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【新婚旅行編】三日目:いやいや、何でそこで誤魔化しちゃうかな?

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 程よく冷たいお水で喉を潤してから、美味しい紅茶でホッとひと息。温かいカップをちびちび傾けながら半分くらいを飲み終えたところで、側で浮かんでいるソーサーへと一旦預けた。

「どうします、夕ご飯? 俺はまだ、あんまり空いてはいないんですけど」

 時間的には夕飯時だなぁってだけで振った、脈絡のない会話。バアルさんは、俺の肩を抱いたままカップをソーサーへ。シャープな顎に長い指を当てながら、片眉を下げた。

「私もあまり。貴方様とご一緒に作った品々が美味しかったものですから、つい食べ過ぎてしまいました故」

「あー……俺もです」

 やっぱりバアルさんもだったか。あの遅めのティータイムから、まだほんの数時間しか経っていないんだもんな。

 今より少し前のこと、市場で買い物を終えた俺達は、早速エプロンをつけて台所にて肩を並べた。切ったことのないフルーツは、バアルさんに教えてもらいながら食べやすいサイズに。それら色とりどりの果実を、中身をくり抜いた小さめのスイカに、サイダーで満たした器に浮かべたフルーツポンチ。

 残ったフルーツはトッピングとして。ちょっぴり形は歪になってしまったが、焼き目はこんがりきつね色な焼き立てのパンケーキには、たっぷりのクリームと一緒に。バアルさんのお陰で、初めてにしては上手く焼けたタルト生地の上にもたっぷりと。

 後はお馴染みなサンドイッチを、具材には予定していた通りに茹でたエビや、バアルさんと一緒に捌いた白身魚をフライにして。さらにはベーコン、チーズの入ったスクランブルエッグ、千切りにしたキャベツやスライスしたトマト。それらを色々と組み合わせてバゲットに挟んだ結果、サンドイッチだけでも大満足なボリュームになってしまっていた。

 完成した品々は、二人ではたとえお腹がペコペコでも食べ切れない無謀な量。テーブルを埋め尽くさんばかりのそれらを見て、ようやくお互いに我に返ったものの、時すでに遅く。

「どうしましょうか……流石に今からじゃ遅いですよね? ヨミ様やグリムさん達に、お茶しませんかってお誘いするの……」

 つい、いつのように皆さんとご一緒にいただけないかな、なんて我が儘なことを考えた俺の一言が切っ掛けとなった。

「名案ですね、連絡してみましょう」

「へ? で、でも」

「ご都合が悪ければ、それぞれのお品をラッピングしてから、皆様方へお裾分けすれば宜しいでしょう? それから、出発前にお願いして、許可を頂けたではございませんか。会いたくなったらいつでも誘って構わないと」

 そこからは、トントン拍子に。先ずはヨミ様の秘書であるレタリーさん、そしてグリムさんとクロウさんに連絡を。すぐに嬉しいお返事が返ってきたかと思えば、間を置かずに皆さんが魔法陣を使ってお部屋に来てくれたのだ。

 二日ぶりな皆さんとのお茶会、その会話のメインはもっぱら俺達の新婚旅行。初日の海底散歩や今日の市場での出来事、それから今後の予定と弾めば弾むほど紅茶のお供も進んでしまう。全部美味しくいただけたのは、皆さんと楽しめたのは良かったんだけど、お腹は満腹になってしまったって訳で。

「もう、お風呂は済ませましたし……このままのんびりして、お腹が空いたら何か食べましょうか?」

「左様でございますね」

 微笑み合って会話が終了。訪れた沈黙は重たいことは全くなく、穏やかなものだった。とある約束を、俺が思い出すまでは。

 ……そう言えば、昨日の夜って、何してたんだっけ? 何でか記憶がボヤけているような。

 頼もしい彼の肩に身を寄せながら記憶を辿る。確か、初めてバアルさんの羽と触角のお手入れをさせてもらえて、それから。

「あっ……」

 そうだ。俺、酔っ払っちゃったんだ。バアルさんの好物のワインケーキを食べて。そのせいで、大事な一晩を眠りこけちゃっただけでなく、バアルさんにも迷惑をかけちゃったみたいで、そして。

「アオイ?」

「うひゃあっ!」

「申し訳ございません……突然可愛らしい声を上げられたかと思えば、何やら悩んでいらっしゃるご様子でしたので」

「い、いえ……俺の方こそ、びっくりさせちゃってごめんなさい」

 心配させてしまったらしい。凛々しい眉を下げて俺を見つめる彼の触角はしょんぼりと下がり、はためいていた羽も縮んでしまっている。

「あー……いや、ちょっと、その……思い出してて、今日のこと……」

「左様で、ございましたか……」

 いやいや、何でそこで誤魔化しちゃうかな?
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