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▲お話△
ヒトであってヒトでない、ヒト。
しおりを挟むビビが目を覚ました。ビビの上に冷やさないよう被せていたマーロンの上着は本人が体を起こしたことで半分ひっくり返されていた。
「ビビ、ビビっ」
優真はビビが体を起こしたところに駆け寄る。優真が手当されていた場所はビビからそう離れてはいないが、優真の配慮でビビからは見えずらい場所で行っていた。ひとえにビビの負担をこれ以上かけたくなかったという一心である。
《ユー、マ?》
「ビビ、痛いところはない?」
そっと、触れようとする手。魔法を使用していない今、それは空を切るばかり。その手が触れられることはなかった。
《……うん》
『良かったね、ユーマ』
その声に小さく頷く。そんな優真の後ろから近づく男。ビビはその姿を捕らえた途端に様子が一変した。
《にんげん……!いや、いやっ》
その言葉の節々に聞こえる震えた音。人に対する——恐怖。
「目が覚めたか。良かった」
近づく声にすぐさま反応する。
「い、今来ないでください」
「え、あ……あぁ、分かった」
マーロンの足音がそこで止まったのを確認して再度話しかける。
「ビビ、あの人は僕たちを助けてくれたんだ。悪い人間はもういないよ」
「オレ、ワルイニンゲン、ジャナイヨ」
後ろから変な裏声で呟いている。
「……」
「ゴメンナサイ」
死んだ顔でマーロンを見る。マーロンも申し訳なさそうに優真を見る。そういうことは今じゃないです。はい、すみませんでした。
《……ゃ》
とても小さく、それでも確かな拒絶の声。
「帰ろう。みんなが心配してるだろうから」
こうなれば時間が解決してくれることを祈るしかない。ほんの少しも傷が深くならないように。いつか少しでもいいから僕以外の人間と触れ合えるように。神様も仏様もそこまで信じたことはないけれど、もしもいるのならば、僕はどうなってでもいいからと……心の中で。
《ぉお~い!ユーマ!ビビ!》
遠くから僕らを呼ぶ声が聞こえた。探してくれていたに違いない。
「迎えが来たようだな」
「はい……ビビ、みんなが迎えに来てくれたみたい。籠をもって先に行ってて」
《……ユーマ、は?》
「僕も行くよ」
ビビは僕の声に小さく返事を返し、そのまま歩いて——いやほぼ逃げるように小走りな気がしたが——そのまま声のする方へ向かった。マーロンさんの姿を極力見せないようにするためである。
「ありがとうございました。それからすみません、さっきの……」
「いや、仕方のないことだ。こんなことがあったらトラウマになるのも仕方ない。俺が悪かったからな」
この人はやはりいい人。必要以上に疑う必要はなかったかもしれない。
「それでは」
「ああ……少年!」
その声に振り返る。大きくはないが、芯のある声。
「名前を教えてくれないか?俺はまだ数日ここをうろつくつもりだ。まあ、俺も大人だ。何かあれば力になれると思う」
初めてこの世界で出会った最初の獣人以外の人間族。その男の人の名前はマーロンさん。まだ、少ししか話せなかったけど。初対面でもすぐに仲良くなれそうな人だと思う。少し変な人。
「優真です」
「ユーマか。覚えておくよ」
また会えるかな。いや、もう会えないと思っておくべきか。
「(……森の外、広いのかな)」
《ユーマ!》
やはり村の人たちが探しに来てくれていた。各々不安そうな声や僕やビビの姿を見て安堵する会話が聞こえる。ここまで心配してくれているのは、1年前のデジャヴな気はしているが、少し嬉しかった。村に戻ればほぼ村人全員が門前に集まっていた。勿論、ガロスさんの姿もあったし、僕を呼んだ声の主であるジークスさんも僕が戻ってきた途端に家族より速く僕の前に来ていた。掻い摘んで一連の出来事を話すと、分かったと一言だけ残して重役らを連れて話し合いに行ってしまった。漸く家族と合流し兄妹に抱き着かれ、心配した、や無事でよかった、など優しい言葉に支えられ、温かい空気を感じるほど、村に入ってすぐに姿が見えなくなったビビが気がかりになった。
「あの、ミューラ姉さん」
《どうしたの?》
「ビビはどこで暮らしているんだろう」
その言葉にミューラ姉さんは決して明るくはない声で答える。
《村の外れにある家に住んでいるの。アーラスさんっていうおじいさんと一緒に暮らしているわ》
アーラスさん、初めて聞く名前。1年ここに暮らしていても聞かないなんて。
《一人で過ごしたい人なのかしら……滅多に現れない人なの。あまり体が丈夫じゃないはずなんだけど》
ビビを引き取ってすぐに体を壊しちゃってね、とここで会話を終えてしまう。その後も優真は家族との時間を過ごした。その夜、優真は布団の上に座って悩んでいた。
『ユーマ?どうしたの。また倒れたら大変だよ』
「あ、うん。でも今はそんなに軟弱じゃなくなったんだけどね……ビビのことがずっと気がかりで」
『ビビのこと?』
優真は頷く。ビビと優真はどこか似ている、と考慮し接していた。しかし、この村に来て優真自身は救われる想いばかりの体験だった。苦しいこと今日のような危機的な出来事もあった。救ってくれる人がいた。心優しい人がいた。
「(ビビもそういう人が居てくれたのかな)」
どうなんだろう。
『ほら、おやすみ。ユーマ』
「うん……おやすみ」
明日はビビのところに行ってみよう。風邪とか引いていないといいな。優真はビビのこと、未だ会っていないアーラスという人物のことを想像しながら次第に意識を手放した。
息苦しさを覚える。重圧。黒く淀み、閉ざされている。何かが、聞こえてくる。詳しく聞くことは出来ない。しかし、逃れられないと思った。逃げることは許されない、そう言われている気がした。
人の姿を見た。腰を曲げ、杖を突いている年老いた男とも女とも判別がつかない人。誰も寄せ付けない雰囲気。声が聞こえる。張り付くような、耳にこびりつく、震えた声。老年相応しい声。
ああ、恐ろしや。恐ろしや。獣人は獣であると人が言う。人を人と思わぬ外道共。
哀れな。お前も人に虐げられたか。傷が酷い……こちらへおいで。
人に近づくでないよ。また拐われてしまうからね。狩り?ああ、お前も雄だね。仕方ない、大人たちと共に行っておいで。
ああ、憎い……なぜ人の子を。人族は悪さ。お前もそう思わないかい。
人の子……人の子……ああ、その齢で村の中に居座るか。村もこれで終わり。人が来る。壊される。壊れてしまう前に……
ああ、恐ろしや。お前も人に会ってしまったか。怖かったろう。あれが引き寄せたのさ。それもこれもあれのせい。
あれは平穏を崩す。もはや悪魔ではなかろうか。盲じていようとも。ああ、忌々しい奇異なる人の子。
ああ、恐ろしや。恐ろしや。片腹憎い。
そうは思わぬか。
悪魔よ。
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