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とある死神の師匠とその弟子は、お二人の聖地を巡礼する

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 俺の弟子であるグリムは、初めて出来たお友達のことが、アオイ様のことが大好きだ。

 口を開けば「照れてるアオイ様、すっごく可愛かったですね!」やら「今日も笑顔がキラキラでしたね!」と丸い薄紫の目を輝かせるだけじゃない。

「あっ! ここですよ、クロウ! このアクセサリー店です! アオイ様とバアル様が、お揃いの指輪を買ったのは!」

 現在進行形で城下町での買い物が、彼……いや、お二人の聖地巡礼ツアーになる程度には。

 声どころか小さな身体をぴょんぴょん弾ませ、大きなガラス扉越しに見えるお洒落な店内を指差す様は、どうしようもなく目立ってしまっている。

 現に、通行人達からの……何だ? あのフードの二人組は? とでも言いたげな視線が痛い。

 一応、死神という職業柄……いや、職業病と言った方がいいか。常時、他者から認識されにくくなる術を使う癖がついてしまっているんだが。手を繋ぎ、運命共同体となっている相方が稀有な行動を取っていれば……結果は、まぁお察しということだ。

 自分が注目の的になっていることなんぞ、これっぽっちも気づいていないグリムはご機嫌だ。揃いのマグカップを買った時のテンションのまま、お二人から聞いた話をうっきうきで話してくれている。

 そもそも俺はその場に、グリムの隣に居たし……常日頃、何度も聞かされているお陰で一言一句、輪唱のように続けて言える程度には、覚えてしまっているんだけどな。本人が楽しそうだから、野暮なことは言わないし、耳にタコが出来ていようが聞くけども。

 お二人……アオイ様と彼の旦那様であるバアル様は、先日城下町へとデートに出掛けた。お城の外へお出掛けするのが初めてだったアオイ様はバアル様曰く、それはそれは楽しそうに、興味津々で透き通った琥珀色の瞳を輝かせていたらしい。

 恒例となった朝の茶会の席にて、柔らかい微笑みを浮かべ、アオイ様の細い肩を抱き寄せながら饒舌に語るバアル様。耳まで顔を真っ赤に染めながらも嬉しそうに、幸せそうに頬を綻ばせ、左手の薬指で輝く銀の輪を俺達に見せてくれたアオイ様。

 ……今、思い出しても胸の辺りがじんわり温かくなる、とても微笑ましい光景だった。

 端っこにいるとはいえ道ばたで、うっかり物思いに耽っていた俺に、おずおずとした声が呼び掛けてくる。

「……クロウ……大丈夫、ですか?」

 どうしたんだろうか? いつもなら丸い頬をこれでもかと膨らませ、俺の裾をぐいぐい引っ張ってくるんだが。フードマントの裾を弱々しく引きながら、見上げてくるグリムの小さな可愛い眉毛は八の字に下がってしまっている。

 彼のしょんぼりとした表情に違和感は覚えたものの、いつもの悪い癖が出てしまっていた。開いた口からつらつらと言葉が勝手に流れ出ていく。

「ん? あー……大丈夫、ちゃんと聞いてるぞ? 雪と戯れるアオイ様は可愛かったよな。フードのウサ耳がぴこぴこ揺れて……」

「こんな時まで、誤魔化そうとしないでくださいよ……今にも泣きそうな顔、してるじゃないですか……」

「は?」

 心配そうな声からの思いもよらない指摘に、うっかり大きな声が出てしまっていた。

 まさかそんな……ちょっとしみじみしていただけで涙ぐむとか、そこまで老いぼれてはいないだろう。

「おー……マジか……マジだな」

 前言撤回だ。もう、ジジイに片足突っ込んじまっているみたいだな。

 ボロ泣きしているわけでも、頬が濡れているわけでも無い。が、軽く目元を拭った指先は、じわりと浮かんでいた水滴のせいで濡れてしまっている。

 ふと視線を戻せば、黙って見上げるグリムの丸い顔が、すっかりしおしおと萎んでしまっていた。

「そんな心配するな。これは……まぁ、あれだ。思い出し涙だよ、良い方のな」

 フード越しに小さな頭をぽん、ぽんっと撫でながら、俺的には渾身の笑顔で笑いかけてみる。

 普段、あまり意識して上げていないせいで、上げた口角の方がぴくぴく笑っちまってるのはご愛嬌ってことにして欲しい。

「良い方、ですか……あ、分かりました! 僕、分かりましたよっ! クロウも感激していたんですねっ! アオイ様とバアル様がお話していたお店に来れて!」

 それならそうと早く言ってくださいよ! とあっさり納得してくれた素直さに、今回ばかりは感謝した。当たらずも遠からずだが、良しとしておこう。明るい笑顔が戻ったんだからな。
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