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第一章 2人の約束

1、プロローグ

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『ぼくもハルトせんせーみたいな、
やさしくて、ちからがつよくて、
あとねーすごいせんせーになるぅー。』
『ありがとう、カズミくん。せんせい
…うれしいよ。』
また、懐かしい夢をみた。
俺が小さな時にはほとんどの保育士さんが
女性だった。
男性の保育士さんがまだ少ないというより
ほぼいなかった時代だった。
女性の担任だった先生に赤ちゃんが
出来たとの事で産休の間、男性の
優しい保育士さんが担任になった。
名前はハルト先生。
いつも順番に2人一緒に抱っこや、
1人はおんぶしながら抱っこしてくれた
力持ちで優しい憧れの男性の先生だ。
名前はハルト先生。憧れ続けていた
先生なのになぜか、苗字は忘れてしまった。
俺はハルト先生が大好きで四六時中ベッタリ
だったはずなのに、好きな先生の苗字を
なぜか思い出せなかったのだ。
産休をとっていた先生には悪いが、
戻ってきた先生と入れ替わりに、
辞めてしまうハルト先生から離れたくなくて
『ハルトせんせーすきだから、
ボクもつれていってぇー。』って内容の事
言いながら泣いて困らしたなぁ。
きっかけはその、ハルト先生に憧れて、
保育士を目指し念願の資格を取得したのだ。

現実は甘くなくて、認可の降りた保育園や
託児所は働けず、無認可の0歳児から
預かっている託児所で働いていた。
夜勤担当で、お泊まり保育の赤ちゃんから
3歳児が中心の託児所。
そこで働いていたからか小さな子を
寝かしつけるのは上手くなった気がする。
だがたまには、明るい時間帯にのびのびと
元気よく遊んだり、一緒にお遊戯や
お絵かきなど子どもたちと話したい。
出勤すると、調理担当の職員から夕飯を
受け取り子どもたちに食べさせてながら
自分も食べる。
手分けしてお風呂に順番に入れる。
そして、時間に追われながらの寝かしつけ。
遊び疲れた子どもたちの寝顔を見ながら
日誌を書き、検温、戸締り、連絡の受付、
お預かりやお迎えの家族さんなどの
対応が俺の仕事。

たまに泣きグズリの子をあやしながらの
添い寝をする。
うっかり寝てしまう事もあるが
拘束時間は長いし休憩込みの勤務だから、
文句を言われたことはない。
というか基本、夜勤者は1人だ。
今日も誰も体調不良をおこさず過ごせた。
朝の調理の方が出勤し、ご飯が出来る
少し前に、子どもたちを起こし
朝の慌ただしい準備をする。
朝ごはんを食べ、引き継ぎをし無事勤務完了。

仕事場から徒歩数分で駅に着くと携帯を
忘れた事に気づいた。
特に用事もないしヒョロガリな俺、
身長も168cm。非モテの独身の俺は、
来た道を急ぐ事もなく戻り、
仕事場に戻ったのだ。
戻ると知らない男性と職員が揉めていた。
「どうなさいましたか?」
「おい、お前が責任者か?」
「いえ違います。」
相手はかなり怒っているし、
アルコールの臭いがした。
「責任者を出せ。俺は、シノダ ケイを
迎えに来ただけだ。早く渡せ。」
明らかに怪しい人物。
「申し訳ございません。初めて拝見する
お方には親御さんからの直接の連絡や確認、
委任状を提出して頂く決まりですので、
申し訳ございませんが、今、確認させて
頂いておりますので……。」
丁寧な挨拶と笑顔を心がける。
「ふざけんな。お前が知らんだけで
アイツは俺の子どもだ。」
相手は大声でずっと怒鳴りっぱなしのため
周りから悲鳴が聞こえた。
こんなヤツに渡すわけないだろうが、
バーカ!!って心の中で毒づきながら
丁寧かつ冷静に対応していたのだ。
今のところ、男性職員は俺だけだし、
"か弱い者、女性や子どもは守らなきゃならない"
と親父からずっと言われ続けていたのだ。

他の職員が素早くカーテンで仕切ったものの
声だけは、残念ながら聞こえていたのか
子どもたちの泣き叫ぶ声が、聞こえている。
"俺が、守らなければ。"
お世辞にも治安はいいとも悪いとも
言えない土地柄と無認可の託児所。
色々な事情を抱えた親御さんが、割高な
24時間の無認可の託児所に子どもを
預けて働いている。
"シノダ ケイ"と呼ばれた子もよく
お泊まり保育の常連というか、
連続お泊まりは当たり前の子どもだった。
シングルマザーの親を持ち、お仕事柄なのか
いつもアルコールの匂いをさせながら、
お迎えにくる親御さん。
名前はシノ「タ」ケイ。
男性がお迎えに来たことは一度もない。
トラブルに巻き込まれそうなのに
こんな男に、子どもらには手出しさせない。
通報したサインの赤い札を他の職員が
こっそり俺に見えるように
サインを送ってくれた。
あとは、警察が来てくれるのを待つだけだ。

"シノタ ケイ"の親に連絡がとれたのか、
お迎えは明日の朝との事だった。
俺はなるべくゆっくり、丁寧に
相手に伝えようとした。
「申し訳ございません。確認させて
いただいたところ、お子様をお返し
出来ませんので、お引き取り下さい。」
「……ふざっ……。お前も…アイツも。」
男はブツブツ言いながら、いきなり
胸ぐらを掴んできた。
周りからの悲鳴、痛み、俺は殴られたのか?
目の前が暗くなってきた。
悲鳴と誰かの泣き声を最後に
俺は眠ってしまったのだ。
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