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とある秘書は熱く魂を揺さぶられていた

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 結びの言葉を紡ぎ、頭を下げた私に参列者席の皆様が温かい拍手を送って下さる。

 儀式が行われる、青い石造りの祭壇の左隅。司会者台の前に立つ私は、お集まりの皆様への挨拶を無事に終えた。

「それでは、我らが太陽と星、サタン様とヨミ様のご入場です」

 粛々としていた会場の雰囲気がガラリと変わっていく。緊張した面持ち、期待に満ちた面持ち、真剣な面持ち。皆様、様々な表情を浮かべていらしたのに。一様に、喜びに満ちていく。

 祭壇近くにある、装飾が施された扉が開かれた。左右に控えていた、白銀の鎧を纏う兵士達の手によって。

 肩を並べ、ゆっくりと歩を進めていくサタン様とヨミ様。途端に皆が湧き、嵐のような拍手が巻き起こる。

 サタン様が羽織られている重厚なマントには太陽を、ヨミ様が靡かせている上品なマントには星をモチーフにした装飾によって彩られている。

 皆様からの声援に笑顔で応えながら、お二方は祭壇へと近づいていく。壇上に祀っている青い杯。石造りの杯に灯っている白い炎、浄化の炎のレプリカに向かって恭しく頭を下げた。

 振り向き、参列者の皆様へも美しく揃ったお辞儀を披露した。頭を上げ、柔らかな笑顔を振りまいてから、サタン様は祭壇の左側へ、ヨミ様は右側へとお立ちになられた。ステンドグラスから差し込む日差しがお二方を淡く照らしている。

 夕焼けよりも赤い瞳を細めて、ヨミ様が参列者席へと軽く手を伸ばす。我らが主は、何も仰られてはいない。けれども皆様は示し合わせていたかのように口を閉じ、ヨミ様からの御言葉を待った。

「……ご機嫌よう、我が親愛なる民達よ。先ずは、そなたらに心からの感謝を述べたい」

 次の瞬間、皆様は再び言葉を失った。

 サタン様が、ヨミ様が頭を下げたからだ。先程よりも深く、長いお辞儀だった。

 涼やかな空気の音が聞こえそうなくらい、静まり返った会場に顔を上げたヨミ様の凛とした声が響く。

「ありがとう」

 例えようがない喜びを、噛み締めているような声色だった。

 あふれんばかりの愛を、にじませたような微笑みだった。

 その一言に込められた、様々な想いを知る者は数少ないだろう。だが、私は知っている。一番近くで、その一端を見てきたのだ。

 こみ上げてくるものを堪えるように、ヨミ様が瞳を伏せられる。固く閉じて、開かれて、真っ直ぐに皆様方を見つめられた。

「この記念すべき日を、私達の家族のハレの日を、場所は、時は違えど共に迎えることが出来て、私の胸中は……万感の思いで満たされておる」

 どこかから、啜り泣くような音が聞こえた。

 微かだったそれは、波紋のようにじわじわと広がっているようだった。ヨミ様の想いに、言葉に、心を打たれているのだろう。

 不意に、手の甲に熱を感じた。視線を落とせば、さらにポツ、ポツ、とこぼれ落ちてきた。

 私もだった。私も、熱く魂を揺さぶられていた。

「我が民達よ……今日、この時だけで構わない。私の願いを聞いて欲しい……どうか、共に彼らを祝福して欲しい。彼らの始まりを、共に見届けて欲しいのだ」

 祈るように言葉を重ね、ヨミ様が再び頭を垂れた。見守られていたサタン様も、続けて頭を下げた。

 ゆっくりと顔を上げたお二方を迎えたのは、温かい拍手だった。

「ありがとう……本当に、ありがとう……」

 拍手の嵐は、ヨミ様を、サタン様を称える声は、鳴り止まぬ気配を見せない。それどころか、どちらも次第に大きな音の渦となっていく。参列者席の横に並ぶ、いくつもの白い柱を揺らさんばかりに。

 会場の熱気は今、最高潮に達しようとしていた。

「これ以上の言葉は、今は不要であろう……さあ、皆の者よ、共に迎えようではないか! 私達の大切なバアルを! そして彼の愛する妻、今日より私達の新たな同胞となるアオイ殿を!」

 長い指先で滲んだ目元を拭ったヨミ様が、高らかに宣言なさった。

 通りの良い呼びかけに応えるように、明るくざわめく会場を薄闇が支配していく。青い絨毯の上に描かれた魔法陣が淡く輝き始めた。
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