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一番は、バアルさんに褒めてもらえるから、喜んでもらえるから
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ふわふわの食パンに生クリームを塗っては、一口サイズに切った果物を並べ、更にクリームを。続けてもう一枚の食パンを重ねて一丁上がり。後はこれの繰り返しだ。
塗って、並べては重ね、また塗って……とバアルさんと一緒に作り上げたフルーツサンド達を一旦冷蔵庫へ。
続いてソースを絡めたハンバーグ、チーズたっぷりのスクランブルエッグを、満遍なくバターと辛子マヨネーズを塗ったパンへ乗っけていく。ハンバーグのお供にレタスも添えて。
再び、せっせと単純作業を進めていると、バアルさんが尋ねてきた。
「ところで何故スクランブルエッグなのですか? ハンバーグは私の好物ですから、分かりますけれど」
不思議そうな視線は俺を見つめて離さないけれど、その手元はテキパキ動いたままだ。器用過ぎる。
俺にはまだまだ至れない芸当なので、一度彼に向かって頷いてから手元へ視線を戻した。
「お礼なんです。ヨミ様への」
「お礼、でございますか?」
「はい。このレシピ、バアルさんの好きなものを中心にまとめてくれたの、ヨミ様なんです。スヴェンさんと一緒に。包丁も、お二人から初心者用の物を頂いて……」
そう言えば、スヴェンさんにはちゃんとお礼出来ていなかったな。レシピを貰ってから色々あったとはいえ、何にもなしはダメだろう。
そうだ、フルーツサンドを追加で作って差し入れしよう。四つ切りにすれば、助手の皆も食べやすいだろうし。中庭に行く前に食堂に寄ってもらって……うん、そうしよう。
「あの、バアルさ……っ」
……デジャブだ。まだ、こぼれるまではいってないけれど、今にもあふれて落ちてしまいそうだ。堪えるように唇を引き結ぶ、彼の鮮やかな緑の瞳が透明な涙の膜に覆われてしまっている。
「も、もう一回ぎゅってします? 終わったら」
「……ありがとうございます、大丈夫ですよ」
手品のように、何も持っていない白い手の中に光沢のあるハンカチーフが現れる。ほんのり赤く染まった目元を手早く拭ってから、俺に微笑みかけてくれた。
「後ほど、宜しくお願い致します」
「はいっ」
「ところで、先程は申し訳ございませんでした。何か、私に仰ろうとなさっていましたよね?」
「あ、フルーツサンド!」
「フルーツサンド?」
思わず単語だけで返した俺に、彼も疑問符をつけて返す。
小首を傾げた際に、俺のせいで少し乱れた艷やかな髪が、透明感のある彼の頬をサラリと撫でた。
「もうちょっと多めに作るのを、手伝ってくれませんかってお願いしようとしてました」
「勿論、構いませんが……」
「スヴェンさん達にお礼するの、うっかり忘れていて……中庭に行く前に差し入れで持っていきたいんですけど……」
「左様でございましたか。では、気合を入れて臨まなければなりませんね」
「ありがとうございますっ」
二つ返事で微笑んでくれた彼が袖を捲り直す。彼に倣って俺も気合を入れるべく、緩みかけていた三角巾を締め直した。
バアルさんに保存の術を施してもらった、彩り豊かなサンドイッチ達。
俺達の分の大きな三角形は小さなバスケットに。ついつい熱が入り、作り過ぎてしまったスヴェンさん達の分は、小さな四角を四個ずつラッピングしてから大きいバスケットに詰めた。
結構重いだろうに。軽々と持ってくれたバアルさんにお礼を言いつつ、差し出された白い手袋に覆われた手を取った。
今日も今日とてバアルさんの好みにコーディネートしてもらった、貴族のお坊ちゃんかファタジーの王子様が着ていそうな服を纏い、エスコートしてもらう。
……何か最近、飾りのフリルが増えても気にならなくなってきたな。慣れってのもあるんだろうけど、やっぱり一番は。
「いかがなさいましたか?」
こっそり見つめたつもりだったのに、柔らかい眼差しに見つかってしまった。
「あ、その……」
何も悪いことはしていない。なのにイタズラがバレたような気持ちになってしまう。
わたわたしている間にも、バアルさんは凛と伸ばしていた背筋を屈めて目線を合わせてくれる。燕の尻尾みたいに分かれた、執事服の長い裾が揺れる。優しく微笑む鮮やかな緑に俺が映った。
「……ふふ、普段の貴方様も大変可愛らしく私を魅了して止みませんが、今の貴方様は格別に愛らしいですね……お召し物がアオイ様のあふれる魅力を更に高めております。可愛いですよ」
……ズルい。そうやって、すぐに俺が欲しがってる言葉を的確に、バッチリなタイミングでくれるんだから。
そう、一番はバアルさんに……か、可愛いって褒めてもらえるからだ。喜んでもらえるからなんだ。
「……ありがとう、ごじゃいまふ」
「いえ。本心を述べたまででございますから」
「っ……」
満面の笑みを浮かべたまま、繋いだ手を握り直してくれる。ホントにズルいと思う。
塗って、並べては重ね、また塗って……とバアルさんと一緒に作り上げたフルーツサンド達を一旦冷蔵庫へ。
続いてソースを絡めたハンバーグ、チーズたっぷりのスクランブルエッグを、満遍なくバターと辛子マヨネーズを塗ったパンへ乗っけていく。ハンバーグのお供にレタスも添えて。
再び、せっせと単純作業を進めていると、バアルさんが尋ねてきた。
「ところで何故スクランブルエッグなのですか? ハンバーグは私の好物ですから、分かりますけれど」
不思議そうな視線は俺を見つめて離さないけれど、その手元はテキパキ動いたままだ。器用過ぎる。
俺にはまだまだ至れない芸当なので、一度彼に向かって頷いてから手元へ視線を戻した。
「お礼なんです。ヨミ様への」
「お礼、でございますか?」
「はい。このレシピ、バアルさんの好きなものを中心にまとめてくれたの、ヨミ様なんです。スヴェンさんと一緒に。包丁も、お二人から初心者用の物を頂いて……」
そう言えば、スヴェンさんにはちゃんとお礼出来ていなかったな。レシピを貰ってから色々あったとはいえ、何にもなしはダメだろう。
そうだ、フルーツサンドを追加で作って差し入れしよう。四つ切りにすれば、助手の皆も食べやすいだろうし。中庭に行く前に食堂に寄ってもらって……うん、そうしよう。
「あの、バアルさ……っ」
……デジャブだ。まだ、こぼれるまではいってないけれど、今にもあふれて落ちてしまいそうだ。堪えるように唇を引き結ぶ、彼の鮮やかな緑の瞳が透明な涙の膜に覆われてしまっている。
「も、もう一回ぎゅってします? 終わったら」
「……ありがとうございます、大丈夫ですよ」
手品のように、何も持っていない白い手の中に光沢のあるハンカチーフが現れる。ほんのり赤く染まった目元を手早く拭ってから、俺に微笑みかけてくれた。
「後ほど、宜しくお願い致します」
「はいっ」
「ところで、先程は申し訳ございませんでした。何か、私に仰ろうとなさっていましたよね?」
「あ、フルーツサンド!」
「フルーツサンド?」
思わず単語だけで返した俺に、彼も疑問符をつけて返す。
小首を傾げた際に、俺のせいで少し乱れた艷やかな髪が、透明感のある彼の頬をサラリと撫でた。
「もうちょっと多めに作るのを、手伝ってくれませんかってお願いしようとしてました」
「勿論、構いませんが……」
「スヴェンさん達にお礼するの、うっかり忘れていて……中庭に行く前に差し入れで持っていきたいんですけど……」
「左様でございましたか。では、気合を入れて臨まなければなりませんね」
「ありがとうございますっ」
二つ返事で微笑んでくれた彼が袖を捲り直す。彼に倣って俺も気合を入れるべく、緩みかけていた三角巾を締め直した。
バアルさんに保存の術を施してもらった、彩り豊かなサンドイッチ達。
俺達の分の大きな三角形は小さなバスケットに。ついつい熱が入り、作り過ぎてしまったスヴェンさん達の分は、小さな四角を四個ずつラッピングしてから大きいバスケットに詰めた。
結構重いだろうに。軽々と持ってくれたバアルさんにお礼を言いつつ、差し出された白い手袋に覆われた手を取った。
今日も今日とてバアルさんの好みにコーディネートしてもらった、貴族のお坊ちゃんかファタジーの王子様が着ていそうな服を纏い、エスコートしてもらう。
……何か最近、飾りのフリルが増えても気にならなくなってきたな。慣れってのもあるんだろうけど、やっぱり一番は。
「いかがなさいましたか?」
こっそり見つめたつもりだったのに、柔らかい眼差しに見つかってしまった。
「あ、その……」
何も悪いことはしていない。なのにイタズラがバレたような気持ちになってしまう。
わたわたしている間にも、バアルさんは凛と伸ばしていた背筋を屈めて目線を合わせてくれる。燕の尻尾みたいに分かれた、執事服の長い裾が揺れる。優しく微笑む鮮やかな緑に俺が映った。
「……ふふ、普段の貴方様も大変可愛らしく私を魅了して止みませんが、今の貴方様は格別に愛らしいですね……お召し物がアオイ様のあふれる魅力を更に高めております。可愛いですよ」
……ズルい。そうやって、すぐに俺が欲しがってる言葉を的確に、バッチリなタイミングでくれるんだから。
そう、一番はバアルさんに……か、可愛いって褒めてもらえるからだ。喜んでもらえるからなんだ。
「……ありがとう、ごじゃいまふ」
「いえ。本心を述べたまででございますから」
「っ……」
満面の笑みを浮かべたまま、繋いだ手を握り直してくれる。ホントにズルいと思う。
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