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分かっていても声を掛けずには、ほんの僅かな期待に縋らずには
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いつの間にやらカーテンの隙間からこぼれていた日の光に、思わずため息が漏れてしまう。ほんのつい先程まで、暗かったような気がしていたのだが。
一度、目を閉じてから開けてみたところで変わりはない。なんの容赦もありはしない。淡い光が私に伝えてくる。突きつけてくる。一日の始まりを。
……ああ、もう朝が来てしまったのか。変わらずに、また今日が始まってしまうのか。
重く気怠い体に力を込めて上体を起こせば、ベッドが鈍い音を立てた。何の変哲もない生活音ですら耳に障る。気分が悪い。
軽く魔力を込めた指先を弾いて鳴らす。全てのカーテンが開いたことで、室内は一気に明るくなったものの静かだ。より一層、寂しさを感じてしまう。
つい目に止まってしまうからだろう。
アオイと二人で、またはヨミ様やサタン様、クロウさん達と撮った写真。初めての城下町デートの記念にと、彼に贈ったハーバリウム。
まさか彼からも贈ってくれるとは思わなかった、咲かせてくれるとは思わなかった魔力の花。私が贈った緑のバラと共に、ガラスケースの中で寄り添い咲いているオレンジ色のヒマワリ。
広い部屋の至るところに、散りばめられてしまっているのだ。愛しい彼との思い出が。彼と過ごした日々の証が。
胸の辺りが切なく締めつけられる。心臓を握り潰されるかのごとく。
目の奥が熱くなっていく。平常心を保つことには長けていると自負していたのだが。
目頭を押さえ、頭を軽く振る。息を深く吸い込んで、吐いて。何度か繰り返している内に、幾分か落ち着いてきた。
これならば、微笑みかけることが出来るだろう。年甲斐もなく、みっともなく涙に震えた声になることもないだろう。
すぐ側で、眠り続けている愛しい彼の手を取る。
「……おはようございます、アオイ」
返ってこないのは分かっている。それでも声をかけずには、ほんの僅かな期待に縋らずにはいられなかった。
もしかしたら、またあの愛らしい声で応えてくれるんじゃないかと。固く閉じられているこの瞼が開いて、透き通った琥珀色の瞳を細めて、私に微笑んでくれるんじゃないかと。
アオイが……目覚めてくれるんじゃないかと。
けれども、現実は非情だ。返ってくるのは、規則正しい寝息ばかり。夢現な可愛らしい寝言すら聞くことは叶わなかった。
思わず抱き締めていた華奢な体は、こんなにも温かいというのに。
昨晩も、今朝も、ずっと変わることなく安らかに眠っている彼の頬を優しく撫でる。柔らかい琥珀色の髪を指で梳いてから、薄い胸板に耳を寄せる。寝息に混じって聞こえてくる命の音に、酷く安堵した。
……ああ、生きている。今朝も目覚めてはくれなかったけれど、けれども確かにアオイは。
「……今日も、私の妻は可愛いですね……お美しいです……カッコいいですよ……」
手を繋ぎ、額に頬にと口づけて、ありったけの愛を音に乗せる。
どうか、彼に届きますように。どうか、今日こそは、彼が目覚めてくれますように。
「……愛しております」
願いを込めた囁きが、ひんやりとした朝の空気に溶けていく。小さな手のひらに重ねて繋いだ手が、握り返されることもなく。
一度、目を閉じてから開けてみたところで変わりはない。なんの容赦もありはしない。淡い光が私に伝えてくる。突きつけてくる。一日の始まりを。
……ああ、もう朝が来てしまったのか。変わらずに、また今日が始まってしまうのか。
重く気怠い体に力を込めて上体を起こせば、ベッドが鈍い音を立てた。何の変哲もない生活音ですら耳に障る。気分が悪い。
軽く魔力を込めた指先を弾いて鳴らす。全てのカーテンが開いたことで、室内は一気に明るくなったものの静かだ。より一層、寂しさを感じてしまう。
つい目に止まってしまうからだろう。
アオイと二人で、またはヨミ様やサタン様、クロウさん達と撮った写真。初めての城下町デートの記念にと、彼に贈ったハーバリウム。
まさか彼からも贈ってくれるとは思わなかった、咲かせてくれるとは思わなかった魔力の花。私が贈った緑のバラと共に、ガラスケースの中で寄り添い咲いているオレンジ色のヒマワリ。
広い部屋の至るところに、散りばめられてしまっているのだ。愛しい彼との思い出が。彼と過ごした日々の証が。
胸の辺りが切なく締めつけられる。心臓を握り潰されるかのごとく。
目の奥が熱くなっていく。平常心を保つことには長けていると自負していたのだが。
目頭を押さえ、頭を軽く振る。息を深く吸い込んで、吐いて。何度か繰り返している内に、幾分か落ち着いてきた。
これならば、微笑みかけることが出来るだろう。年甲斐もなく、みっともなく涙に震えた声になることもないだろう。
すぐ側で、眠り続けている愛しい彼の手を取る。
「……おはようございます、アオイ」
返ってこないのは分かっている。それでも声をかけずには、ほんの僅かな期待に縋らずにはいられなかった。
もしかしたら、またあの愛らしい声で応えてくれるんじゃないかと。固く閉じられているこの瞼が開いて、透き通った琥珀色の瞳を細めて、私に微笑んでくれるんじゃないかと。
アオイが……目覚めてくれるんじゃないかと。
けれども、現実は非情だ。返ってくるのは、規則正しい寝息ばかり。夢現な可愛らしい寝言すら聞くことは叶わなかった。
思わず抱き締めていた華奢な体は、こんなにも温かいというのに。
昨晩も、今朝も、ずっと変わることなく安らかに眠っている彼の頬を優しく撫でる。柔らかい琥珀色の髪を指で梳いてから、薄い胸板に耳を寄せる。寝息に混じって聞こえてくる命の音に、酷く安堵した。
……ああ、生きている。今朝も目覚めてはくれなかったけれど、けれども確かにアオイは。
「……今日も、私の妻は可愛いですね……お美しいです……カッコいいですよ……」
手を繋ぎ、額に頬にと口づけて、ありったけの愛を音に乗せる。
どうか、彼に届きますように。どうか、今日こそは、彼が目覚めてくれますように。
「……愛しております」
願いを込めた囁きが、ひんやりとした朝の空気に溶けていく。小さな手のひらに重ねて繋いだ手が、握り返されることもなく。
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