間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
1,022 / 1,056

【新婚旅行編】九日目:とある王様は、まだまだ落ち着けない

しおりを挟む
 メイクの方もそういった方針で施されているようだ。彼のチャームポイントである透き通った瞳を生かすように……いや、その琥珀色の瞳により魅入られてしまいそうな。引き立てられてはいるものの、あくまでも自然な程度には留められている。

 身に纏っている服は、やはりバアルとのお揃いであった。ただ、その形は少し異なっている。バアルよりも線が細く、小柄な彼がカッコよく頼もしく見えるよう、バアルとは違ってスタイルの分かりにくいデザインになっていた。だからといって、服に着られているという感覚はない。此方もヘアメイクと同じで丁度いい塩梅であった。

 今までとは雰囲気の異なるアオイ殿に見惚れてしまう。父上達もであろう。皆、ただただ見つめてしまっていた。アオイ殿を不安にさせてしまったのも無理はないであろう。

「あ、れ……? や、やっぱり、失敗? マズっちゃった? やっぱり俺も、バアルと一緒にじゃじゃーんって出て行ってた方が良かったかな?」

「いえ、ちゃんと成功しておりますよ。サプライズのサプライズが」

「え? で、でも、皆さん黙っちゃって……」

「レタリー……!!」

「ひゃ……」

 アオイ殿がビクリと小さな肩を揺らす。申し訳なく思ったが、今は確かめたいことが。

「はい、ヨミ様」

「バアルとアオイ殿が送ってくれていたという写真と動画の内容は?」

「バアル様にヘアメイクをして頂けた上にお揃いの衣装も用意して頂けていたので、すぐに脱いでしまうのは勿体ないと、折角だから踊りましょうと、お二人がコルテのヴァイオリンに合わせて踊っていらっしゃる写真と動画でございます」

 そんな素敵なことを隠していたとは。これには皆も驚いたのか、見惚れていた状態から戻ってきたようだ。

「わし、見せてもらえておらぬが……」

 残念そうに太い眉を下げた父上に続いて、グリムがおずおずと口を開く。

「ぼ、僕とクロウも……」

 グリムを宥めるように頭を撫でているクロウも、表情は変わらぬもののその眉間には僅かにシワが寄っていた。レタリーが父上達に向かって頭を下げる。

「申し訳ございません。直に拝見させてもらった後の方が宜しいかと……私の独自の判断により隠しておりました」

「ってことは、この後は共有してもらえるんで?」

 ちゃっかりと尋ねてきたクロウにレタリーが頷く。

「ええ、速やかにお送り致します」

「やったぁ! ありがとうございます!」

「おお、楽しみじゃのう」

 皆は和気あいあいとしておるが、私の気分はまだまだ落ち着けてはいなかった。ホッとしている様子のアオイ殿に思わず大きな声で呼びかけてしまうほどに。

「アオイ殿!!」

「は、はいっ」

「つまりはっ、今ここで! アオイ殿とバアルのダンスを拝見出来る、ということで宜しいのであろうか?」

 アオイ殿がバアルと視線を交わす。微笑むバアルに頷いてから私にも微笑みかけてくれた。

「はい、宜しければ、ですけど……」

「見たいです!」

 はい、はいっと元気よく手を上げたグラムに続けてクロウが、父上が、レタリーが続く。アオイ殿は再びバアルに微笑んでから、頑張りますっと気合十分。胸の前で握り拳を作っていた。

「ああ、だがその前に」

「はい……?」

「誠にカッコいいぞ、アオイ殿。あまりの眩さに言葉を失ってしまうほどにな」

「うむ、二人共男前じゃのう!」

 私に続くように父上が言葉を重ねた。アオイ殿は少しの間、驚いたように目を瞬かせていたが、すぐさま可愛らしい微笑みを見せてくれた。白い頬がほんのりと赤く染まっていく。

「あ、ありがとうございます……」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました

むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...