間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
424 / 1,057

今日のお二人は、とことん息が合うらしい

しおりを挟む
 彼と手を繋いでいるグリムさんも、すっかりいつも通り。頬を染め、きゃあきゃあ言いながら俺達を見つめている。

 ヨミ様もだ。コウモリの形をした黒い羽をはためかせ、赤い瞳を細めている。他の皆さん方も、微笑ましそうに俺達を見つめていた。

 普段の俺ならば、ひっくり返った声を上げ、バアルさんの逞しいお胸に顔を埋め、現実逃避をしてしまうところ。でも今は違う。見られちゃってたっていう恥ずかしさよりも、そういうことかって納得の方が強かったからな。

「ああ、それで! だから皆さん、びっくりして固まっちゃってたんですね」

 長く筋肉質な腕が抱えていた俺を丁寧に下ろしてから、肩を抱き寄せてくれる。

「うむ! バアルもアオイ殿も、お互いの魔力の花を身に着けておったからな! 見た瞬間、胸がいっぱいになってしまって、とんだ粗相を……申し訳ない……」

 独り言に近い俺の言葉にヨミ様が答えた。その声は、もう震えてなくて、彼らしい威厳に満ちていた。最後の方は、萎んでしまっていたけれど。

 上品な会釈に合わせて、腰まで伸ばされた艷やかな黒髪がサラリと揺れる。続くようにグリムさんも「……ごめんなさい」と小さな頭を下げた。

「いえ、そんな頭を上げて下さい……俺、ホントに嬉しかったんですから」

「……誠か?」

「……ホントですか?」

 今日のお二人は、とことん息が合うらしい。そんでもって、そっくりだ。おずおずとした声も、心配そうな表情も。

「はい。バアルさんは、ヨミ様やサタン様にとって大事な家族でしょう? なのに……俺によろしくって、言ってもらえたんですから」

「……アオイ殿」

 震えるヨミ様の肩を、サタン様が抱き寄せる。忠実な部下であるレダさんとレタリーさんも、お二人に寄り添うように側で控え、微笑んでいた。

 目の奥が、じんわりと熱くなっていく。あふれる前に伝えなければ。軽く息を整えてから目線を向けると、今にもこぼれてしまいそうな薄紫色の瞳と目が合った。

「……グリムさんも、俺の方こそです。俺も、グリムさんとクロウさんに立ち会ってもらえて嬉しいですよ。だって、大事な友達ですから」 

「……アオイ様」

 グリムさんが、小さな手で顔を覆った。静かにしゃがんだクロウさんが、小柄な彼を包み込むように後ろから抱き締める。

 今度こそ、限界が近いみたい。

 ボヤけかかった視界を晴らそうとして先を越された。細く長い指が、俺の目元を拭ってくれる。

「……バアルさん」

 緑の瞳が優しく微笑む。温かい腕が俺を包みこんでくれる。頬を寄せれば伝わってくる心音。トクトクと耳心地のいい音が、少し高鳴って聞こえた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...