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ますます好きになっちゃうじゃないか……いや、もとから大好きですけど
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そわそわ揺れて、ぱたぱたはためく。座り心地抜群のソファーに背を預け、逞しい膝の上に俺を乗せてくれている彼。白く艷やかな髪を後ろに撫でつけているバアルさんの、額から生えている触覚が、背中にある透き通った美しい羽が、ひっきりなしに。
ちらちらと見つめている。優しい眼差しを俺に向けてくれながらも、落ち着かない様子で。鮮やかな緑の眼差しが、甘く香ばしい匂いを漂わせているオーブンを、期待に満ちたご様子で。
「ふふ、焼き上がりが楽しみですね」
「ええっ、とても」
つい、くすくすと吹き出しちゃったのに。俺の作った焼き菓子を楽しみにしてくれている彼が、あんまりにもかわいいから。
なのに、弾んだ声と一緒に眩しい笑顔で応えてくれるもんだから。指を絡めて繋いだ手を、ぎゅっと握ってくれたもんだから。
「……っ」
心臓を鷲掴みにされてしまった。ときめかされてしまったじゃないか。
ホントに何なんだこの人は。若返る前から、あふれる魅力で俺を魅了して止まないってのに。
今日は、俺の知らない色んな一面をこれでもかも見せてくれるもんだから、大変だ。ますます好きになっちゃうじゃないか。いや、もとから大好きですけど。
「アオイ様? いかがなさいましたか?」
見慣れていた、大人の色気あふれるシワも、渋くて男らしい髭もない、若々しいお顔。カッコよさと美しさを兼ね備えた端正な顔を心配そうに歪め、バアルさんが俺を見つめる。
「だ、大丈夫ですよ。何でもないです」
思わずオーブンへと視線を移した瞬間、ガラス越しにぼんやりと光っていたオレンジ色の明かりがフッと消えた。タイミングバッチリだ。お待ちかねの時間がやって来た。
「あ、出来たみたいですよ。味見してみましょうか?」
「はいっ、是非、宜しくお願い致しますっ」
ぱぁっと花が咲くように戻った笑顔にまた頬が緩んでしまう。淡い光を帯びた羽をはためかせながら、抱き抱えていた俺をゆっくり下ろしてくれる。スーツ越しでも分かる鍛え上げられた長身を、いそいそ揺らす彼の手をそっと握った。
「ふふ、此方こそお願いしますね」
重たい扉を開けた途端、温かく甘い空気がふわりと頬を撫で、室内に広がっていく。
うん、いい感じだ。匂いもだけど、見た目もこんがりきつね色に仕上がっている。
ふっくら焼けた花、星、ハート、色んな形のクッキー。それらが並んだ天板を、ミトンを着けた手で取ろうとしたところで頭の上に影が落ちた。
「お持ち致します」
「ありがとうございます、バアルさん」
有り難く、クッキーの方はバアルさんにお任せして、俺はパウンドケーキを。
慎重に取り出し並べてから、事前に入れていた切り込みに竹串を刺してみる。
大丈夫そうだ。ゆっくり引き抜いてみたけれど、生地は引っ付いてこない。中までしっかりと焼けている。
型から外し、大皿へ。紅茶もチョコも取り敢えず、ひと切れずつナイフで切り分けてから小皿へと並べた。
……少しだけ、型の方に端っこ残っちゃったな。
ちょっとお行儀が悪いけれども、これも作り手の特権だろう。誰に言うでもなく心の中で言い訳しつつ、出来立てホヤホヤの欠片を一摘み。
……美味しい。口に含んだ途端に紅茶の風味がふわりと広がり、ほどよい甘さに思わず口元が緩んでしまう。自分で言うのもなんだけれど、良い出来だ。これなら、バアルさんも喜んでくれるだろう。
「バアルさ」
フォークを手に振り返れば、柔らかい眼差しとかち合った。しまった。バッチリ見られてしまっていた。つまみ食いをしていたところを。
ちらちらと見つめている。優しい眼差しを俺に向けてくれながらも、落ち着かない様子で。鮮やかな緑の眼差しが、甘く香ばしい匂いを漂わせているオーブンを、期待に満ちたご様子で。
「ふふ、焼き上がりが楽しみですね」
「ええっ、とても」
つい、くすくすと吹き出しちゃったのに。俺の作った焼き菓子を楽しみにしてくれている彼が、あんまりにもかわいいから。
なのに、弾んだ声と一緒に眩しい笑顔で応えてくれるもんだから。指を絡めて繋いだ手を、ぎゅっと握ってくれたもんだから。
「……っ」
心臓を鷲掴みにされてしまった。ときめかされてしまったじゃないか。
ホントに何なんだこの人は。若返る前から、あふれる魅力で俺を魅了して止まないってのに。
今日は、俺の知らない色んな一面をこれでもかも見せてくれるもんだから、大変だ。ますます好きになっちゃうじゃないか。いや、もとから大好きですけど。
「アオイ様? いかがなさいましたか?」
見慣れていた、大人の色気あふれるシワも、渋くて男らしい髭もない、若々しいお顔。カッコよさと美しさを兼ね備えた端正な顔を心配そうに歪め、バアルさんが俺を見つめる。
「だ、大丈夫ですよ。何でもないです」
思わずオーブンへと視線を移した瞬間、ガラス越しにぼんやりと光っていたオレンジ色の明かりがフッと消えた。タイミングバッチリだ。お待ちかねの時間がやって来た。
「あ、出来たみたいですよ。味見してみましょうか?」
「はいっ、是非、宜しくお願い致しますっ」
ぱぁっと花が咲くように戻った笑顔にまた頬が緩んでしまう。淡い光を帯びた羽をはためかせながら、抱き抱えていた俺をゆっくり下ろしてくれる。スーツ越しでも分かる鍛え上げられた長身を、いそいそ揺らす彼の手をそっと握った。
「ふふ、此方こそお願いしますね」
重たい扉を開けた途端、温かく甘い空気がふわりと頬を撫で、室内に広がっていく。
うん、いい感じだ。匂いもだけど、見た目もこんがりきつね色に仕上がっている。
ふっくら焼けた花、星、ハート、色んな形のクッキー。それらが並んだ天板を、ミトンを着けた手で取ろうとしたところで頭の上に影が落ちた。
「お持ち致します」
「ありがとうございます、バアルさん」
有り難く、クッキーの方はバアルさんにお任せして、俺はパウンドケーキを。
慎重に取り出し並べてから、事前に入れていた切り込みに竹串を刺してみる。
大丈夫そうだ。ゆっくり引き抜いてみたけれど、生地は引っ付いてこない。中までしっかりと焼けている。
型から外し、大皿へ。紅茶もチョコも取り敢えず、ひと切れずつナイフで切り分けてから小皿へと並べた。
……少しだけ、型の方に端っこ残っちゃったな。
ちょっとお行儀が悪いけれども、これも作り手の特権だろう。誰に言うでもなく心の中で言い訳しつつ、出来立てホヤホヤの欠片を一摘み。
……美味しい。口に含んだ途端に紅茶の風味がふわりと広がり、ほどよい甘さに思わず口元が緩んでしまう。自分で言うのもなんだけれど、良い出来だ。これなら、バアルさんも喜んでくれるだろう。
「バアルさ」
フォークを手に振り返れば、柔らかい眼差しとかち合った。しまった。バッチリ見られてしまっていた。つまみ食いをしていたところを。
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