一つの部屋から光が漏れていた。
おそらくそこから声が聞こえてくるのだろう。
そっと近づきドアの後ろ、漏れる光が当たらないギリギリのところへ移動した。そして耳を澄ませる。
「まったく、あいつはろくなことをしない。どこの馬の骨かもわからないような奴をこの屋敷に入れるなんて。どうせすぐ捨てる女なんだろう。そう思わないか、トゥリー?」
「・・・私はそうは思いません。今回の事情は私にもわかりかねますが、どうやら何かしらの覚悟があるように思えます。あれほど真剣なファイ様を見るのは、初めてです。」
これは、僕の話だろうか。
多分、最初に話した方がファイの父親だ。そして次に話した人は執事だろうか。
僕には執事がいたこともないからわからないけれど。そんな気がした。
ふと、沈黙が長いように思えた。僕は少しだけ部屋の中を覗こうと、ドアの隙間から見た。
背を向けている男と椅子に座っている男がいる。そして目が合った。体が動けなくなる。だがそれも一瞬だった。
僕はすぐにファイの部屋へ戻ろうとした。いつものように動こうとしたが、体がついてこなかった。
「あっ・・・」
よろけた。だが、すぐさま抱きかかえられた。見上げるとどうやら執事らしい。僕は小さな声で礼を言った。
「ありがとうございます。」
そのまま立ち去りたかったが、執事らしい男がそうはさせなかった。
そのまま僕の手を引っ張り、ファイの父親らしき人物の前に立たせた。何を言えというのだろう。
僕がおどおどしていると目の前の男が話しかけてきた。
「そんなに怯えなくてもいい。さっきの話を聞いていたのか?」
「あ・・・はい。で、でも、僕は女じゃなくて男です。それに出ていけというのなら、すぐにでも出ていきます。」
心では先程のファイとの約束を破ることになる、と罪悪感を抱いていた。
しかし口では淡々と話していた。男は不思議そうな表情を浮かべている。
「男?」
「男だよ!あっ、男です。」
反射的に答えてしまった。いつも初対面の人に言われるのだ。
そこまで女顔じゃないと思うんだが。鏡なんて持ってないから、自分の顔もあまり見ないけれど。
男は僕の反応に驚いたようだった。そしてなぜか笑っていた。
「そうか。いや、いいんだ。それより、まるで出ていけと言って欲しそうじゃないか。」
鋭い目で僕を見る。
確かに言って欲しいと少し思っている。出ていけと言われたら、僕はあのファイの赤い目を見なくて済むだろうから。
あの目は僕をおかしくさせる気がする。それにこの男は、僕がここから出ていくことを望んでいるはず。
それだったら、それに応えようかと思ってしまったのだ。
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