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【番外編】ただ、貴方にありがとうと5
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席に着く前から会場内に満ちていた、静かだけれどそわそわした空気が目まぐるしく変わり出す。
レタリーさんの進行によって入場された、ヨミ様とサタン様の登場により歓喜のざわめきが。そして、ヨミ様の呼びかけによりお二人が、アオイ様とバアル様が淡く輝く魔法陣から現れた時、一瞬時が止まったように静かになって、より大きくなった歓声がお二人に注がれたんだ。
皆、見惚れていたんだと思う。
だって、とてもキレイでカッコよくて、幸せな気持ちになれたから。柔らかな青い光に照らされながら手を取り合い、微笑み合うお二人の姿を見ているだけで。
お揃いの真っ白なタキシードを纏うお二人が、堂々とした足取りでヨミ様とサタン様が待つ祭壇の前へと向かわれる。
ふわり、ふわりとベールを揺らしながら、バアル様にエスコートされて歩みを進めるアオイ様。あともう少しで祭壇に辿り着く頃、一番前の席に座らせてもらっている僕達の直ぐ側を歩まれていた時、バアル様を見つめて微笑んでいた瞳が、僕とクロウに向けられた。
大事そうに持ってくれている緑とオレンジと白。僕達が作ったブーケを手を振るように軽く揺らして、緩やかな笑みを浮かべた口が開く。
「ありがとうございます」
確かに聞こえた。喜びと祝福に満ちあふれた音の洪水の中でも、温かくて優しい声が確かに。
クロウにも聞こえていたんだと思う。息を呑むような、何かを堪えるような声が聞こえたから。
僕は手を振り返した。振り返せたと思う。笑顔で応えられたと思う。
アオイ様が笑みを深くして、小さく頷いて、バアル様の方を向く。最後の数歩を歩まれて、お辞儀をしたお二人をヨミ様とサタン様が笑顔で迎えた。
祭壇に祀られている白い炎が見守る中、あの日の続きが、お二人が神様の前で永遠を誓った続きが始まった。
さっきとは打って変わって会場が厳かな空気に包まれる。
ヨミ様がお二人に誓いの言葉を問いかける。問いかけているんだと思う。でも、僕の耳にはぼんやりとしか。
ずっと耳に残っているからだ。身体中に広がるようにこだまし続けているからだ。アオイ様が僕達に言ってくれた「ありがとう」が。
胸を満たす、じんわりとした温かさを噛み締めている間も式は続いていく。
誓いを終えたらしいアオイ様とバアル様が向き合って、緑とオレンジに煌めく魔宝石の指輪がバアル様からアオイ様へ。アオイ様からバアル様へと交わされる。
幸せいっぱいな笑顔を浮かべるお二人が、ずっと願っていた光景が目の前にある。なのに、見えなくなってしまう。瞬きすら惜しいのに、熱いしずくが邪魔をして。
「まだだ」
僕にしか聞こえない声で呟いて、僕の手を握ったクロウが、真っ直ぐにお二人を見つめたまま続ける。
「約束しただろう? ちゃんと一緒に見届けようって……だから、まだ……泣くな」
心強い声に支えられ、大きな手のひらを握り返せば、不思議と視界がはっきりとしていく。
胸に手を当て会釈をしたバアル様が、お二人を隔てていたアオイ様のベールをゆっくり持ち上げる。
どちらともなく手を重ねて、バアル様がスラリと伸びた背を屈めて、お二人の微笑みが重なり合う。途端に沸き起こった歓喜の渦の中、僕は頬を伝う熱を感じながら目の前にある幸せを目に焼き付けていた。
「さあ、皆の者! これより先は無礼講である! 踊って、食べて、飲んで、笑うがよい!」
ヨミ様の宣言を合図に、式場が淡い光に包まれていく。瞬きの間にダンスホールへと変わった会場で、リハーサル通りバアル様とアオイ様が、明るいリズムに合わせて軽やかなステップを踏み始めた。
楽しそうに踊るお二人につられて、一人、また一人と輪に加わっていく。その様子をふわふわした気分で見つめていた僕達の前に現れたのは。
「グリムさん、クロウさん、一緒に踊りましょうっ」
眩しいくらいの笑顔を向けてくれるアオイ様、そのお側で優しく微笑むバアル様。
「はい……っ」
手を差し伸べて、誘ってくれるお二人の元へ、クロウと手を繋いで駆け寄っていく。
見届けることが出来たお二人の幸せ。でも、それはまだ始まったばかりにすぎない。これからも、お二人との日々は続いていくのだから。
レタリーさんの進行によって入場された、ヨミ様とサタン様の登場により歓喜のざわめきが。そして、ヨミ様の呼びかけによりお二人が、アオイ様とバアル様が淡く輝く魔法陣から現れた時、一瞬時が止まったように静かになって、より大きくなった歓声がお二人に注がれたんだ。
皆、見惚れていたんだと思う。
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「ありがとうございます」
確かに聞こえた。喜びと祝福に満ちあふれた音の洪水の中でも、温かくて優しい声が確かに。
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胸を満たす、じんわりとした温かさを噛み締めている間も式は続いていく。
誓いを終えたらしいアオイ様とバアル様が向き合って、緑とオレンジに煌めく魔宝石の指輪がバアル様からアオイ様へ。アオイ様からバアル様へと交わされる。
幸せいっぱいな笑顔を浮かべるお二人が、ずっと願っていた光景が目の前にある。なのに、見えなくなってしまう。瞬きすら惜しいのに、熱いしずくが邪魔をして。
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心強い声に支えられ、大きな手のひらを握り返せば、不思議と視界がはっきりとしていく。
胸に手を当て会釈をしたバアル様が、お二人を隔てていたアオイ様のベールをゆっくり持ち上げる。
どちらともなく手を重ねて、バアル様がスラリと伸びた背を屈めて、お二人の微笑みが重なり合う。途端に沸き起こった歓喜の渦の中、僕は頬を伝う熱を感じながら目の前にある幸せを目に焼き付けていた。
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