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雨宿りする2人
しおりを挟むカッパが走り、その後ろを宇宙人がついて来ている。
カッパが近道だからと選んだ道は、道ではなく草が生い茂ったルートだった。
獣が通った形跡すらなく、宇宙人は本当にカッパを信じていいのか迷い、少し心配になっていた。その時―
「ここだよ!」カッパは速度を緩めて前方を指さした。
そこには小屋があった。もう何年も誰も住んでいないような雰囲気で、ところどころに修復したような跡がある。
カッパが扉に手をかけてスライドさせると、ギギギッと軋むような嫌な音がした。カッパが中に入っていく。それを確認すると宇宙人も中に入った。
宇宙人が小屋の中を見渡す。くもった窓から外の光は入っては来るが薄暗い。
少しすると、小屋の屋根にポツポツと雨音が聞こえてきた。
「お、降ってきたな」天井を見上げながらカッパは言う。
「セーフ!危なかったー」
「僕はこれくらいの雨が丁度気持ちいいんだけどね」と言いながらカッパは、入ってきた扉を少しだけ隙間を残して閉めた。
宇宙人は奥の方に木の椅子を2脚見つけたので、窓際の少し明るい所へ持ってきた。
「ありがとう」それを見たカッパはそう言って座り、宇宙人も腰かけた。
少しの間黙って雨音を聞いていた2人だったが、宇宙人が話しかけた。
「カッパって、基本的に水の中にいると思ってたけど、違うんだな」
「うん。バランスかな」
「バランス」宇宙人はどういう意味かわからない顔で繰り返す。
「そう。その時の気分とかそういうの。ずっと陸とか、ずっと水の中とか、そういう事は無いんだよ」
「へぇ。じゃあ、もう一つ質問。食べるのはキュウリばっかりなの?」
「いや、これもバランスかな。個性もあるし。僕はどっちかというとトマトの方が好きだし」
「トマト好きのカッパなんて始めて聞いた・・・。あ、質問もう1つ」
「まだあるの。多いな」
「ラストだから。やっぱりカッパって、皿が乾くと死ぬの?」
「ううん。死なないよ」
「え、死なないの?」
「うん」
「そうなんだ。何もなし?」
「いや、おかっぱになる」
宇宙人は何も言わずに窓の外に視線を移した。心なしか、雨が少し強くなった気がした。
宇宙人は、立ち上がって部屋の中を少し歩いた。部屋の真ん中の少し奥に木のテーブルが置かれている。その上にはいくつかの木材が置かれているだけだった。棚もいくつかあるが、中にある物はどれもほこりをかぶっていた。
壁には農作業用のクワや、大きなノコギリなどが立てかけられているが、どれも錆びている。
「そういや、なんか変なニオイがするな。この建物」宇宙人が言う。
「カビかな?暑さとか寒さをしのぎたい時によく来るんだけど、もう何年も人は見てないから」
「地球人って、住まないのに家を建てるんだな」
「住んでた人が亡くなったとか、都会に引っ越したとか、そういう事だとは思うけどね」
「勿体ないなぁ。うちの星にこんな大きな家があったら喜んで住むけどなぁ」
「誰も来ないような場所にある家は買わないし住まないんだよ。地球人は」
「あ、仙人ってやつかも」宇宙人はカッパの方を見る。
「仙人?」カッパも視線を合わせる。
「そう。地球大百科で見たよ。山にこもって修行している老人が仙人だって」
「そんなのいるんだ。でも、この辺りで老人なんて見た事ないけど」
「そっかー。1人でいる事を望むらしいから丁度いいと思ったんだけど」
2人が話をしていると、突然コンコンコンコンと、扉を叩く音がした。
「すみませーん」
外から人の声がした。2人は慌てて部屋の奥の棚の陰に隠れた。
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