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幸せを呼ぶチョコレート
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チョコレート屋さんは、以前訪れた雑貨屋さんと同じ通りに、様々なショーウインドウが並ぶヨーロッパ風の大通りにあった。
チョコレートよりは、高級なアクセサリーでも並べていそうなお洒落な外観だった。磨き上げられたガラス扉の側に吊られている、逆三角の小さな看板。お店の名前らしい文字と一緒に描かれたロゴは、見覚えのあるものだった。
「あ、もしかしてココですか?」
「ええ」
「あの看板に描いてある盾みたいなロゴ、サタン様から頂いたチョコの箱にも入ってたんです」
「左様でございましたか」
不思議そうに見つめていた眼差しが、納得したように微笑んだ。重たそうな扉を軽々と開けてくれて、俺を店内へと誘ってくれる。
ひんやりとした空気が頬を撫で、甘い香りが俺達を出迎えた。少し暗く落ち着いた雰囲気の室内を、温かみのあるオレンジの明かりが照らしている。
「いらっしゃいませ」
白いコックコートの袖を捲り、チョコレート色のエプロンと帽子を身に着けた店員さんが二人、上品な笑みを浮かべて会釈する。エプロンと一緒に腰に巻きつけている尻尾には、ヒョウ柄のような模様が浮かんでいた。
どうぞご覧下さい、と勧めてくれた店員さんの前にはケーキ屋さんのと同じガラスケースが。その中には、色も形も様々なチョコレートが並んでいる。ハートの形、四角に抽象的な模様が描かれたもの、バラのようなお花の形、雫の形などなど。
どれも色鮮やかに艶めいていて、スゴくキレイだ。食べるのが勿体ないくらい。
あながち間違ってはいなかったんじゃないだろうか。アクセサリーでも並べていそう、という俺の第一印象は。
「キレイ……チョコレートじゃないみたいですね」
「はい。ひと粒ひと粒が、まるで芸術作品のようでございますね」
俺達の側で佇む店員さんが、心なしか嬉しそうに瞳を細める。大きかったんだろうか。これでも声を潜めたつもりだったんだけどな。バアルさんにしか聞こえないように。
気を取り直して、ガラス越しに並ぶ魅力的なラインナップを眺める。えーっと……ヨミ様のオススメ、魔宝石の形をしたチョコは……あれ?
「あの、すみません」
「はい、どうかなさいましたか?」
「魔宝石の形をしたチョコレートがあるって聞いたんですけど……」
「ええ、あちらにございますよ」
美しく、中性的な顔立ちをした店員さんが示してくれたのは店の奥。他のお客さん方も、うっとり見つめている大きなガラスケースだった。
ヨミ様がオススメしてくれただけあって、やっぱり人気なお品なのだろう。お礼を言って俺達が、そちらへ向かっていく最中でも売れていく。紙袋を提げ、満面の笑みを浮かべたお客さん方とすれ違う。
「わぁ……」
目に飛び込んできた輝きに、思わずため息が漏れた。
ガラスケースの中で並ぶ、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。ダイヤモンドカットされ、照明の光を受けて艶めく七つは、本物と見間違うほど。
予め分かってて見ても、ホントにチョコなのか? と疑ってしまう。ラズベリーだとかオランジェットだとか、それぞれの味の説明が添えられていても。
好きな個数や色を選べるみたいだが、やっぱり皆さんが手に取るのは七個入りの細長い箱。並ぶとキレイな虹色になるお品だ。
「大変美しいですね。幸せを呼ぶチョコレート、だそうですよ」
俺の耳元で囁やきながら、バアルさんが指差したのは、積まれた箱の近くに添えられた上品なポップだった。確かに、見ているだけでも明るい気持ちになるんだもんな。それに加えて、きっと甘くて美味しいのだから、幸せな気分になれることだろう。
「へぇ……素敵ですね。じゃあ、これにしましょうか。皆さんへのお土産」
「ええ、そう致しましょう」
さてさて、気になるお値段は、と……金貨四枚。四千円か……まぁ、それくらいするか。こんなに素敵な見た目だし、普通のチョコレートより大きめなサイズだもんな。
バアルさんグッズに夢中になり過ぎたかも。でも、欲しかったしなぁ……
残りの懐的に厳しいな、と頭を悩ませていたところでそっと肩を抱き寄せられた。
いつの間にか、頬が触れ合うくらいに間近に迫っていた柔らかい微笑み。渋いお髭をたくわえた口元が、穏やかな低音で囁く。
「半分ずつに致しましょうね。アオイ様と私、二人で渡すお土産なのですから」
「そう、ですね……そうでしたね」
バアルさんと一緒に皆さんへ渡すチョコを抱え、レジへと向かう。
丁寧にラッピングされていく箱を見つめていると、気が早いものでわくわくしてしまう。喜んでくれるかな? とか。それから。
「……楽しみでございますね。どのようなお味なのでしょうか? 皆様とご一緒に頂くと……さぞかし美味しいでしょうね」
そう。皆さんと一緒だと美味しいだろうなって。
「ふふ、同じこと考えてました」
緑の瞳が僅かに見開いて、擽ったそうに微笑む。お揃いですね、と絡めた指を握りながら、バアルさんが羽をはためかせた。
チョコレートよりは、高級なアクセサリーでも並べていそうなお洒落な外観だった。磨き上げられたガラス扉の側に吊られている、逆三角の小さな看板。お店の名前らしい文字と一緒に描かれたロゴは、見覚えのあるものだった。
「あ、もしかしてココですか?」
「ええ」
「あの看板に描いてある盾みたいなロゴ、サタン様から頂いたチョコの箱にも入ってたんです」
「左様でございましたか」
不思議そうに見つめていた眼差しが、納得したように微笑んだ。重たそうな扉を軽々と開けてくれて、俺を店内へと誘ってくれる。
ひんやりとした空気が頬を撫で、甘い香りが俺達を出迎えた。少し暗く落ち着いた雰囲気の室内を、温かみのあるオレンジの明かりが照らしている。
「いらっしゃいませ」
白いコックコートの袖を捲り、チョコレート色のエプロンと帽子を身に着けた店員さんが二人、上品な笑みを浮かべて会釈する。エプロンと一緒に腰に巻きつけている尻尾には、ヒョウ柄のような模様が浮かんでいた。
どうぞご覧下さい、と勧めてくれた店員さんの前にはケーキ屋さんのと同じガラスケースが。その中には、色も形も様々なチョコレートが並んでいる。ハートの形、四角に抽象的な模様が描かれたもの、バラのようなお花の形、雫の形などなど。
どれも色鮮やかに艶めいていて、スゴくキレイだ。食べるのが勿体ないくらい。
あながち間違ってはいなかったんじゃないだろうか。アクセサリーでも並べていそう、という俺の第一印象は。
「キレイ……チョコレートじゃないみたいですね」
「はい。ひと粒ひと粒が、まるで芸術作品のようでございますね」
俺達の側で佇む店員さんが、心なしか嬉しそうに瞳を細める。大きかったんだろうか。これでも声を潜めたつもりだったんだけどな。バアルさんにしか聞こえないように。
気を取り直して、ガラス越しに並ぶ魅力的なラインナップを眺める。えーっと……ヨミ様のオススメ、魔宝石の形をしたチョコは……あれ?
「あの、すみません」
「はい、どうかなさいましたか?」
「魔宝石の形をしたチョコレートがあるって聞いたんですけど……」
「ええ、あちらにございますよ」
美しく、中性的な顔立ちをした店員さんが示してくれたのは店の奥。他のお客さん方も、うっとり見つめている大きなガラスケースだった。
ヨミ様がオススメしてくれただけあって、やっぱり人気なお品なのだろう。お礼を言って俺達が、そちらへ向かっていく最中でも売れていく。紙袋を提げ、満面の笑みを浮かべたお客さん方とすれ違う。
「わぁ……」
目に飛び込んできた輝きに、思わずため息が漏れた。
ガラスケースの中で並ぶ、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。ダイヤモンドカットされ、照明の光を受けて艶めく七つは、本物と見間違うほど。
予め分かってて見ても、ホントにチョコなのか? と疑ってしまう。ラズベリーだとかオランジェットだとか、それぞれの味の説明が添えられていても。
好きな個数や色を選べるみたいだが、やっぱり皆さんが手に取るのは七個入りの細長い箱。並ぶとキレイな虹色になるお品だ。
「大変美しいですね。幸せを呼ぶチョコレート、だそうですよ」
俺の耳元で囁やきながら、バアルさんが指差したのは、積まれた箱の近くに添えられた上品なポップだった。確かに、見ているだけでも明るい気持ちになるんだもんな。それに加えて、きっと甘くて美味しいのだから、幸せな気分になれることだろう。
「へぇ……素敵ですね。じゃあ、これにしましょうか。皆さんへのお土産」
「ええ、そう致しましょう」
さてさて、気になるお値段は、と……金貨四枚。四千円か……まぁ、それくらいするか。こんなに素敵な見た目だし、普通のチョコレートより大きめなサイズだもんな。
バアルさんグッズに夢中になり過ぎたかも。でも、欲しかったしなぁ……
残りの懐的に厳しいな、と頭を悩ませていたところでそっと肩を抱き寄せられた。
いつの間にか、頬が触れ合うくらいに間近に迫っていた柔らかい微笑み。渋いお髭をたくわえた口元が、穏やかな低音で囁く。
「半分ずつに致しましょうね。アオイ様と私、二人で渡すお土産なのですから」
「そう、ですね……そうでしたね」
バアルさんと一緒に皆さんへ渡すチョコを抱え、レジへと向かう。
丁寧にラッピングされていく箱を見つめていると、気が早いものでわくわくしてしまう。喜んでくれるかな? とか。それから。
「……楽しみでございますね。どのようなお味なのでしょうか? 皆様とご一緒に頂くと……さぞかし美味しいでしょうね」
そう。皆さんと一緒だと美味しいだろうなって。
「ふふ、同じこと考えてました」
緑の瞳が僅かに見開いて、擽ったそうに微笑む。お揃いですね、と絡めた指を握りながら、バアルさんが羽をはためかせた。
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