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【新婚旅行編】一日目:二人っきりのプライベートビーチ
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視界を鮮やかに彩っているのは白と、青に、時々緑。
足元に広がっているビーチ、晴れ渡った空と共に遥か遠くまで続いていそうな雄大な海。そして、周りを見渡せば、いかにも南国に生えていそうな背の高い植物達。
白い砂を穏やかにさらっていく飛沫と、漂う磯の香りに誘われて俺は一歩、二歩と透き通った青に向かって足を運んでいた。
「何だか、無人島にでも来た気分ですね……」
「ええ」
音もなく隣に竚んでいた彼、バアルさんが長く引き締まった腕を俺の肩へと回す。優しく抱き寄せてくれた大きな白い手が、柔らかな風に弄ばれている俺の髪を梳くように撫でてくれた。
ウェルカムドリンクを楽しんだ後、俺達は早速海へと繰り出すことに。ホテルに着いた時と同様に、今度はプライベートビーチへと転送してくれる魔法陣によって、瞬く間にこちらへと辿り着いたという訳で。
「ビーチの周囲には、特殊な術が施されております。分かりやすく言えば、結界のようなもの……でしょうか。故に、王族の許しを得た者しか足を踏み入れることは敵いません。此方を見つけることすら」
「へぇ……それで」
のどかな雰囲気というか、俺達の声以外は波の音しか聞こえてこない訳だ。
実際、地形的にもこのビーチだけ区切られている。なんて言ったらいいのかな。あー……ほら、あれだ。パズルのピースの凹んだとこみたい。そこに、岸壁が抉れた部分に、海が流れ込んできているみたいな。
そんでもって、ビーチの後ろは青々しい植物達に囲まれているのだ。森のように生い茂っている彼らによって、俺達がお世話になっているホテルやその他の建物など、人工的な物が何一つ見えない。
だから、余計に増しているんだと思う。良くある漂流ものの映画や、ドラマみたく。この身一つで、バアルさんと一緒に無人島へと流れ着いて来てしまった感が。
「因みに、結界の中の天気は常に快晴。気温も過ごしやすい温度に保たれております」
ホントに魔術って何でもアリだな。
時間すら思うがままに操れる、この国一番の術士さんが隣にいらっしゃるから、多少のことじゃあ驚かない自信はあったのにさ。
「スゴいですね……あ、じゃあ、もしかして、日が暮れることってなかったりします?」
「いえ、ご心配なく。ちゃんと時刻に合わせて日が沈みますし、夜も訪れますよ」
ふむ。ということは……曇ったり、雨が降ったりすることはないってだけで、後は普通ってことか。いや、南国でありがちな、急などしゃ降りに遭わないってだけでも十分に便利だけども。
「お望みであれば、昼のままや夕暮れのまま、今すぐ夜にすることも出来ますが……」
「あーいや、お気持ちは有り難いんですけど、それだと時間の感覚が分かんなくなっちゃいそうなんで」
「畏まりました」
目尻に刻まれたシワを深めながら「もし、今と異なる景色を楽しみたくなった場合は、遠慮なく申しつけて下さいね」と付け加えてくれる。
異なる景色って。もし俺が、虹を見たいとか我儘言っても叶えてくれたりするんだろうか。
……叶えてくれそうだな。それこそ、部屋を厨房へと変化させてくれる時のようにスマートに。
それもこれも、結界の中だから出来ることなのかな。だったら、外は、どんな風に。
「結界の外に出れば、宿泊者専用のビーチがございます」
足元に広がっているビーチ、晴れ渡った空と共に遥か遠くまで続いていそうな雄大な海。そして、周りを見渡せば、いかにも南国に生えていそうな背の高い植物達。
白い砂を穏やかにさらっていく飛沫と、漂う磯の香りに誘われて俺は一歩、二歩と透き通った青に向かって足を運んでいた。
「何だか、無人島にでも来た気分ですね……」
「ええ」
音もなく隣に竚んでいた彼、バアルさんが長く引き締まった腕を俺の肩へと回す。優しく抱き寄せてくれた大きな白い手が、柔らかな風に弄ばれている俺の髪を梳くように撫でてくれた。
ウェルカムドリンクを楽しんだ後、俺達は早速海へと繰り出すことに。ホテルに着いた時と同様に、今度はプライベートビーチへと転送してくれる魔法陣によって、瞬く間にこちらへと辿り着いたという訳で。
「ビーチの周囲には、特殊な術が施されております。分かりやすく言えば、結界のようなもの……でしょうか。故に、王族の許しを得た者しか足を踏み入れることは敵いません。此方を見つけることすら」
「へぇ……それで」
のどかな雰囲気というか、俺達の声以外は波の音しか聞こえてこない訳だ。
実際、地形的にもこのビーチだけ区切られている。なんて言ったらいいのかな。あー……ほら、あれだ。パズルのピースの凹んだとこみたい。そこに、岸壁が抉れた部分に、海が流れ込んできているみたいな。
そんでもって、ビーチの後ろは青々しい植物達に囲まれているのだ。森のように生い茂っている彼らによって、俺達がお世話になっているホテルやその他の建物など、人工的な物が何一つ見えない。
だから、余計に増しているんだと思う。良くある漂流ものの映画や、ドラマみたく。この身一つで、バアルさんと一緒に無人島へと流れ着いて来てしまった感が。
「因みに、結界の中の天気は常に快晴。気温も過ごしやすい温度に保たれております」
ホントに魔術って何でもアリだな。
時間すら思うがままに操れる、この国一番の術士さんが隣にいらっしゃるから、多少のことじゃあ驚かない自信はあったのにさ。
「スゴいですね……あ、じゃあ、もしかして、日が暮れることってなかったりします?」
「いえ、ご心配なく。ちゃんと時刻に合わせて日が沈みますし、夜も訪れますよ」
ふむ。ということは……曇ったり、雨が降ったりすることはないってだけで、後は普通ってことか。いや、南国でありがちな、急などしゃ降りに遭わないってだけでも十分に便利だけども。
「お望みであれば、昼のままや夕暮れのまま、今すぐ夜にすることも出来ますが……」
「あーいや、お気持ちは有り難いんですけど、それだと時間の感覚が分かんなくなっちゃいそうなんで」
「畏まりました」
目尻に刻まれたシワを深めながら「もし、今と異なる景色を楽しみたくなった場合は、遠慮なく申しつけて下さいね」と付け加えてくれる。
異なる景色って。もし俺が、虹を見たいとか我儘言っても叶えてくれたりするんだろうか。
……叶えてくれそうだな。それこそ、部屋を厨房へと変化させてくれる時のようにスマートに。
それもこれも、結界の中だから出来ることなのかな。だったら、外は、どんな風に。
「結界の外に出れば、宿泊者専用のビーチがございます」
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