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【番外編】自覚はあれど3

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 ……それはそれ、これはこれ、というものでしょうか。

 頑張って文字を練習している二人のやり取りを聞いていると、どうしようもない我儘な気持ちが湧いてきてしまう。

 何故、彼の隣りにいるのが私ではないのかと。私が、アオイに教えたかったのにと。

 無論、仕方がないということも分かっている。練習したい文字が分かってしまえば、サプライズにはならないのだから。私を喜ばせたいという、健気な彼を見ることが叶わないのだから。

 しかし、やはり寂し……

「……出来た! 出来ましたよ、バアルさんっ!」

 堂々巡りをしかけていた思考が、沈みかけていた気分が、不思議なほどに晴れやかになっていく。

 胸の内にこびりついていたドロドロしたものを、明るく弾んだ声が溶かしていく。

 アイマスクを外された瞬間、映った愛しい彼。満開の花のような笑顔に迎えられて、私の世界は瞬く間に色づいていった。

「お待たせしました、自信作です! どうぞ!」

「……ありがとう、ございます」

 差し出されたのは深い緑色の封筒。期待に満ちた眼差しに見つめられながら開けば、淡い緑の便箋が一枚、丁寧に折られて収まっていた。

 愛しい彼からの初めての手紙。万が一にも僅かなシワすらつけたくはないというのに。しかし、私は数秒すら惜しんで取り出していた。騒がしく高鳴り始めた心音に急かされるように広げていた。

 愛らしい字だった。便箋の真ん中に書かれていたのは、シンプルな言葉。少しよれながらも懸命に、力強く書かれた彼の想い。


『愛してる、バアル』


 ああ、なんて……彼の口から言葉にしてもらえるだけでも幸せなのに……こうして、形に残して伝えてくれるなんて……

 目の奥が、鼻の奥がツンと熱くなる。必死に堪えていたのに、彼からの大事な贈り物を濡らしてしまわないようにと。

「もっと練習して……いずれは紙一杯に、色んな言葉で、俺の気持ちをバアルさんに伝えられるように頑張りますね!」

 愛しい彼は、得意気な笑顔で言ってくれたのだ。まだまだ、こんなものでは終わらないのだと。さらなる幸せを私に贈ってくれるのだと。

 お陰様で、少々濡らしてしまったし、シワもつけてしまった。思わず彼ごと抱き締めて、握り締めてしまっていたのだ。

 気が付き、慌てて謝った私に「これはこれで、良い思い出になりますね。俺達だけの」とアオイは嬉しそうに微笑んでくれた。術で直そうかとも思っていたのだが……止めることにしよう。



「ところでバアル、アオイ殿の手紙を飾る為の額縁はどれにする?」

「オーダーメイドという手もございますよ」

「ひょわっ……」

 後日、私達の部屋にヒマワリとバラを彫った額縁が飾られることになる。今飾られている手紙は一枚だが、すぐにいっぱいにしてくれるだろう。
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