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招かれた、有り得ない誤解

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 今の俺はいつも以上にポンコツだ。

 大好きなバアルさんから話しかけられているのに上の空。あーんしてもらったのに口の端からぽろぽろ食べこぼす。

 お返しをした時なんか、もっと悲惨だ。目測を誤って、彼のカッコいいお髭をソースまみれにしてしまったんだから。海よりも深い優しさをお持ちの彼は一切怒ることなく、当たり前のように俺を心配してくれたんだけどさ。

 っていうか、そもそも味がよく分からなかった。スヴェンさん達が作ってくれた夕ご飯は、いつもと変わらず魅力的だったのに。見ているだけで、香りが漂うだけで、食欲がもりもり湧いてきたのに。

 原因は分かってる。俺が、浮かれまくってるからだ。バアルさんからしてもらえた宣言。ずっと待っていた一言が、度々頭の中で蘇っているから。

『貴方様を抱かせて頂きますので』

 またぶわりと浮かんでは心の奥まで響いてきた言葉に、全身が一気に熱を帯び、胸がバクバク高鳴り出す。

 ……大丈夫なんだろうか。これから、初めてバアルさんに抱いてもらえるってのに。練習に練習を重ねて、ようやく迎えられる本番だってのに。こんな状態で。

 ……ま…………様、あお…………様。

「アオイ様?」

「ひょわっ」

 やっぱり大丈夫じゃないみたいだ。また、やらかしてしまっていた。

 ソファーで一人、考える人になっていた俺の隣に、いつの間にか腰掛けていたバアルさん。隣のバスルームでお風呂の準備をしてくれていた彼の帰りに、全く気がつけなかったんだから。

 青い水晶で出来たシャンデリアの明かりが、後ろに撫でつけられた彼の白い髪に、艷やかな光の輪を描いている。

 穏やかな笑みばかりが浮かんでいる形のいい唇が、真一文字に引き結ばれ、歪んだ。伏せられた銀糸のように煌めく長い睫毛が、若葉を思わせる鮮やかな緑の瞳に影を落とす。

「……申し訳ございません。また可愛らしい貴方様の心臓を、びっくりさせてしまいましたね」

「全っ然、大丈夫です! 気にしないで下さい! そもそもボーっとしてた俺が悪いんですからっ」

 似たようなやり取りを、何度も繰り返してしまったせいだろう。

 ひと回り大きな手を取り微笑みかけても、額の触覚は、しょんもり下がったままだ。背にある半透明な羽も、弱々しく縮んだまま。おずおずと見つめてくる彫りの深い顔からも、胸が締めつけられるような寂しさが拭えていない。

「……不安で……いらっしゃるのでは、ございませんか?」

「え……?」

 疑問の声しか出てこなかった。

 恐る恐る彼が口にした質問が、俺にとって突拍子もなかったってのもある。でも、それ以上に、そう尋ねた彼の方が不安そうに見えたから。

 僅かに震える形のいい唇が言葉を続ける。絞り出すように尋ねた声も震えていた。

「もしや……怖れを抱いていらっしゃるのでは? 男である私を……人ならざるものである私を、受け入れることに」
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