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ご一緒に……バッチリ決めましょうね、カッコよく

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 そんなこんなで始まったリハーサル。本番前の、大事な通し確認の最中だったというのに、それ自体を忘れてしまうとは。珍しいことにバアルさんまで。

 レタリーさんからの当然過ぎる指摘によって、思考は我に返ったものの、まだ身体の方は。

 バアルさんも、なんだろうか。俺の頬に手を添えたまま、伏せた睫毛を震わせている。透明感のある白い頬は真っ赤っ赤だ。多分、俺もだろうけど。

「念の為にもう一度、流れをご説明致しますね。先ずは祭壇に礼をして、皆様とご一緒に祈りを捧げます。それから、僭越ながら私がお二方の魔宝石をお持ち致しますので……あ、いたっ! 何するんですか? ヨミ様?」

 固まってしまっていた俺達が、やっとこさ振り向けた時にはもう遅かった。真っ赤な瞳を三角にし、真っ黒な羽を広げたヨミ様が、レタリーさんにデコピンを食らわせていた後だった。

 レタリーさんが、黄緑色の尾羽根を下げながら、額を押さえている。何で怒られたのか疑問なのだろう。タレ目の瞳を丸くしている。

 その表情が火に油を注いだんだろうか。ヨミ様が腰まで伸ばした黒髪を振り乱し、声を荒らげていらっしゃる。

「全く、これだからそなたは……空気を読んでやらぬか! 折角、良い雰囲気になっていたんだぞ! 少しくらい良いであろう! 二人の世界に浸るくらい!」

 優しいフォローが逆に刺さる。

 ごめんなさい、皆さんのご厚意そっちのけでキスしようとしてて。俺が物欲しそうにしちゃったせいで、察しのいいバアルさんまで巻き込んじゃって。

「ご、ごめんなさい、俺のせいで」

「誠に、申し訳ございません」

「であれば、尚更早く終わらせるべきでは? 本番に向けての確認だけしてもらい、後はお部屋でゆっくりまったり過ごされた方が、有意義ではないでしょうか?」

「ぐっ……それも一理ある……あるがなぁ……それとこれとは話が」

 聞こえちゃいない。俺達と皆さんとの距離が離れてるってのもあるけれど。

 そもそも見えちゃいないな。今度はあちらが二人の世界だ。お互いの通った鼻筋が、くっつきそうなくらいの距離で言い合っている。

「まぁまぁ、その辺で……俺達もお二方の晴れ姿に見惚れちゃってましたし、ね?」

「スゴく素敵でしたもんね! 手を繋いで、祭壇に進んでいくアオイ様とバアル様……二人共カッコよくて、キレイで……」

 間に入ってくれたクロウさんに続いて、グリムさんがうっとりとした声で賛同する。

 夢見心地のように細められた瞳が、俺達に向いたからだろうか。皆さんの視線も次々と注がれていく。

 微笑み、あるいは感慨深げに、はたまた涙を堪えるように、見つめてくる皆さんの表情。背中を擽ってくる、ふわふわした雰囲気。

「さ、再開しませんか? リハーサル! ちゃんと俺、バアルさんと決めたいので! 皆さんの前で、カッコよく!」

 浮かされたんだろうか。反響しかねない声で、呼びかけてしまっていた。

「あ……いや、止めちゃったのは、俺……なんですけど……」

 静かになったのは、一瞬だった。

「そうであるな! 明日が本番なのだからな!」

「僕達、スゴく楽しみです! もっとカッコいいアオイ様とバアル様が見られるなんて! ねぇ、クロウ!」

「楽しみ過ぎて眠れなかった、なんてならないようにしないとな」

 ヨミ様が目を輝かせ、グリムさんとクロウさんが笑い合う。

 レタリーさんが「その為にも、しっかりサポートさせて頂きます」と、シアンさん達が「応援は任せて下さい!」と微笑みかけてくれた。

「アオイ様」

 繋がれた手に力が込められる。バアルさんが俺の肩を抱きながら、白い髭を蓄えた口元を端だけ緩やかに持ち上げた。

「ご一緒に……バッチリ決めましょうね、カッコよく」

「っはい!」

 今一度、彼と手を取り青い道を行く。俺達を待ってくれている賑やかな輪の元へ。
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