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ユキさん

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第13話 ~露店《シアルの街・その1》

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ーティルー



早朝からログインした俺は、食堂にて朝食を食べながらシグルゥと今日の予定について話していた。



「今日はあれだ、これを食べ終えたら作った物を売ってくる。…何処か売るに良い場所を知らないか?」



今日の朝食はクロワッサンのようなパンにシチューっぽい汁物、ベーコンサラダといった軽食。それを軽快にパクつきながら聞いてみれば、



「そうだねぇ~…、メインストリートで露店なんてどうだい? 同じように露店をしている者も多いし、メインストリート故に人通りも良い場所だから販売に適していると思うよぉ~。…詳しくは生産ギルドで聞くこと、それが一番手取り早いと私は思うなぁ~♪」



と言ってきた、…そういえばそうだと自分の間抜けさに呆れた。



────────────────────



朝食を食べ終えた俺は、速やかに生産ギルドへと向かう。受付にエイミーさんがいたので露店のことを聞いてみれば、問題なく生産ギルドにて手続きが出来るとのこと。しかしながら露店については生産ギルドでも手続きは出来るが、店舗を持つとなると商人ギルドでの登録と手続きが必要なんだと。まぁ今のところ俺は店を持つ気など全くない、故にこの情報は頭の片隅にでも入れておけばいいだろう。



露店販売の許可書を貰った俺にエイミーさんは言った。



「そういえば投擲薬の手続きは朝方に終わりましたよ、支部長もかなり喜んでいました! 久々に登場した優秀な新アイテムですからね、後は商人ギルドとの話し合いだけです。値段とか量産が出来るかどうかとか…色々なことですね!」



へぇ…手続きが朝方終わったねぇ~、…話し合いとか色々あるみたいでまだまだ時間が掛かるな。



「それと先程ティルさんが言っていたことですが…、投擲薬の個人販売は好きなようにしてくれてもいいそうですよ? 登録前ではありますが宣伝も兼ねつつ検証ということで、どんどん売り捌いてくれと言っていました!」



エイミーさんに聞くよう頼んでいたことも知れた、…好きなように売り捌いていいか。そういうことなら遠慮なく売りまくろう、…で反応とかも見たいしな。通常の回復薬より高くても買ってくれる筈、俺はそう信じている。今回はある分だけだが、今日もし完売でもしようものなら大量生産を視野に入れなければ。そうなったら狩りに採取に忙しくなるぞ! …そうなればいいな!



────────────────────



シグルゥの言葉で生産ギルドへ行き、露店販売の許可書を貰った俺はエイミーさんと話した後、彼女に聞いたメインストリートの露店通りへと向かった。その際、エイミーさんにそこへ行く為の地図を書いて貰った。…微妙に方向音痴っぽい俺、…念を入れてってヤツだ。書いて貰った地図とヒックス達から貰った地図、この2つを見ながらだったら迷うことなく行ける筈だ。



…で俺の目論み通り、迷うことなく露店通りへと着くことが出来た。しかし着いたこの場所には既に大勢の人が、同じ目的なのだろうNPCとPCっぽい奴等も商品を並べつつある。…場所が無くなる、そう思った俺は慌てて空いている場所を探す。そして見付けた空いている場所、位置的にこの通りの中心付近か? とても良さげな場所っぽいからラッキーと言えるだろう、そこに陣取ろうとした奴が俺を見るなり、『急用を思い出した! …この場所で良ければお譲りしますぜ旦那!』とか言って走り去っていったからな。本当に運がいい、そうとしか思えない程の場所確保である。



俺は周囲の同業者? に負けぬよう手早く商品を並べて準備を整えていく、悲しいかな…俺を中心に大体2mぐらいか? …ポッカリと空いていたりする。そんなに俺ってヤバイ奴なんですかね? そんな思いで見回せば露骨に視線を背ける。…終いにゃ泣くぞ、俺だって人間なんだからよ! ちょいとだけ不機嫌になりながらも、手はきちんと動いて準備を整える。俺の不機嫌さが周囲に伝わったんだろう、『…ひぃっ!?』という小さな悲鳴が幾つも耳に入るが、…俺は気にしない。……ちょっとだけ気にはするがな!



何故か恐れられる俺に、声を掛けてくる奇特な奴がいた。



「あのぉ~…、隣のスペースに露店を広げても…いいかなぁ~?」



めっちゃ恐る恐るの震える声、俺は手を止め正面を見る。そこにいたのは青褪めた顔であるけれど、全体的に愛嬌のある顔をした猫耳の小さな男。見たまんま臆病そうな猫耳男は、なけなしの勇気で俺に声を掛けたのだろう。それは何故か? 答えは簡単で俺の両隣しか空いていないからである。仕方がないから俺の横、…恐いけどそれしかないって感じがモヤっとするが、



「見ての通り空いているのだから好きにすればいい、許可書を持っているのだろう? なら問題ない。…何処で販売しても誰も咎めはしないさ。」



…勝手にすればいいと思う。空いているのなら陣取ればいい、とにかく許可書を持っているのならその権利がある。



「それはそうなんだけど、…一応礼儀というわけで。…その、…迷惑を掛けると思うけどよろしく。」



礼儀か、…それはまぁ大事だな。俺の場合、礼儀も何も隣には誰もいないし避けられている。礼儀云々の前に、悲しいやら腹が立つやら…複雑な心境である。そう考えればこの猫耳男は良い奴みたいだな、仕方がないにしても俺に声を掛けてきたのだから。



…ビビられてはいるが、客が来るまでジッとしているのはつまらない。この猫耳男ならば隣同士仲良く、会話を楽しみながら販売が出来るかも。



「…アナタはヤバイ系のNPC…じゃないソッチ系の人でしょ? 気を付けて物を売るから、難癖を付けて僕を殺るのは勘弁! 僕は見た通り非戦闘キャラなんだよぅ…、瞬殺される自信があるよ! ……NPCイベントは断固拒否! 平和的に物を売らせておくれよNPC…じゃなくて旦那!」



……仲良く出来ないかもな、コイツ…俺をNPCの凶悪イベントキャラと思っているっぽい。ガクブルしながら懇願してくる姿にイラッとくる、…俺はそんなに悪党キャラか? 顔は悪党だと自覚はしているが。そして発言と雰囲気からしてコイツはPCのようだ、…因みに俺もPCだよ。



「…イベントなんか起こせねぇよ、…俺はお前と同じPCだからな。…だがまぁ望むなら、…イベント紛いの行動でも起こしてやろうか?」



無自覚にスキル〈威圧〉を発動させ、口許をヒクつかせながら緩く睨む。自分でも驚く程の優しい声で、…自分で聞いて気持ち悪い。



俺もなるべく温厚で過ごすようにはしているが、周囲のあからさまな反応に少々不機嫌となり、そして猫耳男の言葉と反応に苛ついてしまった。まだまだ俺も青いなと思うがそこは人間なんで、感情が表に出るのは仕方がないだろう。…とにかくそんな俺の反応に、



「その顔でPC!? ……にゃっ!? ごめんなさいごめんなさい! そんなに睨まないで怒気を抑えて…!!」



涙目で土下座をする猫耳男、…鼻水まで垂らしてらぁ。猫耳男の情けない姿を見た俺は、溜飲が下がったというか何というか…。多少は心穏やかに…、



「あのぉ~…、お隣失礼させ…ひぃっ!?」



…ならなかった。もう一人隣に来て、俺の顔を見るなり第一声が最終的に怯えとなった。俺は何もしておらんのにその反応、悪党顔には世知辛い世の中だな。こんな調子で俺は商売が出来るのか? …両隣の二人は俺をチラ見しながら商品を並べて時折ビビっとるし、そんなに警戒するなら余所へ行けっつーの…。こりゃあ幸先不安だな、客…来るんかね?













…そして俺の予感は的中する。



「毎度あり! いつもありがとね!」



ビビりな猫耳男は順調に売り捌いている、しかも常連が多くいるっぽい。ビビりの癖に生意気な! …後から来たもう一人のビビりも、



「ホーンラビットローブは3,000Gだよ。…うん、だいぶ値段が落ちたんだよね。まぁ草原のモンスターだから仕方がないよ、草原のレアモンスター素材が出ればいいんだけどね。山のウサギは草原と同種だけど素材はちょっと良いかな? それは+500Gってとこ。」



買い物客と世間話をしながら販売をしている、…楽しそうにしておってからに! そんな二人を横目で見ながら俺は心の中で嘆く、…誰も見てくれないのだ。こちらへ近寄って来るのだがその過程で俺の存在を認めると、両隣のどちらかへ直角に逸れていく。正直に言って商品的には両隣はおろか、全PCでも上位へ食い込める程のものであると自信を持って言える。…なのに何故!? …俺はそんなに危ない奴なのか? …犯罪臭漂うヤバイ奴なのか?



そして思い浮かべるのはギルド職員であるエイミーさん、彼女曰く俺のパートナーで一心同体。初顔合わせでビビりまくってはいたが、共に仕事をして俺がユニーク討伐者だと知ってからは友好度が右肩上がり。コロコロと表情や態度が変わる様は見ていて飽きない、そして…彼女はとても可愛い娘だ。俺が認める可愛い娘ちゃん代表のエイミーさんが隣にいれば、彼女の美少女オーラがあれば俺の悪党オーラ? も多少は和らぐ筈。…凄まじく不本意ではあるがな、…というかエイミーさんといて奴隷商とか思われたりしないよね? …この世界に奴隷がいるかは分からんけど。



表情を変えずに内心で色々と考えていたが、



「あ…あのぉ~、ちょ…ちょっといいですか……?」



その言葉が耳に入り我に返った。目の前には猫耳男と同じくなけなしの勇気を出してきたのであろう、青い顔で震えている職人風の少女が立っていた。……これって周囲から見たら俺がカツアゲをしているように見られないか? と思わなくもないが遂に客が来た! ということだろう。これは最初が肝心だな、逃すわけにはいかない。まずは見て貰わなければ、…そしてこれを切っ掛けに客を増やさねばこの先も客一人来ないまま店仕舞いをせにゃならん。そんなのはダメだ、俺の魂が込められた物達が見られもせずに終わりを迎えるなんて! …瞬時に先のことを考えて気合を入れる俺、そして…、



「おぅ嬢ちゃん、何か欲しい物でもあったか?」



素行の悪そうな言葉使いで応対してしまった、『おぅ嬢ちゃん』とかってその道の人かっつーの! 特に目の前の少女にはこの言葉使い…ダメだろ、と自己嫌悪してしまう。だが、



「あぅ…その…、えっと…ですね? 買い物ではなく聞きたい…ことがあるん…ですけど…。」



買い物ではなく聞きたいこと? …なんだ、…客じゃないのかよ。なら気にする必要はないな。



若干…苛立ちを覚えたが、それを飲み込み無心となるよう努める。そのお陰か、ビビり少女は多少の怯えがあるものの、



「昨日の午前中、総合ギルドの生産ギルドエリアにいましたよね?」



と少女が聞いてきたので頷いた、隠す必要がないことだからな。少女は続けて、



「そこで受付のオジさんと生産ギルドシアル支部がどうの…って、その後に二人揃って出ていきましたよね?」



その問いにも頷く俺、…それが一体何だというのだろうか? んなことより商品を手に取って買い物をしてくれと言いたい。…つーか何だ? 両隣を含めて俺を凝視すんなや!



「やっぱりそうでしたか! どうやったらギルドの支部へ行けるんですか? 可能であれば条件を教えて貰えないでしょうか? …総合ギルドの職員さんに聞いても、『生産に力を注げば行けます、頑張ってください。』の一点張りで。」



ギルド職員、…言ってるじゃん。そのまんま生産を頑張れば行けるんだがな、現に俺も二週間近く続いた生産地獄の後にそういう展開になったわけだし、…って何を頷いているんですかね? 周囲で聞き耳を立てているお前等は!



俺は溜め息を吐いてギルド職員と同じ言葉を言う。



「ギルド職員の言葉通りなんだが…、生産に全てを懸ければ行ける筈。生産スキルのLVを上げろ、生産数もそうだが生産種類にも気を配れ。地道に上げていけば、必ずギルドの支部へと案内される筈だ…。」



思い出されるのは生産地獄、どうしても思い浮かべてしまうのは仕方がないよな? 要は色々と作りまくれということ、支部への道はそれだけなのだよ。



「私…、生産スキルの一つはLV10を超えていますが? それに生産数もそれなりに…。」



「…一つの生産スキルがLV10以上ね、…他の生産スキルはどうしたんだ? LV10未満なのか?」



…生温いわ! たった一つのスキルがLV10!? 生産舐めんじゃねぇよ! スキル一つで何が出来る? 出来るのは粗悪品だけだわ! 複数のスキルがあってこそ素晴らしい物が作れるのだよ、師匠達が聞いたらキレるぞ! …とか言っている俺も師匠達と出会う前は舐めてましたけどね、…師匠達には感謝!



「…簡単に言いますけど、LV10以上まで上げるのは大変じゃないですか。貴方も生産者なら分かりますよね? 他の生産スキルに手を出したら…、それを考えるだけでストレスが溜まります。」



スキルLVを上げるのが大変とかって…そうなのか? それ以上に作り続けるあの地獄の方が…。俺の場合、〈俺流〉効果があるから楽だったのかもしれない。そしてあの地獄で分かったのだが、複数のスキルが無ければ想像した物が上手く作れない。そこんとこが分かってない?



「そりゃそうだが…、一つの生産スキルに特化したいのは分かる。分かるが…複数の生産スキルが重要で、……というか分かってないのか?」



と言えば少女は前のめりで、



「…分かっていない? …どういう意味ですか、そもそも複数ってそんなこと! …だったら、…だったら貴方はスキルをどれ程持っていると言うんですか!」



何か怒り出した。…聞かれたことを答えただけなのに、…というかヒントを与えたつもりだが? なのに怒り出すとかって、…俺の方が怒りたいんだがね!



「…俺は7つの生産スキルを持っている、その全てがLV10を超えているな。何のスキルかは教えんがこれが現実だ、支部へ行きたきゃ複数の生産スキルを鍛えるといい。」



…俺も優しい男だよ、支部へ行く為の条件を教えるとは。これまでの会話でヒントを与えてはいたが、最後にはっきりと条件の一つであろう情報をくれてやった。…これでも行くことが出来ないのであれば、才能が無いってことで生産者を辞めることを勧めるぜ。



俺の発言から暫くして…、



「「「「「えーーーーーっ!!?」」」」」



少女は勿論、両隣を含め聞き耳を立てていた周囲の奴等が絶叫する。一人一人が驚愕に染まった顔で固まっている、…そこまで驚くことなのか? …やっぱり。



「な…7つの生産スキルがLV10超え…? この人は…生産廃人なの? どんだけー……。」



驚愕する奴等を代表して、隣の猫耳男が呆然としながら言う。目の前の少女もそうだが周囲の奴等も同じなのだろう、客と思わしき奴等も固まっているのが意外ではあるけれど。スキル効果もあるしクエストのお陰でもある、…地獄ではあったが俺以外の奴等にもいるんじゃないの? 似たような奴が。













ティルは首を傾けるが彼は分かっていない。LV10に達するまでは地道にひたすら、生産をし続けなければならないことを。ティルはそれ以上の地獄を経験してはいる、だがそれは固有スキル〈俺流〉の効果とクエストで出会った師匠達の手腕により、約二週間で5つの生産スキルを取得しLV10を超えた。



しかし〈俺流〉を持たずクエストを達成していない普通の者ならば? その者達はF.E.O開始から今日まで一心不乱に生産し、やっと一つの生産スキルがLV10を超えるのだ。他の生産スキルに浮気をせず、ただ一つの生産スキルに全力を込めてLV10を超える。ティルのように複数のスキルを所持して生産し、戦闘までもこなすなんてことをする余裕など無いのである。



それほど、スキルLVを上げるという行為は非常に困難なのである。しかしながら、その他に属する補助スキルがあれば多少は上がりやすくなるだろう。だがβテスト時、生産関連には効果があまりないとのことで、現在…生産関連に対してはゴミスキルと認知され所持している者は僅か。所持している者も初心者故に、その効果はやはり知られていない。



因みに今のティルは〈俺流〉に加え、〈集中〉〈職人の手先〉といった補助スキル、そして〔職人達の弟子〕という称号効果も合わさり常人の3倍程度の速さで生産スキルLVが上がっている。ティル自身、称号効果による多少の恩恵としか思っていない。
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