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ユキさん

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第4話 ~宿屋と不思議体験

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ーティルー



ヘンテコ切り株宿屋『くまさんの宿り木』を当分の拠点と定め、ヒックス&ウエンツとシグルゥ、そして俺の四人で軽い談笑をした後、



「それじゃあ…、俺達は仕事に戻るよ。サボり過ぎると隊長に怒鳴られるからな!」



ヒックス&ウエンツは見廻りに戻るという、…そういえば二人は仕事中だったな。悪いことをしたと、素直に思う。



「仕事中に案内をして貰ってすまない、その…怒鳴られないといいな?」



俺のせいで怒られ、クビになったら大変申し訳ないと思う。しかし、そんな俺の心配も…、



「そこは大丈夫じゃないか? 客人を案内していたと言えば、逆に褒められると思うけど。」



とのことで、心配は無用のようだ。客人、…俺達PCが優先されるみたいだな。



とにかく二人のお陰で俺は助かった、故に改めて…、



「ヒックス、ウエンツ。色々とありがとう、本当に助かった。」



きちんと礼を言わねばならない、これは基本だ。そんな俺の言葉に二人は笑って、



「いや、いいよそんなの。兵士として当たり前のことをしただけだし。」



「そうそう、だから気にすんなって! …あ、後これをお前にやるよ。」



気にするなと言ってきた、何と心の広い…。そして、ウエンツから渡された物はこの街の地図。これを俺にくれるのか?



「ここに来る途中…色々と教えたけどよ、この街はかなりデカイ。だから散策する時はこいつを見ろよ? これさえあれば迷うことはないと思う、まぁ役立ててくれ。」



ここまでの道のりを案内してくれただけではなく、街の地図までくれる二人には感謝の言葉しかない。



シアルの街、素晴らしいじゃないか! 親切な兵士がいるのはポイントが高いぞ!



「ありがとう、二人共。この地図、大切に使わせて貰う。」



改めて礼を言った。…いずれ、二人には相応の礼をしなければならない。



「そうしてくれ、…それじゃあ俺達は戻る。もし何かしらの用があるのなら、詰所にでも顔を出してくれ。大概はそこにいるからさ、いなくても伝言をしてくれればこっちから顔を出すことも出来るし。」



「…後は助言な、…街中で笑うのは極力控えろ。下手したら牢屋で一晩…、ということになりかねないからな。人間族でその顔、頭一つ突き出る程の高身長で威圧感があるんだからよ。んで目立つんだから、…質が悪い。」



ヒックスはいいとしてウエンツ、…一言多くはないだろうか? 一応、忠告してくれたんだよな?



「…どう気を付ければいいのかは分からない、がその忠告…頭の片隅に入れておこう。」



捕まるのは勘弁、マジで…。



「「じゃあな、ティル! お前の活躍を期待しているよ。」」



こうして俺は、街の兵士であるヒックス&ウエンツと知り合うことが出来た。そしてこの街にて活動する際、二人とはよく顔を合わせることになる。













ヒックス&ウエンツが去った後、宿泊についてシグルゥと話していた。



「宿泊代は食事無しで20G、食事代は1食10Gになるけど…どうする?」



食事無しで一泊20G、食事代は10Gか。…高いかどうかは分からんけど、あの二人の紹介だからこの街で一番安いんだろうな。この先どうなるかはまだ分からない、とりあえずは五日…そうしよう。



「とりあえず五日で、…食事はどうするか。」



「宿泊は五日だね? え~と、食事は食べたい時に声を掛けてね?代金はその時に貰うよ、それでいいかな?」



俺は頷き、五日分の宿泊代である100Gをシグルゥに渡す。代金を貰ったシグルゥは、ニコニコしながら俺に鍵を手渡す。



「部屋は二階の右端だよ、間違えないようにね? ……まぁそれにしても助かったよ、お客が来なくて暇だったからさぁ。ヒックスとウエンツには感謝だね、勿論ティル君にも。」



…客なんてそう来るかよ、巨大な切り株が宿屋だなんて誰も思わない。しかも街外れ…、メインから離れ過ぎている。隠れていない隠れ宿、まずは引くこと間違いなし。



「切り株が宿屋であると、…誰も分からんよ。」



「え~っ、根本には扉があるし看板もあるよ? 何処からどう見ても宿屋だよ、うん。」



「街中に切り株だなんて斬新過ぎるわ! 扉も看板も切り株と同化して見えて分からんし! ……だが解せん、街外れとはいえ逆に目立って人が集まると思うんだがな。」



たとえ街外れでも、街中の切り株が目立たない筈がない。何で人が来ないのか? 疑問に思っていると、



「あはははは! 実はね? …この宿屋には結界が張ってあるのさ。周りから見ると、レンガ造りの民家にしか見えないのさ。だから、街に溶け込み過ぎて気付かない! …ってことなのさ♪」



…こいつはアホなのか? 何だよそれ。



「意味が分からん、何が『暇だった』だよ。自分で、…お客を拒否しているんじゃないか。」



半眼でシグルゥを見ると、ヘラヘラ笑って……、



「いやぁ~、これには色々と事情があるんだよね。この宿屋にはお客を選ばないといけない理由があって、…その理由はいずれ分かると思うよ? その点…、ティル君は合格! 見た目あれだけど、ヒックスとウエンツの紹介な訳だし、…素質があるよ♪」



色々と事情がある…ねぇ、いずれ分かる理由に素質か。一体どんな理由なのか今は謎だらけ、素質と言われても俺にあるのは…〈俺流〉という固有スキル。……それを指していたりするのかね?



悶々と考える俺に、



「そうそう、さっき言った理由があるってこと。…だからさ、この場所は他言無用でお願いね♪」



と、軽い感じで声を掛けてきた。…色々と思うところはあるけれど、最初から言うつもりはない。



「…分かっている、誰にも言わんさ。…しかし、俺はあの二人に導かれて来たわけで。単身でも大丈夫なのか? 結界によって入れませんとか、辿り着けませんとかはないよな?」



そこが不安なところである。拠点と定めた場所から弾かれるのは勘弁、また探さないといけなくなるからな。しかも代金を払ったわけで、…そこのところは大丈夫なのか?



「それは大丈夫、ちゃんとティル君を登録したから。素質ある者を閉め出すようなこと、する筈ないじゃないか♪」



…何というか、気になることが多いな。シグルゥというかこの宿屋、…絶対に何かある。普通じゃないっていうのがビンビン感じる、…が今は気にしないでおこう。いずれ分かるとか他言無用とか言ってきてるし、根掘り葉掘り聞こうとしてもはぐらかされると思うし、…この宿屋のことは気にしない!



切り換えた俺は、これからどうするかを考える。シグルゥも気になったのだろう、



「…でさぁ~、これからどうするんだい? 夜にはまだまだならないよぉ?」



と聞いてくる、…夜はまだ先か。う~む、そうなるとやっぱり、



「そうだな…、まだ時間があるからちょっと散策してみる。その後、気が向いたら街の外にでも出てみよう、…とそういうことで渡されたばかりだが。」



俺は受け取ってから間もない鍵をシグルゥに渡す、鍵を受け取ったシグルゥは、



「街は広いからねぇ~、気を付けるんだよぉ~♪」



間の抜けた見送りに脱力しつつ、俺は街の中へと繰り出す。…地図もあるし、迷うことはないだろう!



────────────────────



………で結局、俺は街中で迷っていた。地図を見ながら散策していたのに、迷う俺って一体…。地図を見る限り、そこまで複雑な構造をした街ではないと思うのだが。最初は普通だったんだぜ?人も多く歩いていたりしたんだけれど、徐々に行き交う人達の数も減っていき最終的には…、



「人がいない…、音もしない…。先程まであった喧騒は何処に? 未知の空間に迷い込んだのか…?」



俺は無の世界にへと迷い込んだ、…この身で感じる違和感。…VRハンパねぇ、マジで。



流石の俺もビビり気味、未知の体験に困惑しております。どうすればいいのか、…とりあえず先へ進めばいいのか? …まぁそれしかないんだけど。ナニカに誘い出されているような気がしないでもないが、歩を進めなければならない。そうしなければ、この空間から逃れることが出来ない、…そう思う。













歩き続けて辿り着いたのは、小さな社が建っている袋小路。ここは一体…、多少の警戒心を持ち社へ近付くと、



バンッ!!



突然、社の扉が開き、



カッ!!



社を中心に強烈な光が…!



「………!?」



俺は咄嗟に手で光を遮り、目がやられるのを防ぐ。その遮る手の隙間から見えたのは小さな影、…妖精? それとも精霊? 考える暇もなく白に塗り潰される視界、そんな中で聞こえた声…、



『…キミで三人目、この世界の人々にきちんと目を向けた者は。…出来ればそのままのキミで、…キミのような者こそがこの世界には必要なんだ。…だから贈ろう、この称号を。』



この声を聞いた瞬間、周囲の気配が変わった気がする。…元の世界? に戻れたのか? 眩しいから分からんけど。













…………俺の耳に街の喧騒が聞こえてきた、それは徐々に大きくなり、



「お母さん、あの人…何やっているの?」



「…お母さんにも分からないわ、道の真ん中で奇妙なポーズ。…とりあえず、近付いちゃダメよ?」



「うん、分かった!」



微笑ましい親子の会話、その話題に挙がっているのは……俺? そんな気がするがそんな筈がない、俺は先程まで不思議体験をしていたのだからな。そう…、別空間にいたのだから断じて俺ではない。光を遮る為、顔の前に掲げていた手を降ろす。…そして目に映ったのは人の行き交う道、変な空間へ迷い込む前にいた場所だと思う。俺は帰ってきたのだ、…ホッと胸を撫で下ろした矢先、



「…うわぁ~ん! あの変な人、お顔が恐いよぉ~!」



「…ひぃっ! この子に悪気はないんです、い…命だけは…!」



微笑ましい親子の会話が悲鳴に、それが伝染して周囲に広がっていく。



…………話題の変な人とは俺のことだったらしい、……え? こんな人の行き交う道で俺は硬直していたり? ……いつから、…いつから俺は醜態を晒していた? 凄く気になるけど、気にしないようにしよう。……何か知らない方がいいような気がする、うん。まぁとりあえず、俺がすべきことは…、



「いや、何もしないからな? こんな顔をしているけど、俺は善良な人間だと…思う。だからそんなに騒がなくても…。」



しどろもどろになりながらも、近くにいる親子と周囲の人達に落ち着くよう声を掛け、俺が客人であると知れば逆に頭を下げて許しを乞うてくる。



…何とか収拾させて離脱出来た俺、あの不思議空間の主…許すまじ! 密かにイラッ! としていると、



【クエスト】シアルの街を散策

シアルの街を自分の足で散策してみよう!

【報酬】〈話術〉

クエストクリア!

【追加イベント発生】

大いなる存在との邂逅! 貴方は三人目の存在らしい。

【称号】繋がる絆



ピコーンッ! の後にこんなモノが。…クエストクリアになるのか、まぁそれはいい。あの親子と周囲の人達との騒ぎ、あれがクエストイベントとなり収拾させたことでクエストってか? …で、入手したのが〈話術〉ね。あれだけ話せばそうなるよな、うん。一応…チェックしておこうか、



〈話術〉:話し方の技術。NPCとの会話時、色々なことに補正が掛かる。



…色々なことってたぶん、好感度とか交渉とか、会話に関わることだよな。補正ってあるけど、+だけじゃなくーにもなるな…こりゃ。どちらか一方だったら+かーが付く筈だし、現に〈俺流〉は+補正って説明されてたし。そう考えると、会話にも注意せねばならないということだ。なるべくこのスキルをセットした時は、NPCとの会話に注意しよう。



追加イベントってあれのことだよな? あの社の光…。大いなる存在っていうのが何なのか気になるが、俺以外の二人がどんなPCなのかも気になる。いずれ会ってみたいとは思うが、それよりも称号だろう。さて…、



〔繋がる絆〕:NPCに色んな影響を与える。互いの好感度が高い状況で共に行動すると、PC・NPCはそれに見合った成長を遂げる。



…NPCと共に成長出来るってことか、それはいいな。NPCと行動してみないと分からんから、検証はその時にってなるけど。今は称号が入手出来たってことを喜んでおこう、NPCと仲良くなるのは追々にだな。













…宿屋を出てからある程度の時間が過ぎた、このまま宿屋に戻るのも味気ない。そう考えると次に俺のやるべきことは一つ、草原に行って戦闘を体験すること。あの時よりは人の数も減っているだろうと予想する、うん…減っている筈だ! そうと決まれば即行動、待っているといい…魔物達よ!
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