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彼からもらえたものは、何一つ色褪せない
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テーブルの上に並んだ二枚のお皿。そこに盛られているのは紛うことなきハンバーグだ。ケチャップとソースの甘酸っぱい香りを漂わせた、家庭料理でお馴染みの。
付け合わせなんて洒落たものは一切ない、メインだけ! というストロングスタイルだ。ああ、でもご飯はちゃんとついているけど。気遣いレベルがマックスなバアルさんがいつの間にか用意してくれていた、炊きたてのご飯がこんもりと。
緑の瞳を輝かせ、フォークとナイフを手にしたバアルさんが、俺に微笑む。
「……では、いただきますね」
「は、はいっ……どうぞ……」
彼と一緒に俺が作った初めてのハンバーグ。銀のナイフがキレイに一口分切り分けている間にも、ぴょこんと立った触覚はそわそわ揺れ、大きく広がる淡い光を帯びた羽もぱたぱたはためきっぱなしだ。
お陰様で今更になって実感が、緊張が湧き上がってきた。さっきまで、ぐるぐる唸っていたハズの空腹感もどこか遠くへと飛び立っていくほどの。
薄く開いた口に、たっぷりのソースを纏ったハンバーグが近づいていく。一口でキレイに頬張られた瞬間、走り続けていた心音が一際大きく高鳴った。
「美味しい……」
ぱぁっと見開いた鮮やかな緑に星が舞う。
「大変美味しいですよ、アオイ様……」
噛み締めるように紡がれた一番欲しかった言葉。それだけでも十分過ぎるのに、あふれてしまいそうな嬉しさが浮かんだ微笑みに、鼻の奥がツンとしてしまう。彼の笑顔がボヤけてしまう。
「ありがとう……ございます」
何とか応えられた俺の頬を、大きな手がゆるりと撫でてくれる。それが引き金になってしまった。嬉しくて、嬉しくて仕方がないのに、ボロボロと頬を、彼の手を濡らしてしまったんだ。
「アオイ様……はい、どうぞ」
なんて贅沢なんだろう。バアルさんが作ってくれたハンバーグを、彼の手づから食べさせてもらうだなんて。
「んー……美味しいですね。ご飯が止まらなくなっちゃいます」
差し出されたフォークを口に含めば、瞬く間に広がるケチャップソースの旨味にバターのコク。噛み締めれば、じゅわりと湧き出る肉汁。この一口だけで、余裕でご飯の山の半分はイケてしまう。
「ふふ、まだまだお代わりは沢山ございますから、お好きなだけお召し上がり下さいね」
「はいっ! あ、バアルさんも……どうぞ」
バアルさんのお皿にあるハンバーグを一切れ、俺もフォークで刺してからお返しをする。
「ありがとうございます。いただきます」
うん……ちょっぴりだけど変な感じだな。嬉しそうに、あーんしてくれるバアルさんはスゴくかわいいんだけどさ。
とはいえ、しょうがない。俺の作ったハンバーグは彼の目の前に、彼が作ったハンバーグは俺の前にあるんだからな。
「アオイ様」
不意の呼びかけが、俺の思考をぶった斬る。だけじゃなかった。
「はい、バアルさ……」
一瞬で吹き飛んだ。口の中を満たしていた肉肉しいケチャップ味も、どうでもいい気恥ずかしさも、何もかも。横を向けば、視界いっぱいに広がった柔らかい微笑みと、口の端にそっと触れた柔らかい温もりに、全部見事に吹き飛ばされた。
「あ、ぇ……?」
「失礼致しました。ソースが付いておりましたので」
何でもないように、さらりと告げた彼の瞳がゆるりと細められる。なんとも楽しそうに。
「あ、ありがとう……ございます」
だから、さぁ……止めてくれ。そんな、いきなり喜ばせないで欲しい。ホント、心臓に悪すぎる。いくら、彼との触れ合いに慣れてきたとはいえ、はしゃいじゃうんだよ……すぐに浮かれちゃうんだよ、俺は!!
頭の片隅に残っている冷静な部分が、もっと、深いことまで致してもらっているだろ? 今更じゃないか? などとツッコんでくるが無視だ無視。
それはそれ、これはこれだ。彼からもらえたものは何一つ、色褪せることなんてないんだからな。
まぁ、バアルさんは、大人な彼にとっては、これくらいのスキンシップ、なんてことはないんだろう。余裕綽々、上機嫌で触覚を揺らしながら俺の頭をよしよし撫でていらっしゃるし。
「っと……アオイ様?」
だから、思いっきり抱きついてやった。広い背中に腕を回して、弾力のある胸板に顔を押しつけぎゅうぎゅうと。いい気分だ、ちょっとだけ。あまり聞いたことのない、ビックリした声が聞けたんだからな。
だが、調子に乗れたのもそれまでだった。やっぱりあっさり返り討ちにされてしまったんだ。
蕩けるような笑みを浮かべた彼に、これでもかってキスしてもらえて、抱き締められて、撫でられて。すっかり骨抜きにされた俺は、彼の膝の上でくったり四肢を投げ出すハメになったんだ。
付け合わせなんて洒落たものは一切ない、メインだけ! というストロングスタイルだ。ああ、でもご飯はちゃんとついているけど。気遣いレベルがマックスなバアルさんがいつの間にか用意してくれていた、炊きたてのご飯がこんもりと。
緑の瞳を輝かせ、フォークとナイフを手にしたバアルさんが、俺に微笑む。
「……では、いただきますね」
「は、はいっ……どうぞ……」
彼と一緒に俺が作った初めてのハンバーグ。銀のナイフがキレイに一口分切り分けている間にも、ぴょこんと立った触覚はそわそわ揺れ、大きく広がる淡い光を帯びた羽もぱたぱたはためきっぱなしだ。
お陰様で今更になって実感が、緊張が湧き上がってきた。さっきまで、ぐるぐる唸っていたハズの空腹感もどこか遠くへと飛び立っていくほどの。
薄く開いた口に、たっぷりのソースを纏ったハンバーグが近づいていく。一口でキレイに頬張られた瞬間、走り続けていた心音が一際大きく高鳴った。
「美味しい……」
ぱぁっと見開いた鮮やかな緑に星が舞う。
「大変美味しいですよ、アオイ様……」
噛み締めるように紡がれた一番欲しかった言葉。それだけでも十分過ぎるのに、あふれてしまいそうな嬉しさが浮かんだ微笑みに、鼻の奥がツンとしてしまう。彼の笑顔がボヤけてしまう。
「ありがとう……ございます」
何とか応えられた俺の頬を、大きな手がゆるりと撫でてくれる。それが引き金になってしまった。嬉しくて、嬉しくて仕方がないのに、ボロボロと頬を、彼の手を濡らしてしまったんだ。
「アオイ様……はい、どうぞ」
なんて贅沢なんだろう。バアルさんが作ってくれたハンバーグを、彼の手づから食べさせてもらうだなんて。
「んー……美味しいですね。ご飯が止まらなくなっちゃいます」
差し出されたフォークを口に含めば、瞬く間に広がるケチャップソースの旨味にバターのコク。噛み締めれば、じゅわりと湧き出る肉汁。この一口だけで、余裕でご飯の山の半分はイケてしまう。
「ふふ、まだまだお代わりは沢山ございますから、お好きなだけお召し上がり下さいね」
「はいっ! あ、バアルさんも……どうぞ」
バアルさんのお皿にあるハンバーグを一切れ、俺もフォークで刺してからお返しをする。
「ありがとうございます。いただきます」
うん……ちょっぴりだけど変な感じだな。嬉しそうに、あーんしてくれるバアルさんはスゴくかわいいんだけどさ。
とはいえ、しょうがない。俺の作ったハンバーグは彼の目の前に、彼が作ったハンバーグは俺の前にあるんだからな。
「アオイ様」
不意の呼びかけが、俺の思考をぶった斬る。だけじゃなかった。
「はい、バアルさ……」
一瞬で吹き飛んだ。口の中を満たしていた肉肉しいケチャップ味も、どうでもいい気恥ずかしさも、何もかも。横を向けば、視界いっぱいに広がった柔らかい微笑みと、口の端にそっと触れた柔らかい温もりに、全部見事に吹き飛ばされた。
「あ、ぇ……?」
「失礼致しました。ソースが付いておりましたので」
何でもないように、さらりと告げた彼の瞳がゆるりと細められる。なんとも楽しそうに。
「あ、ありがとう……ございます」
だから、さぁ……止めてくれ。そんな、いきなり喜ばせないで欲しい。ホント、心臓に悪すぎる。いくら、彼との触れ合いに慣れてきたとはいえ、はしゃいじゃうんだよ……すぐに浮かれちゃうんだよ、俺は!!
頭の片隅に残っている冷静な部分が、もっと、深いことまで致してもらっているだろ? 今更じゃないか? などとツッコんでくるが無視だ無視。
それはそれ、これはこれだ。彼からもらえたものは何一つ、色褪せることなんてないんだからな。
まぁ、バアルさんは、大人な彼にとっては、これくらいのスキンシップ、なんてことはないんだろう。余裕綽々、上機嫌で触覚を揺らしながら俺の頭をよしよし撫でていらっしゃるし。
「っと……アオイ様?」
だから、思いっきり抱きついてやった。広い背中に腕を回して、弾力のある胸板に顔を押しつけぎゅうぎゅうと。いい気分だ、ちょっとだけ。あまり聞いたことのない、ビックリした声が聞けたんだからな。
だが、調子に乗れたのもそれまでだった。やっぱりあっさり返り討ちにされてしまったんだ。
蕩けるような笑みを浮かべた彼に、これでもかってキスしてもらえて、抱き締められて、撫でられて。すっかり骨抜きにされた俺は、彼の膝の上でくったり四肢を投げ出すハメになったんだ。
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