571 / 1,061
【番外編】ただ、貴方にありがとうと5
しおりを挟む
席に着く前から会場内に満ちていた、静かだけれどそわそわした空気が目まぐるしく変わり出す。
レタリーさんの進行によって入場された、ヨミ様とサタン様の登場により歓喜のざわめきが。そして、ヨミ様の呼びかけによりお二人が、アオイ様とバアル様が淡く輝く魔法陣から現れた時、一瞬時が止まったように静かになって、より大きくなった歓声がお二人に注がれたんだ。
皆、見惚れていたんだと思う。
だって、とてもキレイでカッコよくて、幸せな気持ちになれたから。柔らかな青い光に照らされながら手を取り合い、微笑み合うお二人の姿を見ているだけで。
お揃いの真っ白なタキシードを纏うお二人が、堂々とした足取りでヨミ様とサタン様が待つ祭壇の前へと向かわれる。
ふわり、ふわりとベールを揺らしながら、バアル様にエスコートされて歩みを進めるアオイ様。あともう少しで祭壇に辿り着く頃、一番前の席に座らせてもらっている僕達の直ぐ側を歩まれていた時、バアル様を見つめて微笑んでいた瞳が、僕とクロウに向けられた。
大事そうに持ってくれている緑とオレンジと白。僕達が作ったブーケを手を振るように軽く揺らして、緩やかな笑みを浮かべた口が開く。
「ありがとうございます」
確かに聞こえた。喜びと祝福に満ちあふれた音の洪水の中でも、温かくて優しい声が確かに。
クロウにも聞こえていたんだと思う。息を呑むような、何かを堪えるような声が聞こえたから。
僕は手を振り返した。振り返せたと思う。笑顔で応えられたと思う。
アオイ様が笑みを深くして、小さく頷いて、バアル様の方を向く。最後の数歩を歩まれて、お辞儀をしたお二人をヨミ様とサタン様が笑顔で迎えた。
祭壇に祀られている白い炎が見守る中、あの日の続きが、お二人が神様の前で永遠を誓った続きが始まった。
さっきとは打って変わって会場が厳かな空気に包まれる。
ヨミ様がお二人に誓いの言葉を問いかける。問いかけているんだと思う。でも、僕の耳にはぼんやりとしか。
ずっと耳に残っているからだ。身体中に広がるようにこだまし続けているからだ。アオイ様が僕達に言ってくれた「ありがとう」が。
胸を満たす、じんわりとした温かさを噛み締めている間も式は続いていく。
誓いを終えたらしいアオイ様とバアル様が向き合って、緑とオレンジに煌めく魔宝石の指輪がバアル様からアオイ様へ。アオイ様からバアル様へと交わされる。
幸せいっぱいな笑顔を浮かべるお二人が、ずっと願っていた光景が目の前にある。なのに、見えなくなってしまう。瞬きすら惜しいのに、熱いしずくが邪魔をして。
「まだだ」
僕にしか聞こえない声で呟いて、僕の手を握ったクロウが、真っ直ぐにお二人を見つめたまま続ける。
「約束しただろう? ちゃんと一緒に見届けようって……だから、まだ……泣くな」
心強い声に支えられ、大きな手のひらを握り返せば、不思議と視界がはっきりとしていく。
胸に手を当て会釈をしたバアル様が、お二人を隔てていたアオイ様のベールをゆっくり持ち上げる。
どちらともなく手を重ねて、バアル様がスラリと伸びた背を屈めて、お二人の微笑みが重なり合う。途端に沸き起こった歓喜の渦の中、僕は頬を伝う熱を感じながら目の前にある幸せを目に焼き付けていた。
「さあ、皆の者! これより先は無礼講である! 踊って、食べて、飲んで、笑うがよい!」
ヨミ様の宣言を合図に、式場が淡い光に包まれていく。瞬きの間にダンスホールへと変わった会場で、リハーサル通りバアル様とアオイ様が、明るいリズムに合わせて軽やかなステップを踏み始めた。
楽しそうに踊るお二人につられて、一人、また一人と輪に加わっていく。その様子をふわふわした気分で見つめていた僕達の前に現れたのは。
「グリムさん、クロウさん、一緒に踊りましょうっ」
眩しいくらいの笑顔を向けてくれるアオイ様、そのお側で優しく微笑むバアル様。
「はい……っ」
手を差し伸べて、誘ってくれるお二人の元へ、クロウと手を繋いで駆け寄っていく。
見届けることが出来たお二人の幸せ。でも、それはまだ始まったばかりにすぎない。これからも、お二人との日々は続いていくのだから。
レタリーさんの進行によって入場された、ヨミ様とサタン様の登場により歓喜のざわめきが。そして、ヨミ様の呼びかけによりお二人が、アオイ様とバアル様が淡く輝く魔法陣から現れた時、一瞬時が止まったように静かになって、より大きくなった歓声がお二人に注がれたんだ。
皆、見惚れていたんだと思う。
だって、とてもキレイでカッコよくて、幸せな気持ちになれたから。柔らかな青い光に照らされながら手を取り合い、微笑み合うお二人の姿を見ているだけで。
お揃いの真っ白なタキシードを纏うお二人が、堂々とした足取りでヨミ様とサタン様が待つ祭壇の前へと向かわれる。
ふわり、ふわりとベールを揺らしながら、バアル様にエスコートされて歩みを進めるアオイ様。あともう少しで祭壇に辿り着く頃、一番前の席に座らせてもらっている僕達の直ぐ側を歩まれていた時、バアル様を見つめて微笑んでいた瞳が、僕とクロウに向けられた。
大事そうに持ってくれている緑とオレンジと白。僕達が作ったブーケを手を振るように軽く揺らして、緩やかな笑みを浮かべた口が開く。
「ありがとうございます」
確かに聞こえた。喜びと祝福に満ちあふれた音の洪水の中でも、温かくて優しい声が確かに。
クロウにも聞こえていたんだと思う。息を呑むような、何かを堪えるような声が聞こえたから。
僕は手を振り返した。振り返せたと思う。笑顔で応えられたと思う。
アオイ様が笑みを深くして、小さく頷いて、バアル様の方を向く。最後の数歩を歩まれて、お辞儀をしたお二人をヨミ様とサタン様が笑顔で迎えた。
祭壇に祀られている白い炎が見守る中、あの日の続きが、お二人が神様の前で永遠を誓った続きが始まった。
さっきとは打って変わって会場が厳かな空気に包まれる。
ヨミ様がお二人に誓いの言葉を問いかける。問いかけているんだと思う。でも、僕の耳にはぼんやりとしか。
ずっと耳に残っているからだ。身体中に広がるようにこだまし続けているからだ。アオイ様が僕達に言ってくれた「ありがとう」が。
胸を満たす、じんわりとした温かさを噛み締めている間も式は続いていく。
誓いを終えたらしいアオイ様とバアル様が向き合って、緑とオレンジに煌めく魔宝石の指輪がバアル様からアオイ様へ。アオイ様からバアル様へと交わされる。
幸せいっぱいな笑顔を浮かべるお二人が、ずっと願っていた光景が目の前にある。なのに、見えなくなってしまう。瞬きすら惜しいのに、熱いしずくが邪魔をして。
「まだだ」
僕にしか聞こえない声で呟いて、僕の手を握ったクロウが、真っ直ぐにお二人を見つめたまま続ける。
「約束しただろう? ちゃんと一緒に見届けようって……だから、まだ……泣くな」
心強い声に支えられ、大きな手のひらを握り返せば、不思議と視界がはっきりとしていく。
胸に手を当て会釈をしたバアル様が、お二人を隔てていたアオイ様のベールをゆっくり持ち上げる。
どちらともなく手を重ねて、バアル様がスラリと伸びた背を屈めて、お二人の微笑みが重なり合う。途端に沸き起こった歓喜の渦の中、僕は頬を伝う熱を感じながら目の前にある幸せを目に焼き付けていた。
「さあ、皆の者! これより先は無礼講である! 踊って、食べて、飲んで、笑うがよい!」
ヨミ様の宣言を合図に、式場が淡い光に包まれていく。瞬きの間にダンスホールへと変わった会場で、リハーサル通りバアル様とアオイ様が、明るいリズムに合わせて軽やかなステップを踏み始めた。
楽しそうに踊るお二人につられて、一人、また一人と輪に加わっていく。その様子をふわふわした気分で見つめていた僕達の前に現れたのは。
「グリムさん、クロウさん、一緒に踊りましょうっ」
眩しいくらいの笑顔を向けてくれるアオイ様、そのお側で優しく微笑むバアル様。
「はい……っ」
手を差し伸べて、誘ってくれるお二人の元へ、クロウと手を繋いで駆け寄っていく。
見届けることが出来たお二人の幸せ。でも、それはまだ始まったばかりにすぎない。これからも、お二人との日々は続いていくのだから。
44
お気に入りに追加
524
あなたにおすすめの小説
君の想い
すずかけあおい
BL
インターホンを押すと、幼馴染が複雑そうな表情で出てくる。
俺の「泊めて?」の言葉はもうわかっているんだろう。
今夜、俺が恋人と同棲中の部屋には、恋人の彼女が来ている。
〔攻め〕芳貴(よしき)24歳、燈路の幼馴染。
〔受け〕燈路(ひろ)24歳、苗字は小嶋(こじま)
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる