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運命の二人
4-5 激流槍
しおりを挟む幸夫達Aランク隊員が深奥部に居るAランク喰魔と接触したとき、春達の居るB班は現れた喰魔達と戦闘を開始していた。
隊員達は喰魔に向かって魔法を放ち、喰魔達も魔法防衛隊員に魔法を放つ。
互いの魔法が飛び交い、各所で小さな爆発が起こる。
戦場は混戦を極めていた。
「っ!」
「オラァ!」
闇を纏った春の拳と雷を纏った十六夜の拳が喰魔へと突き刺さる。
春の拳は喰魔の体を砕き、十六夜の拳は喰魔を雷で感電させる。
そして、二体の喰魔はそのダメージに耐えきれず消滅した。
その近くで上空を舞う鳥型の喰魔が三体。
獲物を探していた三体は拳を振るった直後の二人に狙いを定める。
が、すぐに白い光の刃と炎の弾丸によって体を貫かれ、呆気なく消滅した。
そして、光の刃と炎の弾丸を放った耀と篝は空を飛んでいた喰魔達に向けていた自分の武器を下げた。
「凄い数ね」
「もう目が回りそう」
篝と耀が目まぐるしく変わる戦況に弱音に近い言葉を漏らす。
そんなとき、背後から二体の犬型の喰魔が二人へと飛び掛かった。
「「グワアァァァ!」」
「「ッ!?」」
喰魔の声に耀と篝は慌てて後ろを振り向く。
普段なら気づけただろうが、閉鎖された洞窟内のあちこちで魔法が飛び交う状況では雑音が酷く、魔力感知も上手にできていなかった。
二人が後ろに振り向く頃には遅く、二体とも眼前にまで迫っている。
そして、二体とも魔法によって爪が他の個体に比べて刃物のように伸びていた。
喰魔の凶刃が二人に向かって振り下ろされる。
その瞬間、春と十六夜の二人が喰魔の背後に現れる。
そして、二人は喰魔に向かって魔法を纏った拳を振り下ろした。
「「させるかっ!」」
「「グギャ!?」」
振り下ろされた拳に喰魔達は苦悶の声をあげ、ダメージに耐えきれずに消滅する。
それを確認すると春は襲われそうになっていた二人に声を掛けた。
「二人とも大丈夫か!?」
「怪我は無えか?」
「うん。ありがとう春、十六夜」
「助かったわ」
耀と篝の無事を確認し、春はホッと胸を撫で下ろす。
そして、十六夜は辺りを見渡して状況を確認する。
未だに混戦が続く戦場を見て、十六夜は他の三人に作戦の提案をした。
「こんな状況だ。あまり離れずにお互いをカバーできる距離を保とう」
「「「了解」」」
十六夜の提案を三人は即座に了承した。
※
そして、同じくB班が戦う洞窟の外に繋がる通路入り口。
その入り口付近で、Cランク隊員である只野優馬が三体のCランク喰魔の前に立っていた。
「君達の相手は僕だよ」
そう言うと優馬は魔法で作り出した青い三叉槍の矛先を向ける。
その三叉槍に対し、喰魔達は苛立ちを表すように唸り声を上げた。
「「「グルゥゥゥ………!」」」
三体の内二体が熊、残りの一体が虎と酷似した見た目をしていた。
喰魔達は槍を構える優馬に向かって魔法を放つ。
まず、熊型の喰魔達が爪を振り下ろし、その爪から風の斬撃を放った。
放たれた二つの斬撃は地面を削りながら優馬へと進んでいく。
その斬撃の跡を優馬は目で捉えると二つの斬撃の間を縫うように避けていく。
そして、斬撃を避けた優馬の脇に虎型の喰魔が移動し、雷を纏った牙を剥き出しにする。
優馬は槍の柄の部分で顎をかち上げることで喰魔をひるませ、雷を纏った牙を回避した。
その後優馬は後ろへと跳躍し、虎型喰魔から距離を取る。
そして、喰魔達の魔法について考察を始める。
(熊の二体はおそらく風魔法。虎は雷魔法か………。雷は相性が悪いし、虎の動きも俊敏で厄介になるだろうから先に倒す!)
虎型の喰魔の魔法が自分とは相性が悪い雷魔法であることを確認すると、優馬は真っ先に倒すと決める。
優馬が標的を定めるのと同時に熊型喰魔が再び腕を上げ、爪から風の斬撃を放つ準備をする。
その動作を優馬は視界の端に捉えると三叉槍を地面へ突き立てる。
すると、熊の喰魔達の足元から間欠泉のように水が地面から噴き出した。
「「グワッ………」」
噴き出した水に驚く喰魔達。
さらに水の勢いに体の動きを阻害され、視界も遮られてしまう。
優馬は熊型喰魔達の動きが止まったのを確認すると地面から槍を引き抜き、虎型の喰魔に向かって走り出した。
向かって来る優馬に対し、虎型喰魔は右の前脚を振り上げる。
その右脚に喰魔は雷を迸らせると地面に叩きつけた。
そして、前脚の雷が地面を伝い、蛇のような動きをしながら優馬に向かって進んでいく。
優馬は自分の魔法と相性の悪い雷が放たれたというのに、薄っすらと笑みを浮かべた。
「それはやりやすい!」
優馬はそう言うと手に持った三叉槍の穂先に魔法で水を発生させる。
そして、槍を横薙ぎに振るうことで水が弧を描き、横に広がりながら放たれた。
「波紋!」
丸い曲線状の水が雷に向かって飛んで行く。
雷は蛇のように動いているため狙い辛いが、優馬の放った波紋は範囲が広いために不規則に動く雷をしっかりと捉えた。
そして、波紋の水が雷に当たると強制的に放電させる。
それにより、雷は優馬に届く前に消滅してしまった。
「グウゥ………!」
虎型喰魔は悔しそうに喉を鳴らす。
ならばと口に雷を溜め始めるが、優馬の方が一手早かった。
優馬は喰魔が雷を溜め始めると同時に三叉槍の柄を両手で握り、穂先を喰魔に向ける。
そして、前傾姿勢になることで加速し、先ほどよりも速く喰魔へと迫る。
三叉槍の穂全体に水を纏わせ、渦を巻くように激しく回転させた。
「………!?」
スピードを上げた優馬と三叉槍が纏った水に驚く喰魔。
慌てて魔法を放とうと大きく口を開く。
それを見た瞬間に優馬は力強く地面を蹴り、跳躍することで一時的にさらに加速した。
「もう遅い!」
喰魔が魔法を放とうとしたときにはすでに、激しい水が渦巻く三叉槍が眼前に迫っていた。
「激流槍!」
激流のような荒々しい水が渦巻く三叉槍を優馬は喰魔に向かって突き出す。
突き出された三叉槍は喰魔の顔から一直線に体を貫き、激しく渦巻く水が喰魔の肉を削り抉った。
喰魔を貫いた優馬は地面に両足を着き、ブレーキを掛けるように力を込める。
砂埃を立てながら地面を滑り、槍を突き出した姿勢のまま停止する。
その背後で、虎型喰魔は音もなく消滅した。
「ふぅ………さてと」
優馬は一息吐くと後ろへくるりと振り返る。
そこには全身を水で濡らした二体の熊型喰魔が鋭い眼光で優馬のことを睨んでいた。
優馬も睨み付けてくる喰魔達に負けじと強く睨み返す。
そして、手に持った三叉槍を再び構えた。
「あと二体。早く倒して皆の応援に向かおう」
そう言うと優馬は三叉槍に水を纏わせ、喰魔達に向かって駆けだすのだった。
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