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一緒に照れれば恥ずかしくない?
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柔らかく微笑むバアルさんが、渋いお髭が素敵な口元をどこか得意げに持ち上げる。甘さを含んだ穏やかな低音で、ツラツラと紡ぎ始めたんだ。
「ええ。澄んだ琥珀色の瞳の輝きは、魔宝石よりも美しく、バラ色に色づいた頬も、愛らしく小さな唇も誠にお可愛らし」
「ちょっ、ストップ! 嬉しいですけど……こ、これ以上は……」
距離が近い為、饒舌な口を直接手で覆うことが出来ない。代わりに裏地の青が爽やかな、白に近い薄灰色のコートの裾を摘んで引っ張ることで訴えた。
優しい彼は、あっさり俺の訴えを受け入れ、口を閉じてくれた。少しへの字に歪んでしまっているけれど。じっと見つめる眼差しが、まだまだ言い尽くせていないのですが、と訴えてはいるけれど。
「ん……っていうかバラ色って赤いってことですか? 赤いってことですよね? えっ、どんくらい赤いんですか? まさか耳も?」
「……大丈夫ですよ。はにかむアオイ様も大変可憐でございますので」
少し間をおいて、柔らかく微笑んでからの大甘な採点。自分の現状を察するには十分過ぎた。
「あ、めっちゃ赤いんですね……でも、ありがとうございます」
「いえ。いついかなる時も貴方様がお可愛らしいのは、私めにとって揺るぎない事実ですので」
「ひぇ……」
だから、そんなサラリと人の心を鷲掴みにしないで欲しい。
俺の頬を包みこんでくれていた大きな手が、恭しく俺の左手を取る。目尻にかかっていた髪の毛を、耳の方へと流してくれてから、手の甲を撫でた。
整えられた指先が、薬指の根元で輝く銀の輪に触れる。S字のウェーブをなぞるように撫でながら、目尻のシワを深める。緑の瞳が、俺にゆるりと微笑んだ。
「もう少し……此方で涼んでいかれますか?」
この優しさも何度目かの。
体感的には、かれこれ数十分、似たようなやり取りを繰り返している気がする。
大好きな人と二人っきりなのだ、決してイヤな時間ではない。が、キリがない。
「……いえ、戻りましょう……涼んでも一緒、ですし……」
「と、申しますと?」
この時の俺は、珍しくヘタれていなかった。自分の気持ちを全部、彼に伝えようと思っていたのだ。
理由は単純。いっそのことバアルさんも照れさせちゃおう、などと目論んでいたからだ。子供じみた考えを抱いていたのだ。一緒に照れちゃえば、恥ずかしくないし、などと。
「……バアルさん、カッコいいから。ふとした時に見惚れちゃって、ドキドキしちゃうから……だから、俺……すぐにまた、赤くなっちゃいますよ……」
結果としては大成功だった。
薄暗くても透明感を感じる彼の頬は、濃い陰影のついたシャープな顔は、瞬く間にほんのり桜色に色づいたのだから。
しかし、同時にスイッチを入れてしまうことになるとは。
「……アオイ」
柔らかい眼差しが、うっとり微笑む。甘く、トーンの低い声色で、俺の名を紡いだ彼の細く長い指が、俺の顎を掬う。
ゆっくりと、けれども確実に、俺と彼との距離が詰まっていく。
なんで、キスしてもらえそうになっているんだ? 嬉しいけれど。
「え? わ、ちょ、それは……ま、マズイですって……」
散り散りになっている理性をかき集め、待ったをかける。触れ合う寸前で止まってくれたバアルさんは、また俺の訴えを受け入れてくれたんだと思っていた。
「マズイとは? 別に、何も問題ないのではございませんか?」
「ふぇ?」
「だって、大差はないでしょう? 後ほどドキドキして頂けるのであれば……今、私めにドキドキして頂けても」
「いっ、いやいや、見惚れちゃうのとキスのは違……んっ」
ダメだった。艷やかに微笑む唇に全部呑まれてしまった。言葉の続きも、ようやく落ち着いていた呼吸も。
結局俺は、ドキドキしっぱなしで陽のあたる大通りへと戻ることになった。顔も、だらしなく緩んでいたことだろう。
「ええ。澄んだ琥珀色の瞳の輝きは、魔宝石よりも美しく、バラ色に色づいた頬も、愛らしく小さな唇も誠にお可愛らし」
「ちょっ、ストップ! 嬉しいですけど……こ、これ以上は……」
距離が近い為、饒舌な口を直接手で覆うことが出来ない。代わりに裏地の青が爽やかな、白に近い薄灰色のコートの裾を摘んで引っ張ることで訴えた。
優しい彼は、あっさり俺の訴えを受け入れ、口を閉じてくれた。少しへの字に歪んでしまっているけれど。じっと見つめる眼差しが、まだまだ言い尽くせていないのですが、と訴えてはいるけれど。
「ん……っていうかバラ色って赤いってことですか? 赤いってことですよね? えっ、どんくらい赤いんですか? まさか耳も?」
「……大丈夫ですよ。はにかむアオイ様も大変可憐でございますので」
少し間をおいて、柔らかく微笑んでからの大甘な採点。自分の現状を察するには十分過ぎた。
「あ、めっちゃ赤いんですね……でも、ありがとうございます」
「いえ。いついかなる時も貴方様がお可愛らしいのは、私めにとって揺るぎない事実ですので」
「ひぇ……」
だから、そんなサラリと人の心を鷲掴みにしないで欲しい。
俺の頬を包みこんでくれていた大きな手が、恭しく俺の左手を取る。目尻にかかっていた髪の毛を、耳の方へと流してくれてから、手の甲を撫でた。
整えられた指先が、薬指の根元で輝く銀の輪に触れる。S字のウェーブをなぞるように撫でながら、目尻のシワを深める。緑の瞳が、俺にゆるりと微笑んだ。
「もう少し……此方で涼んでいかれますか?」
この優しさも何度目かの。
体感的には、かれこれ数十分、似たようなやり取りを繰り返している気がする。
大好きな人と二人っきりなのだ、決してイヤな時間ではない。が、キリがない。
「……いえ、戻りましょう……涼んでも一緒、ですし……」
「と、申しますと?」
この時の俺は、珍しくヘタれていなかった。自分の気持ちを全部、彼に伝えようと思っていたのだ。
理由は単純。いっそのことバアルさんも照れさせちゃおう、などと目論んでいたからだ。子供じみた考えを抱いていたのだ。一緒に照れちゃえば、恥ずかしくないし、などと。
「……バアルさん、カッコいいから。ふとした時に見惚れちゃって、ドキドキしちゃうから……だから、俺……すぐにまた、赤くなっちゃいますよ……」
結果としては大成功だった。
薄暗くても透明感を感じる彼の頬は、濃い陰影のついたシャープな顔は、瞬く間にほんのり桜色に色づいたのだから。
しかし、同時にスイッチを入れてしまうことになるとは。
「……アオイ」
柔らかい眼差しが、うっとり微笑む。甘く、トーンの低い声色で、俺の名を紡いだ彼の細く長い指が、俺の顎を掬う。
ゆっくりと、けれども確実に、俺と彼との距離が詰まっていく。
なんで、キスしてもらえそうになっているんだ? 嬉しいけれど。
「え? わ、ちょ、それは……ま、マズイですって……」
散り散りになっている理性をかき集め、待ったをかける。触れ合う寸前で止まってくれたバアルさんは、また俺の訴えを受け入れてくれたんだと思っていた。
「マズイとは? 別に、何も問題ないのではございませんか?」
「ふぇ?」
「だって、大差はないでしょう? 後ほどドキドキして頂けるのであれば……今、私めにドキドキして頂けても」
「いっ、いやいや、見惚れちゃうのとキスのは違……んっ」
ダメだった。艷やかに微笑む唇に全部呑まれてしまった。言葉の続きも、ようやく落ち着いていた呼吸も。
結局俺は、ドキドキしっぱなしで陽のあたる大通りへと戻ることになった。顔も、だらしなく緩んでいたことだろう。
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