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閑話 ~二人の婚約者 ーレイチェル&エジュルsideー

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ーレイチェルー



私には親友と呼べる方がいない、…友人と呼べる方すらいない。それなりの関係を持つ知人ならば数人いるけれど、…その知人もいつ本性を現すのかと考えたらとても恐い。だからそれ以上の関係にはならない、決して友人になることはないのだ。



…闇の精霊様が私に教えてくれるから、近付いてくる者達の殆んどが私を見ていないと。見ているのは私ではなくスキル、…《精霊の目》というスキルだけを見ている。勉強を頑張っても私を見てはくれない、武芸を頑張っても私を見てはくれない、礼儀作法を頑張っても私を見てはくれない、…容姿を磨いても私を見てはくれない。何をやっても私を見てはくれないのだ、…何故? そんなにこのスキルが欲しいの?



家族と使用人達は純粋に私を心配してくれている、…筈である。本気で私を心配してくれている、…と思いたいけれど私は恐い。実は全てが嘘で私を見てはいないのではないかと、…貴重なスキルを宿すナニカとして見ているのではないかと。…私は恐い、いつの日か私が私で無くなっていくのではないかと。



そうなる前に私を見て欲しい、私という女の子を見て欲しい。…それが私の細やかな望み、…誰かこのレイチェル・アンデバランを見てください。…どうかお願いします、レイチェルとして私を見て。







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…………………はっ!? …また私ったら、負の感情に流されてしまっていたわ。…何てはしたない、…何て情けないのかしら。親友や友人がいないくらいなんてことない筈よ、知人…顔見知りの方が数人はいるもの。家族や使用人達もいるし、何より…精霊様がいるもの。…決して、…決して寂しいわけではないわ! だから止まって、…私の涙!



……ふぅ、…何とか落ち着くことが出来ましたわね。どういうわけか…闇の精霊様達とお話をしていると、感情のコントロールが利かなくなってしまいますわ。…何故なのでしょうか? 違和感もありますし、…とても不思議ですわよね? 精霊様達は良き隣人、…決して悪さをするような存在ではない筈。う~ん…謎ですわ!



まぁ考えたとしても分かる筈もないのですから止めましょう。それよりも私、…いつまで館に閉じ籠っていれば良いのかしら? まさかパーティーでスキル欲しさのお馬鹿に拐われかけたから? …今に始まったことではない筈だけれど、…お父様がたまたまその会場にいたから…でしょうね。迷惑を掛けまいと今までのことはぼかして伝えていた、…でも実際に起きたことを見たら重く受け止めなければならない。今回のことを機に今までのことを知られて、…初めて頬を叩かれたけれど嬉しかったわね。父はきちんと私を見ていてくれた…と、号泣姿を見せられたら…ねぇ? ……演技じゃないわよね?



だからと言って外に出さないのは如何なものかしら? そのお陰で友達すら作れないんだもの。買い物とかは護衛を大勢連れていくことが出来るけれど、それ以外は駄目とかって…監視出来ないから? 家族と使用人達の愛が重い。…いえ、…逃げないようにしているだけよねきっと。…だってほら、…闇の精霊様が耳元でそう囁いているもの。







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…退屈な日々を闇の精霊様と共に過ごしている中でお父様が、



「喜べレイチェル、お前の婚約者が決まったぞ!」



とても嬉しそうに、そして晴れ晴れとした表情で私にそう言った。………何故そんなことを言うの? ……そんなに私を追い出したいの? …やっぱり私は愛されていないの? …結局は売り出される身なのね? …そう、…闇の精霊様の言うとおりみたいだわ。…私は愛されない存在なんだ、スキルだけの人形みたいなモノなんだ。…信じられるのは自分自身だけ、…闇の精霊様だけね。



「…本当ですか? …これで私も貴族の務めを果たせるというもの、…感謝致しますわお父様。」



聞けば婚約の相手は二歳年下の男爵令息、…格下に私は売られるわけね?



……分かっていますわ闇の精霊様、…十分に愛想を振り撒きますとも。年下なのですから操るのは簡単でしょう、…見事な傀儡にしてみせますわ。そうすれば私も幸せになれる、…そんな未来が見えるんですもの。…ねぇ? 闇の精霊様。











────────────────────











ーエジュルー



皆が寝静まった深夜、私は神殿内の庭園にて日課である月光浴をする。私の傍らにはシルバーウルフが寝そべっている、私の大事な相方であるルカちゃんだ。属性の恩恵か、それともスキルの恩恵かは分からない。分からないけれど私にはルカちゃんの声が聞ける、私だけの特別な力…。







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この力のせいで私は、…貴族の方々に奇異の目で見られる。いや…違う、欲望に満ちた目で私を見ている。私の《従魔》を、…ルカちゃんを狙っているのだ。《従魔》があれば強力な魔物を自由自在に操れると思っているから、…現に私はシルバーウルフを従属させている。シルバーウルフは一匹で街の一つや二つを軽く潰せるし、この国の騎士で考えて三千人ぐらいであれば容易に倒すことが出来る。…私のような小娘が持っていいような力ではない、そう…貴族の方々は目で語っているのだ。私達ならばもっと有効に使えるぞ…と、そんな目で私を見ている。



そして彼等は、もう一つのスキルである《自然回復》をも欲している。どのような怪我も、どのような病気も、毒や麻痺等の状態異常でさえも自然に回復してしまうスキル。…これに欲深い者達が目を付けている、永遠の命…不老不死に繋がるモノであるとして。狂気染みた視線に恐怖してしまう私は正常、人の子故に我が身が可愛いのは当たり前なのだから。



そのような視線に晒されている私へ声を掛けるような者は居らず、逆に恐ろしいモノを見るような目と共に心無い言葉を吐き捨てられる。…私は彼等に何かをしたのだろうか? 日々思い悩む。…そんな私の姿を見て両親は悲しむ、今世に生きる貴族の方々の醜さに。狂気染みた思想を肌で感じた両親、そして神殿にて精霊様へご奉公する神官の方々に私は守られることとなった。時が来るまでは神殿から出ぬようにという徹底ぶり、…私が解き放たれる時なんて来るのだろうか?







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月光浴の中で今までのことを考えた。両親や神官の方々に恨み等ない、私を守る為に閉じ込めているのだから。…でも、このまま人生を神殿の中だけでというのは堪えがたい。女として生まれたからには、男の人と燃え上がるような恋をしたい。私はまだ七歳だけれど、…早くはない筈。普通の女の人であれば、五歳で婚約者が出来て愛を育むもの。だけれど私には婚約の話題が一切ない、…聞くところによると十歳までに見付からなければ行き遅れだとか。



…行き遅れのことを考える度に寒気が、…三年の猶予があるけれど私は大丈夫? 不安になってしまう。…その不安を紛らわす為、ルカちゃんを撫でて精霊様へと願う。



「月と森の精霊様、…私に素晴らしき出会いをお与え下さいませ。」



これが毎日の日課、一年以上も続けている私の日常。













時が流れても変わらぬ日常、深夜に願う日々を過ごしていたけれど…、



「愛しき娘…エジュルさん、貴女の願いを叶えてあげられる日がやっと来ました!」



深夜の庭園にていつも通りの月光浴をして願っていると、いつもはほんわかとしている父様がやや興奮気味に現れたのだ。何事かと尋ねてみれば…、



「遂にエジュルさんの婚約者が決まったのですよ? 精霊に愛された素晴らしいお相手です!」



私を力強く、それでいて優しく抱き締めてくる父様。……婚約者が決まった? …本当に? 突然の知らせに呆けてしまう私。そんな私に対して父様は…、



「色々と訳ありのお方ですけれどお優しいですよ? …エジュルさんが望んでいたお相手、ミュゼ・ロゼッタ様です。貴女が会いたいと私に申し出ていたあのミュゼ様です、…父様は頑張りました!」



更に驚くことを続けたのだ。……神官の方々が天上人のように誉め称えているあのミュゼ様? 奇人変人と貴族の方々に噂をされても我が道を行くとされているあのミュゼ様? …他にも色々と逸話のあるあのミュゼ様と私が婚約? 会ってみたいと願ったお方が私の婚約者? ………………夢ではないのですよね?
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