上 下
457 / 702

どうやら図星のご様子だ

しおりを挟む
 俺の分は、この二つで十分ですからと。俺ばっかりじゃ平等じゃないでしょう、と説得すれば渋々ながらも納得してくれた。再び画面をスクロールしてもらう。

 とにもかくにも彼の好みを探さなければ。新しい形の物が出てくる度に、彼の反応を窺ってみるものの芳しくない。スタイリッシュというか、スポーティーというか。そういう系は好みではないらしい。

 となれば可愛い系か。バアルさん、カラフルなのとかフリルが満載な服とか好きだもんな。でも、男用でそんなランジェリーなヤツあるんだろうか。

「あ……」

 あった。噂をすればなんとやら、突然ジャンルが切り替わったかのよう。あれよあれよと表示されていく。

 布地がレースのボクサータイプだったり。ブーメランタイプの上の部分にフリルをあしらった花柄だったり。おっと、これならイケるのでわ?

「い、意外と可愛い系もあるんですね……バアルさんは、やっぱりこういうのが……好き、ですか?」

「…………」

 眼の前の光に浮かぶ画面から、黙ったままの彼へと視線を移す。映ったのは、頬をほんのりと染めたバアルさん。渋いお髭が素敵な口元を手で覆い、触覚と羽を揺らしている。

 図星のご様子だ。かわいい。照れていらっしゃる。

 良かった。これなら喜んでもらえそう。顔が熱を持つ気恥かしさも、彼の為ならば些細なもんだ。バアルさんに喜んでもらえるなら、どんなリクエストだって。

「どれが良いですか? 遠慮しないで選んで下さいね」

「……畏まりました」

 彼が指差したのは、レース生地のボクサータイプ。とはいえ大事な部分も透けてはおらず、丈の長さも普段穿いてるのと変わらない。えっちな下着初心者な俺にとってハードル低めなヤツだ。これは、明らかに。

「……遠慮、してません?」

「…………」

 またしても図星のご様子。目を逸らされてしまった。なんともバツが悪そう。穏やかな笑みばかりが浮かぶ唇が、若干歪んでしまっている。

「俺だって、リクエスト応えたいです。バアルさんが応えてくれたんですから」

 鍛え上げられた胸元に身を寄せれば、僅かに震えていた羽がはためき出す。緑の瞳が、戸惑いがちに俺を見つめた。

「バアル……」

「っ…………お嫌な時は、無理せず正直に申し上げて下さいね?」

「はいっ」

 よし、ここまでくればこっちのもんだ。心の中でガッツポーズをしながら、彼が選んでくれるのを待つ。

「……では、此方をお願いできますか?」

 長い指先にご指名されたのは、ウェスト部分にフリルのついたブーメランパンツだった。色は白をベースにした小さなオレンジの花柄。こちらも別に透けてなく、尻もちゃんと隠せているので大丈夫そう。

「はい。色は、これでいいんですか?」

「ええ。貴方様こそ宜しいのでしょうか?」

「はい、バアルさんのと色と柄が違うだけですし」

 可愛らしいフリルがついてはいるけれど。それを除けば、お揃いみたいなもんだろ。そういうことにしておこう。

 じっと見つめてくる優しい眼差し。若葉を思わせる緑の瞳は心配そうな光を宿していたものの、すぐさま安心したように細められた。

 流石、俺の心の内もお見通しなバアルさん。俺が無理をしていないことが分かったんだろう。

「ってことで、もう一枚選んでくださいよ。それで、やっと平等なんですから」

「……左様でございますね」

 小さく頷いた彼が、宙に浮かぶ画面へと視線を移す。吟味するのかと思ったけれど、決まっていたみたい。おずおずと指し示したのは、ちょっぴりハードル高めなお品だった。

 ブーメランタイプよりも少ない布地は、濃い緑のレース。お陰様で薄っすら透けて見えていらっしゃる。腹筋シックスパックなマネキンさんの灰色な肌が。股間が、尻が。

 そして残りは紐。両腰にレースと同色の細い紐が結ばれている。リボン結びなそれは軽く引くだけで解けてしまうだろう。

「が、頑張りますね」

「……無理はしなくていいのですよ?」

「いや、でも、これだって……バアルさんの紐パンと布面積は変わらないですし」

 ……透けてるけど。

「……透けておりますが」

 今度は俺の番だった。図星どころか、まんま心の声を読み取られてしまった。

「っ……で、でも喜んでくれますよね? 俺に……穿いて欲しいんですよね?」

「それは、そう……ですが……」

「じゃあ、買いましょう! 色は緑でいいんですよね? 緑にしますね!」

 引き締まった首まで真っ赤に染めて、羽をはためかせているバアルさん。これは是非とも期待に応えたい。となれば行動あるのみだ。何かを言われる前に、丸め込まれる前に、このまま押し切ってしまおう。

 彼の見様見真似で、購入ボタンらしきものにタッチする。カートのアイコンに表示されていた数字が、3から4へと変わった。

「さぁ、購入手続きしましょうか?」

「……畏まりました」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

束縛系の騎士団長は、部下の僕を束縛する

天災
BL
 イケメン騎士団長の束縛…

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

お願いだから、独りでいさせて

獅蘭
BL
 好きだけど、バレたくない……。  深諮学園高等部2年きっての優等生である、生徒会副会長の咲宮 黎蘭は、あまり他者には認められていない生徒会役員。  この学園に中等部の2年の9月から入るにあたって逃げた居場所に今更戻れないということを悩んでいる。  しかし、生徒会会長は恋人だった濱夏 鷹多。急に消えた黎蘭を、2年も経った今も尚探している。本名を告げていないため、探し当てるのは困難を極めているのにも関わらず。  しかし、自分の正体をバラすということは逃げた場所に戻るということと同意義であるせいで、鷹多に打ち明けることができずに、葛藤している。  そんな中、黎蘭の遠縁に当たる問題児が転入生として入ってくる。ソレは、生徒会や風紀委員会、大勢の生徒を巻き込んでいく。 ※基本カプ ドS生徒会副会長×ヤンデレ生徒会会長 真面目風紀委員長×不真面目風紀副委員長 執着保健医×ツンデレホスト教師 むっつり不良×純粋わんこ書記 淫乱穏健派(過激派)書記親衛隊隊長×ドM過激派会長親衛隊隊長 ドクズ(直る)会計監査×薄幸会計 ____________________ 勿論、この作品はフィクションです。表紙は、Picrewの証明々を使いました。 定期的に作者は失踪します。2ヶ月以内には失踪から帰ってきます((

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...