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とある兵士達の奮闘

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 耳をすませば聞こえてくる。お二方の大切な時間を邪魔をしようとする、不埒な奴らのひそひそ話が。

「……なぁ、あの二人……スゴくよくないか? 背の高い彼はカッコいいし、低い子は可愛いしさ」

「いや、確かに魅力的だけど……ムリだろ、絶対。ほら、滅茶苦茶イチャついてんじゃん。お互いに尻尾絡め合っちゃってさ……俺達に付け入る隙なんてないよ」

「え、尻尾? 尾羽根じゃねぇの? ……まぁ、とにかくダメ元で声かけて見るわ。二人とも良い人そうだし、困ったフリしたら道案内くらいしてくれそ……」

「……何か、お困りでしょうか?」

 一足飛びに距離を詰めてからターゲット達の前方へと回り込む。声を掛ける直前で認識阻害の術を解く。

 連中にとっては、突然俺が目の前に現れたように見えたんだろう。一方は鱗に覆われた尻尾を丸め、もう一方は縮めた翼からぷるぷる羽毛をまき散らす。

 一気に真っ青に染まった顔を歪ませ、情けのない悲鳴を上げながら「すみませんッ! 何でもないです!」と一目散に逃げていった。

 小さくなっていく後ろ姿が見えなくなるまで見届けてから、解いた術をかけ直す。行き交う人々は、突然走り出した彼らに不思議そうな顔をしたものの、すぐさま各々の日常へと戻っていった。

 やはり予め彼らの周囲だけ一時的に、軽い防音障壁を張っておいて正解だったな。

 ……どうやらお二方も、バアル様とアオイ様もこちらの事態には気づいていないよう。指を絡めて手を繋ぎ、幸せそうに微笑み合いながらデートを楽しんでいらっしゃる。

 良かった……と胸を撫で下ろすと同時に、ほっこりとした温かさが胸いっぱいに広がっていく。素晴らしい光景だ……さっきまで怒りが込み上げていた胸の内が、一気に浄化されていくのが分かる。

 本当に、アオイ様の親衛隊になれて良かった。お二方の仲睦まじいご様子を、遠くで静かに見守っていられるのだから。

「……シアン、いくら彼らに非があるとはいえ、無闇に怖がらせるのはあまり感心しないな」

 凛とした声に振り向けば、じとりと細められた青い猫目とかち合う。その隣では、鋭い黄色の瞳が、酷く困惑しているかのように忙しなく瞬いていた。

「でも、未然にお二方との接触を防いだ君の素早さは、とても素晴らしかったけどね」

「怖がらせてなんかいないよ。現にちゃんと営業スマイルもしていただろ?」

「へぇ……だったらもう少し、鏡の前で練習した方がいいんじゃないか? あの殺気に満ちあふれていた形相を、笑顔だと言い張るんだったらね」

「うぐっ……」

 三角の耳をぴこぴこ動かし、細長い尻尾を揺らすベィティはどこか楽しげだ。

 ……確かに、痛いところを突かれたというか……ちゃんと笑顔の形を作れていたか? と問われれば、目を逸らしたくなってしまうが。

「まぁ、君が怒りたくなる気持ちも分かるけどね。でも、ほどほどにしときなよ? まだまだ先は長いんだからさ」

「……分かった、気をつけるよ」

「よし、じゃあ行こうか。まだ距離は離れていないから、ゆっくりね」

 ぽんっと俺の肩を軽く叩いてから、いまだにぼんやり突っ立っているヤツに「大丈夫かい? サロメ」と声を掛けている。普段から気配り上手な彼でなくても、心配になってしまうのは分かる。

 なんせさっきからヤツは「マジかよ……ヨミ様すげぇな……」とか「いや、バアル様とアオイ様がスゴいのか?」などと至極当然のことをブツブツぼやくばかりで、全く動けていないからな。

「……どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」

 幅広の肩を落とし、俺達の後ろをついてきているヤツに合わせて歩調を緩める。黒い鱗に覆われた尻尾の先端を力なさげに下げていたヤツは、俺と目が合うと短めの黒髪をガシガシかき混ぜた。

「……いや、大丈夫だ……悪いな、心配かけちまって」

 本当に問題はないようだ。ヤツの目元に生えている鱗はいつも通りツヤツヤに輝いているし……何より目が泳いでいない。昔っから嘘つくのは下手だもんな、コイツ。

「しっかし、お前らはすげぇな……何で普通に対応出来てんだよ? おかしいだろ……」

「おかしい?」

 今までで、何かおかしなことはあっただろうか? 確か……お二方の後を追い、門をくぐってからすぐに先行組から連絡があったんだよな。バアル様とアオイ様に声を掛けようとしていた、女性の二人組みを追い払ったって。

 それから、俺達も気を引き締めないとな! って気合を入れてたら……今度はさっきの奴らがお二方に近寄ろうとして……ん? 別に特に変わったところは無いと思うんだが……

「いや、だってそうだろ? まだ最初の目的地にも着いてねぇんだぞ? なのに……何で数分おきに声掛けられそうになってんだよ?」

「へ? そんなの、バアル様とアオイ様が魅力的だからに決まってんだろ。なぁ?」

「だね。もし、僕が親衛隊の一員じゃなかったらと思うとゾッとするよ。間違いなく、今まで追い払ってきた彼らの仲間入りをしているだろうからね」

 当然、同意は返ってくるとは思っていた。思っていたが……まさか堂々と、ナンパしていたかもしれない宣言をされるとは思わなかった。

 そんな驚きが顔に出てしまっていたらしい。おいおい冗談に決まってるだろ? と笑われてしまった。

 ……ホントに冗談なのか? という疑いの気持ちも漏れてしまっていたようだ。ベィティは「大丈夫だって、僕はお二方の幸せを心から願っているんだからね」と続けざまに微笑んだ。

「マジかよ……」

 ヤツも俺と同様に驚いたんだろう。わたわたと揺れていた太く長い尻尾が、へにょんと垂れ下がっていく。ガッシリとした太い腕もだらんと下げながら「やっぱり俺だけなのか?」とまたしても、ぶつぶつボヤき始めてしまった。

「ほらサロメ、うんざりしている場合じゃないよ。またお客様だ」

「げ、マジかよ……」

 絶賛肩を落としたままのガッシリとした背中を、ぺしぺしとベィティが叩く。

 俺達にアイコンタクトをしてから彼が指差した先には、女性達の姿があった。そわそわと羽や尻尾を揺らし、耳まで真っ赤に染めながら、ちらちらとお二方に熱い眼差しを送り続けている。

「……三人か、あのまま見惚れるだけなら何も問題ないが、もしお近づきになるんだったら……丁重にお帰り願わないとな」

 表情を引き締め頷くベィティの隣で、ヤツがそれなりに整っている顔を、紙くずみたいにくしゃりと歪めて頭を抱える。

 ……ホントにまだまだ先は長そうだなと、俺も気合を入れ直した。
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