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第12話

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 「やったな!」

 「おう、これで俺達も領主だ!」

 「それよりも早く魔石を取れ! ここは俺が防ぐ」

 「おう!」

 階段を上がってきた大柄のごつい男とブズルが話している。
 そして少し遅れてもう一人、この男も大柄だ。
 全員で三人の男達でここまで来たようだ。

 俺はそれをボーっとただ眺めている。
 モンスター達はガーゴイルが倒されたことで雰囲気が変わっている。
 すこし本気で攻撃を仕掛ける気だ。

「我が君……」

 マロンが俺の様子を心配して、気遣わしげに声をかけてくる。

「ショックだ……」

「ショック、ですか?」

 マロンが俺の独り言に問い返す。

「いや、われ配下達を……ガーゴイル達をかわいい我が配下達と思っていたのだが……」

「はい、彼らは我が君のものです。……そして、この私も……」

「確かにな。しかしわれは少し思い違いをしていた。かわいい我が配下達ではないようだ」

「え?」

 そう、俺は勘違いをしていた。
 モンスター達とは確かに繋がりを感じる。
 が、その繋がりは身体の部分で言えば、髪や爪の先のような関係。

 ダンジョンマスターとダンジョンモンスターの繋がりとはそう言うものなのだ。
 ガーゴイルが倒された瞬間、それが分かった。

 良い、悪い、では無い。

 そう言うものなのだ。

 しかし前世の記憶・常識があったせいで、深刻に悩んだ直後である。
 その直後に、ダンジョンマスターとしての本能的反応をいきなり付き付けらた。

 ガーゴイルが倒されてショックを受けない俺。
 そんな俺自身の反応に、若干ショックを受けたのだ。

 そして、ダンジョンと侵入者の間には、良い、悪い、では無く、命のやり取りがある。
 前世でもサバンナやジャングルなど野生の世界で、命のやり取りは、当然だった。
 この世界では、敵意を持って向かってくるものとの命のやり取りは、当然の事なのだ。

 それがこの世界の常識であり、神様がそう造った世界のルール。
 ダンジョンにおける初めての戦闘で、やっとそれが実感として分かった。

 本能的には元々分かっていたのだが。
 前世の記憶を持っていると言うのは、こういった面で不便かもしれない。

 そもそもの考えるスタート地点が違っていた。
 考えるポイントが違っていた。
 あまり前世の常識や道徳観を引きずり過ぎると危険だ。

 ガーゴイルは俺の代わりに死んだに過ぎない。
 剣を抜いている相手に話し合いなんて甘く考え過ぎていた。
 もしかすると俺が、ああなっていたかも知れない。
 いや、前世の記憶に囚われ過ぎていれば、何処かの瞬間で、確実にああなっていた。

 今回の事は良い教訓になった。

 しかし、悲しさが少ないからと言って、ガーゴイルの死は無駄には出来ない。

 決着をつけよう。
 今更ながら覚悟を決めなければならない。

 男達は当然、最初から覚悟を持ってここに来ているのだろう。

 モンスター達はまだ何処か遠慮しているように見える。
 覚悟を決めた以上は、全力排除の命令を出さなければならないか……。

 いや、でも殺す必要ないのか?
 無力化でもいいかもしれない。

 ……でも今はその前に……。

「聞け!」

 俺が広場に響き渡る声を放つと、モンスター達と侵入者達の手が一瞬止まる。
 そして俺の方へと視線を向け、侵入者達が次々に口を開く。

「な、なんだ? 人間か? 俺達より先に着いたのか? どうやって……」

「もしかして、一番魔石はあの野郎が?」

「おい! お前俺達はバズズ盗賊団だぞ! 一番魔石を持っているなら寄こせ!」

「そうだ! ぶっ殺すぞ、小僧!」

「ガキ! 聞こえねーのか! マジで殺すぞ!」

 男達の口汚い罵りが飛び続ける。
 同時に、俺の話を聴く為に動きを止めたモンスター達から距離をとる。
 そして回りこみながら俺のほうに近づいてくる。

 しかしあいつら、盗賊団だったのか。どうでもいい情報だが……。
 でも、聞け! の続きを聞かないのか?
 気にならないか? 普通は。
 まあ盗賊団だし、普通を求めても仕方ないか。

 そんな事を考えながら、俺は『限定転移』を使い一瞬にして男達とモンスター達の間に姿を現す。
 と同時に声をかける。

「貴様ら、ここが何処で、何をしたのか分かっているな?」

「えっ?」

 ガーゴイルを抱えているブズルが間の抜けた声を出す。

「死んでも文句の言えない場所だと分かっているか」

「なに言ってやがる。一番魔石を出さなきゃ死ぬのはお前だガキ!」

 間の抜けた声の挽回とばかりに、ブルズがドスの利いた声で返してくる。
 どうやら指輪の翻訳機能は、相手に意思を伝える時も有効なようだ。
 声に込められた意思が、指輪に組み込まれた魔法的作用によって伝達されるようだ。
 その証拠に日本語でも通じている。

「俺達はあのバズズ盗賊団だぞ。マジでおまえの親兄弟、ありとあらゆる関係者を……」

 ブルズが再び脅し文句を続けている途中で、大柄の男二人が剣を振り上げ、

「死ねや! 小僧!」

 問答無用で剣を俺に叩き付けてくる!

 盗賊団らしいなかなか良い判断ではある。
 もし一番魔石というものを俺が持っているなら、殺して奪う。
 まさに、盗賊団の発想だ。
 普通ならこれで終わりだろう。
 が、剣は俺にぶつかる寸前で止まり、

「グッ!」大男二人が呻き声を上げる。

 俺の『念動』で動きを止められた剣は、ピクリとも動かない。
 男達は必死で剣を押したり引いたりしている。
 
「な、何で動かないっ!」

 ……多数が相手とはいえガーゴイル達に手間取っていた時点で分かっていた。
 予想通り、この男達程度ならば俺の相手にはならないようだ。

「再び問う。貴様ら、ここが何処で、何をしたのか分かっているな?」

 俺の場違いとも言える冷え切った言葉に、男達が一瞬怯む。
 もはや話し合う事など想定外だ。
 が、俺の知らない第一魔石などの発言もあった。
 情報収集はしたい。
 全力排除の命令をだして倒してしまうより、現在は情報のほうが優先だ。

 そこで俺は間を置かず『念動』を使い男達の身体を拘束、尋問しようとした瞬間、

 ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ドン!!!!!!!!!

 猛烈な勢いで数多の剣が俺の横を通りぬけ、男達に突き刺さる。
 男達は呻き声を上げる暇も無く、崩れ落ち……。
 全員絶命する。

 ……。

「おい……」

 振り返れば甲冑騎士達が剣を投げつけた姿勢で固まっている。
 他のモンスター達も今にも飛び掛らん勢いで迫ってきている。
 どうやったのかマロンまで俺の真後ろまで一瞬で詰めて来ている。

「……確かになるべくとは言ったけど」

『人間や亜人が相手だった場合はなるべく……なるべくで良い。無理ならいいのだが、出来るだけ追い返すだけにせよ』

 そう言ったのは俺だけど……。
 ……俺が攻撃を受けるのは、『なるべく』を通り過ぎた緊急事態と言う訳か。
 ガーゴイルが一体倒されても、まだ本気には成っていなかったのに……。

 まあ、モンスター達からしたら当然なのだろう。
 俺が倒されてしまえばダンジョンそのものが終わってしまう。
 ダンジョンモンスターにとっての本能的反応ともいえるか。

 仕方が無い……が、男達に聞きたい事もあった。
 それが聞ければ、情報料として命だけは助けてもいいかと思っていたのだが……。
 釈放するかは分からないけど。

 ……しかし、やはり人の死と言うのは心が痛む。
 ただやはりと言うべきか、ライオンに草食獣が襲われて倒されているのを見る感覚に近い。
 ショックではあるが、これもまた摂理の中の一つという感覚……。
 
 生まれ変わって、精神構造自体も変わったのだろう。
 だけど、この世界で生きていく上では良かったのかもしれない。
 前世の心のままだったら、こういう部分はとても耐え切れない厳しさをもった世界だ。

 俺もそろそろダンジョンマスターとして生きていく覚悟を決めなくてはいけないようだ。

 しかし、他のダンジョンマスターはそもそもこんな覚悟、決める必要が無いのだろうなぁ、とも思う。
 なぜならこのルールは基から生まれ持っている感覚なのだから。

 ……現時点ではダンジョンマスターの場合、前世の記憶持ち越し能力って、不正解なのかな?

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