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Reバアルさんを押し倒そう! 大作戦! 協力:バアルさん

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 いやいや、なんつーバランス感覚だよ……

 そう思いたくなるほどだった。なんせ、絶妙な加減でスラリと伸びた長身が停止していたのだから。

 もし彼がリクライニングチェアならば、さぞ丁度いい感じの角度だろう。その程よい弾力のある胸板に背中を預け、リラックス出来そうだ。

「成る程、御自身の腕力の強化ですか……よいお考えです。ただ、目的を達成する為に込めるべき魔力が、やや足りませんでしたね」

 ややではないと思いますけど? 八割強足りていないのでわ?

 だって、直角よりもちょっぴり傾けられただけじゃん! 全然じゃん!

「……お粗末様でした」

「初めてにしては上出来でしたよ。では早速、今回の失敗をもとに再チャレンジ致しましょうか」

「でも、俺……今のでも結構練った方だったんですよ? もう一回しても、またちょっぴりバアルさんが傾くだけじゃ……」

「大丈夫です、今回は必ずや成功します。貴方様の魔力だけではなく、私の魔力も利用するのですから」

 いや、どういう状況だよ、コレ? 何で押し倒す予定の御本人様から、もっといいやり方を教わっているんだよ?

 と即座にツッコんだことだろう。今この場に、冷静な俺が居たならばの話だが。

「バアルさんの魔力を、利用する?」

 すっかり俺は興味津々だった。どうしても、この手でバアルさんを押し倒してみたかったからな。

 前のめりに尋ねた俺の手を取り、彼が微笑む。腹筋が鍛えられそうな体勢を戻し、ゆっくりと説明を始めた。

「ええ。一番最初の授業の際、私を通して魔力の素を取り込み、練り上げましたよね? その応用でございます。今、私と貴方様の身体は触れ合っております。それ故に魔力の流れを繋げることが出来るのでございます」

 よくある理科の実験みたいなもんだろうか。豆電球と乾電池の。確か、直列つなぎの場合、乾電池を増やせば増やすだけ電球の明かりが増すんだっけ。

「ってことは……バアルさんがいてくれている分、俺の術の威力が増すってことですか?」

「左様でございます。ただし、扱いも難しくなりますので、最後まで集中を切らすことなく臨みましょうね」

「はいっ、頑張ります!」

 繋ぐ時だけフォロー致しますね、と額をちょこんとくっつけられた。何でも触れている部分が多い方がやりやすいとか。特に俺みたく、使い手としてペーペーな場合は。

 魔力の利用か……確かにぐるぐると回り始めた熱がさっきよりも多いかも? いや、多いどころじゃない。このままじゃ……

「バアルさっ……熱い……身体の内側が、燃えそ……っ……ぁ……」

「大丈夫ですよ……落ち着いて……ゆっくり深く呼吸を繰り返して下さい……」

「は、はぃ……」

 懸命に肺に空気を取り込んでいると、不意に何かが弾けた音。静電気みたく、ぱちんって。そうしてから、急に楽になった。まだ、手足がジンジン痺れるような感じはするけど。

 温かい手のひらが俺の背を労るように撫でてくれる。こちらを窺う彫りの深い顔には、心配そうな色が浮かんでいた。

「……お加減はいかがでしょうか」

「ん……大丈夫、ですよ……まだちょっと熱いですけど」

「ああ、良かった……申し訳ございません。想定していたより流れが強くなっておりました」

 ホッと緩んだ表情に、俺も胸を撫で下ろす。でもすぐに違う方向性でドキバク暴れることになるなんて。

「今は私の方で調整致しましたので、問題はないかと。これも、ひとえに私とアオイ様との相性が良すぎる故でしょう。まさか、これ程までとは存じておりませんでした」

「ふぇっ」

「では、改めてどうぞ。御自身のタイミングで私を押し倒して下さい」

「……あ、はい」

 ……何か今、しれっとスゴい殺し文句じみたことを言われたような。

 聞き返そうかとも思ったけれど、今はよそう。だって、待っててくれてるもんな。滅茶苦茶、期待に満ちた眼差しで。

 両腕を広げて微笑んで、ウェルカム全開なバアルさん。その頼もしい肩を再び掴む。

「んっ……しょ……っと……?」

 何とも呆気なかった。上手く行き過ぎて逆にびっくりしてしまう。ちょっと力を込めただけ。なのに、びくともしなかった長身が、ベッドへ吸い込まれていくようにぽふんっと倒れたんだ。

「……出来た…………出来ましたよ! バアルさんっ!!」

 何ともいえない達成感に、ぶわりと胸の奥が熱くなっていく。ふわふわした感覚に唆せれて、のしかかるみたいに抱きついてしまっていた。

 しっかり俺を抱き止めてくれた逞しい腕。柔らかい笑顔を浮かべながら、大きな手がよしよしと俺の頭を撫でてくれる。

「素晴らしい。よく頑張りましたね」

「ふへへ……ありがとうございます」

「……それで、この後はいかがなさいますか? このまま私に愛でられたいですか? それとも私を愛でて頂けますか?」

「え? そりゃあ勿論、もう少しバアルさんに撫で撫でしてもらいた……」

 クスクスと笑う声に、はたと気づく。完全に踏みかけてんじゃん、同じ轍をさ。
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