間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

★ まさかまさかの大勝利

　突然だった。腕を引かれ、腰を抱き寄せられ、気がつけば鍛え上げられた体躯の上に倒れ込んでしまっていた。

　咄嗟にお顔を拝見しようとしたけれど見えない。ぎゅうぎゅう抱き締められているせいだ。むっちりとした胸板に顔を埋めたまんま、身動きが取れない。

「えっと……バアルさん……？　ひょわっ」

　どうしたのかとお尋ねしようとして、感じた馴染みのある感触。人肌のトロトロした液体が俺の後ろを濡らしている。もしかして……

「あ……バアルさ……んっ……ぁ……ぅ……」

　ああ、やっぱり。細く長い指が、俺のお尻の穴を解してくれている。くち、くちゅ……とねっとりとした水音を立てながら、浅く出し入れしている。

　あんなに怖かったのに、何でだろう。スゴく嬉しい。もっと、いっぱい触って欲しい。

　バアルさんから、してもらえてるんだって。その事実だけでドキドキして、感じてしまう。心が熱く満たされていく。

「っ……あ、気持ち……もっと、もっと奥に下さ……ひぁあっ……」

　強請ってからすぐだった。つぷんと一本挿れられて、内側を一気にぬるりと撫でられて。俺は、彼の割れた腹筋へとぶち撒けてしまっていた。

　腰の辺りから頭の天辺まで、勢いよく駆け上ってきた快感に堪えられず、びくんっ、びくんっと全身を震わせてしまったんだ。

「あ……ぁ、ふ…………ん……」

　ゆっくり慎重に、俺の中から出ていこうとする彼の体温。

　いって欲しくないのに……もっといっぱい擦って、突いて欲しいのに……

　そう願っていても、余韻でぐったりしている俺では止められることが出来なくて。静かに抜き取られてしまった。

　ほんのり寂しさを抱えていると男らしい腕から抱き直される。力が入らない身体をひょいっと前進させられて、切なく歪んだ顔とご対面した。

「……申し訳ございません」

「……バアル……さ？」

　……どちらかといえば、謝るのは俺の方だと思うんだけど。好き勝手にさせてもらったし。バアルさんの服……汚しちゃったしさ。

　一体全体、何を申し上げられてしまうんだろう。おっかなびっくり身構えていた肩の力が、あっさりへにゃりと抜けることになるなんて。

「その……お休みに致しましょうと言った手前、大変恐縮なのですが……貴方様を抱かせて頂いてもよろ」

「っ是非！　抱いて下さい！！」

　つい食い気味に頷いてしまっていた。だって、悲報かと覚悟していたら朗報。それも、まさかまさかの大勝利だったんだからさ。

「……御慈悲に感謝致します」

　どちらともなく距離を詰めていた。

　吐息を奪い合うような触れ合いに、あっという間に夢中になってしまう。

　バアルさんも、ずっとドキドキしてくれていたんだろうか。なんというか、段取りが早い。抱き合ったまま、向き合う形でベッドに転がったかと思えばすぐだった。

「んぅっ……」

　二本同時に挿れてもらえてしまったんだ。といっても丁寧さには変わりはない。俺の顔色を窺いながら、ゆっくり、ゆっくり開拓していく。

　さっき気持ちよくしてもらえたからだろう。もっと触って欲しいって願っていたからだろう。

　俺の身体は、あっさり彼の指を受け入れたんだ。異物感を感じることなく。それどころか、自ら飲み込んでいくみたいに奥へ、奥へと。

　わざとらしいリップ音を鳴らして離れていった微笑みが、吐息を吹き込むように耳元で囁く。

「……もう、三本目を挿れてもよさそうですね……」

「っ……はい……お願いします……」

　……イっちゃうかと思った……

　喜びに満ちあふれた声で尋ねられ、背筋にぞくぞく走った心地よさ。何とか堪えられたと思った、その矢先だった。

「あぁっ……ふ、ぁ……ん、ん……」

　ずんっと増した圧迫感。前は、重いな……としか感じられなかったハズなのに。

　前立腺を掠めた途端に、込み上げてきた甘い痺れ。間髪入れずに、唐突にもたらされたからだ。今度はムリだった。

　広い背に縋りつきながら、しっとりとした頬に擦り寄りながら、俺はまたしても放ってしまっていたんだ。密着しているお腹の辺りに、熱がじわりと広がっていく。

「ごめ、なさ……俺……イっちゃ……」

　熱く滲んだ視界の中で、柔らかい微笑みと目が合う。

「……どうかお気になさらないで……沢山気持ちよくなられて下さい。貴方様の喜びが、私の喜びなのですから……」

　少しお休みしてから続きを致しましょうね、と緩やかな笑みを浮かべた唇が、優しく囁き、甘やかしてくれた。

　安心する手つきでゆったり頭を、背中を宥められて、触れるだけのキスをいっぱい送ってもらえて。すっかり呼吸も、鼓動も落ち着いてきたところで再開された。バアルさんを受け入れる為の下準備が。