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神様からの最後の贈り物
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その日、地獄には大きな木が咲きました。
大地を覆うほどに立派な根を張り、天にも届くほどに幹を、枝葉を伸ばして。真っ白な花をいくつも咲かせた、真っ白な木が。
神様の魂から咲いた木。神様の愛が咲かせた木。清らかで、優しい空気を纏う大樹は、この地に落ちてくる魂達を優しく受け止めました。罪によって穢れた魂達を、いくつもの長い枝葉で包み込みました。
大樹からあふれる温かい光。白い光が、罪を、穢れを浄化していきました。時間をかけて、ゆっくりと少しずつ。
魂達は、光の中で優しい眠りについています。いつか全ての罪が赦されて、再び無へと。現世へと生まれ変われる時がくるまで。
どうやら俺は、少しの間気を失っていたらしかった。随分と二人に心配をかけてしまっていたらしかった。
目を開けた途端、バアルさんとヨミ様に揉みくちゃになるくらい抱き締められたのだ。泣きながら微笑む二人から頭を、背中を、撫で回されたのだ。
バアルさん達曰く、気がつけば大穴の縁らしきところまで戻ってきていたとのこと。縁らしきと言ったのは、大穴そのものが塞がっていたからだ。
それでも、語弊があるかもしれない。とはいえ、塞がったという認識でいいのだろう。なんせ、かつて地獄の穢れを一挙に集めていた大穴から、底に浄化の炎が祀られていた大穴から、巨大な木が生えていたのだから。
太い幹は大地にぽかりと空いていた虚ろな穴を全て塞ぎ、命の息吹がしなかった灰色の大地を、伸ばしたいくつもの根で真っ白に染め上げていた。
雄大に広がっている枝葉は、天国まで届いてしまいそう。見上げていると首が痛くなってしまう。幹も、枝も、葉も、満開に咲き誇っている花も真っ白。浄化の炎の色と神様の色とそっくりだった。
「この木って……もしかして、神様の魔力の花……なんですかね?」
「左様でございますね……私達を想って咲かせてくれたのですから」
「流石、我らが神であるな! 見事な力強さと美しさだ!」
俺を抱き抱えるバアルさんが微笑んで、艷やかな黒髪を靡かせながらヨミ様が大きな口を開けて笑う。
「アオイ……いかがなさいましたか?」
「大丈夫です……どこも、痛くは……ただ、何だかスゴく眠くて……」
無事に全部終わって安心したからだろう。
温かく包み込んでくれているバアルさんの温もりが心地よくて、瞼が重くて仕方がない。さっき、気がついたばかりだってのに。
「うむ……身体に深刻な影響が出ない範囲とはいえ、生命力を使ったのだ。疲れてしまったのであろう……」
「そう、ですね……アオイ、このまま眠ってしまって構いませんよ。お城まで、私達の部屋まで貴方様のバアルがお運び致します」
得意気に口端を持ち上げて、触覚をゆらゆら、羽をぱたぱたさせながら、バアルさんが俺の額にキスを送ってくれる。
俺も彼の頬にお返しをしてから、抗い難い眠りに身を委ねることにした。
「ふふ、ありがとうございます……じゃあ、お言葉に甘えて少し眠らせてもらいますね……お休みなさい、バアルさん、ヨミ様……」
「ええ、お休みなさいアオイ……愛しております」
「お休み、アオイ殿……目が覚めたら、盛大なパーティーを開こうぞ!」
「はい……」
私の腕の中でアオイは擽ったそうに微笑んで「俺も愛してるよ」と「楽しみにしてますね」と、愛らしい声で、私とヨミ様に応えてくれた。
そうして、アオイが眠りにつかれてから、私達は十日目の朝を迎えてしまった。その間、愛しい彼が目覚めることは、ただ一時もなかった。
大地を覆うほどに立派な根を張り、天にも届くほどに幹を、枝葉を伸ばして。真っ白な花をいくつも咲かせた、真っ白な木が。
神様の魂から咲いた木。神様の愛が咲かせた木。清らかで、優しい空気を纏う大樹は、この地に落ちてくる魂達を優しく受け止めました。罪によって穢れた魂達を、いくつもの長い枝葉で包み込みました。
大樹からあふれる温かい光。白い光が、罪を、穢れを浄化していきました。時間をかけて、ゆっくりと少しずつ。
魂達は、光の中で優しい眠りについています。いつか全ての罪が赦されて、再び無へと。現世へと生まれ変われる時がくるまで。
どうやら俺は、少しの間気を失っていたらしかった。随分と二人に心配をかけてしまっていたらしかった。
目を開けた途端、バアルさんとヨミ様に揉みくちゃになるくらい抱き締められたのだ。泣きながら微笑む二人から頭を、背中を、撫で回されたのだ。
バアルさん達曰く、気がつけば大穴の縁らしきところまで戻ってきていたとのこと。縁らしきと言ったのは、大穴そのものが塞がっていたからだ。
それでも、語弊があるかもしれない。とはいえ、塞がったという認識でいいのだろう。なんせ、かつて地獄の穢れを一挙に集めていた大穴から、底に浄化の炎が祀られていた大穴から、巨大な木が生えていたのだから。
太い幹は大地にぽかりと空いていた虚ろな穴を全て塞ぎ、命の息吹がしなかった灰色の大地を、伸ばしたいくつもの根で真っ白に染め上げていた。
雄大に広がっている枝葉は、天国まで届いてしまいそう。見上げていると首が痛くなってしまう。幹も、枝も、葉も、満開に咲き誇っている花も真っ白。浄化の炎の色と神様の色とそっくりだった。
「この木って……もしかして、神様の魔力の花……なんですかね?」
「左様でございますね……私達を想って咲かせてくれたのですから」
「流石、我らが神であるな! 見事な力強さと美しさだ!」
俺を抱き抱えるバアルさんが微笑んで、艷やかな黒髪を靡かせながらヨミ様が大きな口を開けて笑う。
「アオイ……いかがなさいましたか?」
「大丈夫です……どこも、痛くは……ただ、何だかスゴく眠くて……」
無事に全部終わって安心したからだろう。
温かく包み込んでくれているバアルさんの温もりが心地よくて、瞼が重くて仕方がない。さっき、気がついたばかりだってのに。
「うむ……身体に深刻な影響が出ない範囲とはいえ、生命力を使ったのだ。疲れてしまったのであろう……」
「そう、ですね……アオイ、このまま眠ってしまって構いませんよ。お城まで、私達の部屋まで貴方様のバアルがお運び致します」
得意気に口端を持ち上げて、触覚をゆらゆら、羽をぱたぱたさせながら、バアルさんが俺の額にキスを送ってくれる。
俺も彼の頬にお返しをしてから、抗い難い眠りに身を委ねることにした。
「ふふ、ありがとうございます……じゃあ、お言葉に甘えて少し眠らせてもらいますね……お休みなさい、バアルさん、ヨミ様……」
「ええ、お休みなさいアオイ……愛しております」
「お休み、アオイ殿……目が覚めたら、盛大なパーティーを開こうぞ!」
「はい……」
私の腕の中でアオイは擽ったそうに微笑んで「俺も愛してるよ」と「楽しみにしてますね」と、愛らしい声で、私とヨミ様に応えてくれた。
そうして、アオイが眠りにつかれてから、私達は十日目の朝を迎えてしまった。その間、愛しい彼が目覚めることは、ただ一時もなかった。
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