関西桃産太郎

なおちか

文字の大きさ
上 下
31 / 35

なんでやねん

しおりを挟む
赤鬼の一撃で高さ4メートル程の岩は大破し、サスケとマルの姿が見えなくなりました。

「サスケ!マル!」太郎は叫び、崩れた瓦礫を見つめ呆然としました。

鬼は再び歩き出し太郎の方へ向かってきます。「おいおい。覇気が無いじゃないか。諦めたのか」鬼は薄ら笑いを浮かべながら太郎の前まで来て、襲いかかりました。右腕を振り下ろし負傷している太郎の左腕を狙い、太郎は本能でそれを刀で受け止めました。

「なんだ、まだ戦えるじゃないか。じゃあ遊ぼう」赤鬼は手加減した攻撃で太郎を攻めます。右腕、左腕で交互に突き、太郎はそれを片腕の刀で受け止めます。鋭利な爪と刃が当たり、カキンッという音が何度も鳴ります。しかし、負傷した上に片手の太郎は全てを受けきれず、腕、胸部、腹部などに徐々に傷を負っていきました。そして耐えられなくなった太郎は片膝をつき動きも止まってしまいました。

「もう終わりかな。残念だ」そう言って赤鬼は右腕を振り上げました。

太郎はふぅと息を吐くと歯を噛みしめ、鬼を睨みつけました。最後まで戦うと決めた太郎の精一杯の抵抗でした。その太郎の目を見た鬼はピタッと動きを止めるとそのまま右腕を下ろしました。

「その目は嫌いだ。楽しくない。恐怖や絶望に満ちた顔をしてくれよ」赤鬼は太郎に顔を近付け目の前で言いました。太郎は目をそらさずに鬼を変わらず睨みつけたままです。「お前は今から死ぬんだぞ?オレを殺す為に生まれたとほざいたお前が!」鬼は続けます。太郎はそれでもまばたき1つしません。「助けてくれ、死にたくないって叫べ!」赤鬼は右手を握りしめ太郎の左頬を殴りました。太郎は2メートル後方まで飛ばされ岩に背をぶつけました。うめき声を上げ、立ち上がる事ができない太郎でしたが、それでも睨む事をやめません。

鬼は太郎に向かってまた歩き出しましたが、2歩進んだところで足を止めました。そこでクルッと後ろを向くとそのまま歩いて行き、足を止めたのは気を失っているハナの横でした。赤鬼は左手でハナの胴体を掴み持ち上げました。

「お前、何してん・・・ねん・・・」太郎は刀を支えにしてなんとか立ち上がり、鬼に向かおうとしましたが、殴られた影響が残っていて思うように足が動きません。

「やっぱりこの犬が大事かぁ。人間の殺されるときの顔が好きだが、もう1つ好きな顔があった。それはな、家族、恋人、友、仲間、そういったお前たちが大事にする人を殺された時の顔だ」

「やめろ・・・やめてくれ・・・」太郎涙を浮かべながらは少しずつ前に進みます。

「その顔だ!目の前で仲間が殺されるのを良く見ておけ!どう殺すのがいい?顔を潰すか?そうだ、顔を握りつぶそう。それがいい。もっと最高の顔を見せろ!」赤鬼はそう言ってハナの鼻先からわし掴みにしました。その時、「がああああああ!」と鬼は叫びハナを落としました。「何をしたあ!!」激昂した鬼が落ちたハナを蹴ろうと足を振り上げた時、マルが猛スピードで飛んできてハナを掴みその場から離れました。

ポタ・・・ポタ・・・と鬼の手の平から血が滴り、何かが溶けていくような煙も同じところから出ています。鬼は止まらない血を見て動揺し、困惑した表情で立っています。マルが止まった岩を太郎が見ると、サスケもそこにいて、みんながそこに揃っていました。

「お前ら!!」思わず太郎が叫びます。

「太郎!鬼の手からの血が止まらない!という事は傷が修復できていないということだ!ハナは気絶したままで何もしていない!ならば、考えられるのは鬼の手に傷を与えたのは、コイツの口についたきな粉だ!」マルも叫びます。島に来る直前にみんなで食べた団子とおはぎに使われていたきな粉が、ハナの口の周りについたままでした。

「鬼の弱点がきな粉?そんな事ありえるか?」太郎は一瞬考えましたが、「いや、もうこれしかない。これが無理なら全滅や。全てを懸ける」と決意し、腰の巾着を開けました。最後の1個のおはぎはあんこのおはぎでした。「なんでやねん!」太郎はそう言って愕然としましたが、「あんこのおはぎを残したのは自分や」と思い直しました。この巾着にも他の団子やおはぎがいくつか入っていたことを思い出し、底の方を確認すると、少量でしたがきな粉が残っていました。おはぎのあんこを刀に塗り、その上からきな粉をまぶし、太郎は鬼に向かって歩き出しました。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

東洋大快人伝

三文山而
歴史・時代
 薩長同盟に尽力し、自由民権運動で活躍した都道府県といえば、有名どころでは高知県、マイナーどころでは福岡県だった。  特に頭山満という人物は自由民権運動で板垣退助・植木枝盛の率いる土佐勢と主導権を奪い合い、伊藤博文・桂太郎といった明治の元勲たちを脅えさせ、大政翼賛会に真っ向から嫌がらせをして東条英機に手も足も出させなかった。  ここにあるのはそんな彼の生涯とその周辺を描くことで、幕末から昭和までの日本近代史を裏面から語る話である。  なろう・アルファポリス・カクヨム・マグネットに同一内容のものを投稿します。

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

魂魄シリーズ

常葉寿
歴史・時代
桃太郎(キザシ)、金太郎(トキ)、浦島太郎(ハル)が活躍する和風ファンタジー歴史群像! 駄文ですがお楽しみくださいませ。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第12章を週1回程度更新します】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章では16世紀後半のヨーロッパが舞台になります。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

処理中です...