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とある死神の師匠とその弟子は、お土産を探す

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 訪れたのは、俺達にとって生活の要である市場。

 新鮮な肉や魚は勿論のこと、色とりどりの野菜と果物。それから、今晩の一品に最適な料理を提供してくれる屋台も、広い通りの両サイドにひしめき合っている。

 ここにさえ来れば、揃わない物はない……といっても過言ではなく。それ故に、どの時間帯でも国民達の賑わう声が絶えることはない。

 必要な物を買い揃え……アオイ様とバアル様、お二人に渡すいいお土産はないものかと足を伸ばした市場の奥。少し毛色の違う品々を取り揃えた屋台が並ぶ通りには、食材通りのものとはまた違う、しかし負けず劣らずの熱気と盛り上がりに満ちていた。

「すげぇな……もう、商品化されてるのかよ」

「三人とも可愛いですね!」

 煌めく紫の瞳が食い入るように見つめる先には、三体のぬいぐるみが並んでいる。

 フェルト生地で再現された黒い長髪と側頭部から生えた立派な角。威厳に満ちた真っ赤な双眸には、キラキラ光る生地が使われている。相変わらずいい仕事だな。誰が見ても、ひと目でヨミ様だって分かるだろう。

 それから仕事が早い、早すぎる。なんせ、デフォルメされたヨミ様の頭には黒いウサギの耳が、金糸で彩られた黒い片マントを身に着けたその後ろ姿には、しっかりと黒いウサギの尻尾が生えているんだからな。

 隣に仲良く並んでいる、こちらも再現度完璧の執事服姿のバアル様のぬいぐるみには白いウサ耳と尻尾。

 アオイ様のぬいぐるみには、オレンジのウサ耳と尻尾がついたふわふわのフードマントが着せられている。満面の笑みと首元についた大きなリボンが可愛らしい。

「今なら、特別に三人方のお写真もつけるよ! 大人気の商品だから、お一人様一つまでだよ!」

 大きな手のひらを打ち鳴らし、こ気味のいい音を立てて呼びかけている店員が示す写真には、艷やかな黒髪を靡かせ、片腕を指先までビシリと伸ばし堂々とポーズを決めるヨミ様。その隣で柔らかい笑みを浮かべるバアル様。そして彼に抱き寄せられ、頬を染めてはにかむアオイ様が映っている。

 完全に見覚えしかない。明らかに、雪遊びの後に行われた撮影会で撮られたものだな。当たり前の様に流出してしまっている。

 まぁ、今更っちゃ今更だがな。王族方のグッズやプライベートな写真は、昔から城下で楽しまれているものだし。右腕であるバアル様のファンも多いからな。

 特に最近は、アオイ様との仲睦まじい写真がいくつも公開され「微笑ましい、癒やされる」とお二人のファンが右肩上がりで増えていっているっていう話だ。

 出来栄えに感心している間にも、みっちり並んでいるぬいぐるみ達が次々と売れていく。

 ふと控えめに裾を引っ張られ、釣られて少し見下ろした先には、俺にとって一番身近なお二人のファンが強請るような眼差しを向けていた。

「ねぇ、クロウ……二つずつ欲しいから、一緒に買ってくれませんか?」

「ああ、別に構わんが……」

 確実に欲しがるだろうとは思っていたが、二つとはな。そんな小さな疑問は、手招きされて耳元でこっそり尋ねられた一言によって解消されることになる。

「……一つはお土産にしようと思うんですけど、喜んでくれますかね?」

 ああ、成る程。これ以上に最適なお土産はないだろう。なんせアオイ様もバアル様も、お部屋に互いのぬいぐるみを嬉々として飾っているくらいだからな。

「いいんじゃないか。間違いなく喜んでくれるだろ」

「ですよねっ」

 見合わせた顔がぱぁっと綻ぶ。有り難いことにプレゼント用の包装もしてくれるらしく、満点の星空を描いた袋に包まれたプレゼントが、満面の笑みを浮かべたグリムの腕の中へと収まった。
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