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とある兵士達は質問攻めにあう
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ヨミ様のご厚意によりお休みを頂いた俺達は、二次会という名の質問攻めにあっていた。
「なぁ、なぁ、お前ら見たんだろう? お二人の魔力の花と、魔法石!」
「さぞ、美しかったんだろう? 美しかったに決まってるよな!?」
「いいなぁ……俺も見たかったぜ……」
ヨミ様達が食堂を後にした途端、待ってましたと言わんばかりに飛び込んできた同僚達。皆が一様に口にするのは、先程まで行われていたアオイ様とバアル様からの報告についての質問ばかり。
それもそうだ。待ちに待った朗報だからな。仲睦まじいお二人方のご様子を、初めからずっと見守ってきた俺達にとっては。
「ふっふっふ……画像で良ければ、ございますよ。お二方にお願いしてお写真を……ぎょえっ」
あっという間だった。オロスが埋もれていっちまった。一斉に群がってきた連中の手によって。
得意気な面で、懐から投影石を取り出すからだ。自慢の長髪も、尻尾も、無惨な有り様。やれ見せろとか、コピーさせてくれとか。俺も、私も、僕も、と四方八方から揉みくちゃにされちまっている。
「あー……ほら、ほら、俺も撮らせてもらったからさ」
見せるし、コピーも構わないよ、と。見かねたマラクが助け船を出したお陰だ。ターゲットが変更された。押し寄せてきた連中を、自慢の大きなガタイで受け止めながら宙にお二方の画像を映している。
散っていった連中の後に残ったのはオロスのみ。土下座をするような格好で、力なく床に顔を伏せている。何とも無惨だ。それでも投影石を手放していないのは、流石だが。
「おいおい、大丈夫か? ボッサボサだなぁ……俺の櫛、貸してやろうか? 羽毛用で良ければよ」
「……すみません、カイム……助かりました……」
「マラクに言えよ。今、頑張ってんのアイツだしよ」
「……ああ、そうですね」
カイムに抱き起こされてオロスが席に着く。少し離れたやり取りを見届けていると、隣から笑い混じりの苦言をされてしまった。
「助けてあげれば良かったのに。サロメも撮っていただろう?」
自分のことは棚に上げて、ベィティが片眉を下げていた。
「お前もだろうが」
「僕はパス。さっき散々伝えたからね。君達の代わりに、アオイ様とバアル様が仰っていた御言葉を」
手のひらをヒラヒラさせながら、大げさな溜め息をひとつ。
「疲れちゃったよ。何回言っても、もう一回、もう一回って皆で強請ってくるんだからさ」
「ありがとな。それに関しては」
「どういたしまして」
黒く長い尾を揺らしながら、ふぅっとふたつめ。そうして、もう一度パッチリとした吊り目でじっと見つめてきた。
「だからさ、一番余裕のある君が助けてあげるべきだったんじゃない?」
「……あるように見えるか? 余裕、俺に」
ベィティには見えていないらしい。俺の腕の中にある大きな荷物が。
「ぐすっ……うぇっ……ひっく……」
ずっと泣きじゃくりっぱなしで、俺にガッシリとしがみついて離れないシアンの存在が。
「うん。だって、いつものことだろう? 慣れているじゃないか、シアンのお守り。毎回、アオイ様とバアル様関連で感動にむせび泣く彼を、上手にあやしているじゃないか」
「お前なぁ……」
「まぁ、冗談はこの辺にして……」
冗談って……やっぱり楽しんでいやがったな、コイツ。
こっちは、大の男を膝に抱えっぱなしで疲れてきてんのに。延々と頭や背中を撫で回しても泣き止まないもんだから、途方に暮れてるってのに。
まぁ、だから、質問攻めにもあっていないし、群がられることもないんだが。
「ねぇ、シアン。お水くらい飲んだらどうだい? ずっと泣きっぱなしだろう? このままじゃ、萎れてしまうよ?」
萎れるまではいかないとは思うが。確かに心配ではあるな。せっかくの整った面が、真っ赤っ赤のぐっちゃぐっちゃになっちまってるし。
「ほら、サロメが飲ませてくれるってさ」
「いや、俺かよ」
「だって、僕がするより抱っこしてる君の方が飲ませやすいだろう?」
「ぐっ……」
……仕方がないか。
正論をぶつけられ納得してしまった俺は、ベィティが注いでくれたグラスを尻尾で受け取った。
鱗を通して伝わってくる冷たさが心地いい。こぼしてしまわないよう慎重に、嗚咽を漏らすシアンの口元へ近づけていった。
「どうだ? 飲めそうか?」
「…………うん……ぐずっ……」
涙に濡れた水色が瞬いて、震える手のひらがコップに触れる。そっと口をつけると、ぺたんこに下っていた三角耳がぴょこんと上がった。
「……ありがと、サロメ…………ベィティも……」
「どういたしまして」
「なぁ、なぁ、お前ら見たんだろう? お二人の魔力の花と、魔法石!」
「さぞ、美しかったんだろう? 美しかったに決まってるよな!?」
「いいなぁ……俺も見たかったぜ……」
ヨミ様達が食堂を後にした途端、待ってましたと言わんばかりに飛び込んできた同僚達。皆が一様に口にするのは、先程まで行われていたアオイ様とバアル様からの報告についての質問ばかり。
それもそうだ。待ちに待った朗報だからな。仲睦まじいお二人方のご様子を、初めからずっと見守ってきた俺達にとっては。
「ふっふっふ……画像で良ければ、ございますよ。お二方にお願いしてお写真を……ぎょえっ」
あっという間だった。オロスが埋もれていっちまった。一斉に群がってきた連中の手によって。
得意気な面で、懐から投影石を取り出すからだ。自慢の長髪も、尻尾も、無惨な有り様。やれ見せろとか、コピーさせてくれとか。俺も、私も、僕も、と四方八方から揉みくちゃにされちまっている。
「あー……ほら、ほら、俺も撮らせてもらったからさ」
見せるし、コピーも構わないよ、と。見かねたマラクが助け船を出したお陰だ。ターゲットが変更された。押し寄せてきた連中を、自慢の大きなガタイで受け止めながら宙にお二方の画像を映している。
散っていった連中の後に残ったのはオロスのみ。土下座をするような格好で、力なく床に顔を伏せている。何とも無惨だ。それでも投影石を手放していないのは、流石だが。
「おいおい、大丈夫か? ボッサボサだなぁ……俺の櫛、貸してやろうか? 羽毛用で良ければよ」
「……すみません、カイム……助かりました……」
「マラクに言えよ。今、頑張ってんのアイツだしよ」
「……ああ、そうですね」
カイムに抱き起こされてオロスが席に着く。少し離れたやり取りを見届けていると、隣から笑い混じりの苦言をされてしまった。
「助けてあげれば良かったのに。サロメも撮っていただろう?」
自分のことは棚に上げて、ベィティが片眉を下げていた。
「お前もだろうが」
「僕はパス。さっき散々伝えたからね。君達の代わりに、アオイ様とバアル様が仰っていた御言葉を」
手のひらをヒラヒラさせながら、大げさな溜め息をひとつ。
「疲れちゃったよ。何回言っても、もう一回、もう一回って皆で強請ってくるんだからさ」
「ありがとな。それに関しては」
「どういたしまして」
黒く長い尾を揺らしながら、ふぅっとふたつめ。そうして、もう一度パッチリとした吊り目でじっと見つめてきた。
「だからさ、一番余裕のある君が助けてあげるべきだったんじゃない?」
「……あるように見えるか? 余裕、俺に」
ベィティには見えていないらしい。俺の腕の中にある大きな荷物が。
「ぐすっ……うぇっ……ひっく……」
ずっと泣きじゃくりっぱなしで、俺にガッシリとしがみついて離れないシアンの存在が。
「うん。だって、いつものことだろう? 慣れているじゃないか、シアンのお守り。毎回、アオイ様とバアル様関連で感動にむせび泣く彼を、上手にあやしているじゃないか」
「お前なぁ……」
「まぁ、冗談はこの辺にして……」
冗談って……やっぱり楽しんでいやがったな、コイツ。
こっちは、大の男を膝に抱えっぱなしで疲れてきてんのに。延々と頭や背中を撫で回しても泣き止まないもんだから、途方に暮れてるってのに。
まぁ、だから、質問攻めにもあっていないし、群がられることもないんだが。
「ねぇ、シアン。お水くらい飲んだらどうだい? ずっと泣きっぱなしだろう? このままじゃ、萎れてしまうよ?」
萎れるまではいかないとは思うが。確かに心配ではあるな。せっかくの整った面が、真っ赤っ赤のぐっちゃぐっちゃになっちまってるし。
「ほら、サロメが飲ませてくれるってさ」
「いや、俺かよ」
「だって、僕がするより抱っこしてる君の方が飲ませやすいだろう?」
「ぐっ……」
……仕方がないか。
正論をぶつけられ納得してしまった俺は、ベィティが注いでくれたグラスを尻尾で受け取った。
鱗を通して伝わってくる冷たさが心地いい。こぼしてしまわないよう慎重に、嗚咽を漏らすシアンの口元へ近づけていった。
「どうだ? 飲めそうか?」
「…………うん……ぐずっ……」
涙に濡れた水色が瞬いて、震える手のひらがコップに触れる。そっと口をつけると、ぺたんこに下っていた三角耳がぴょこんと上がった。
「……ありがと、サロメ…………ベィティも……」
「どういたしまして」
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