114 / 702
穴だらけな作戦の末路
しおりを挟む
俺の作戦は完璧なハズだった。
見慣れていない部分を見続けて、ドキドキの許容範囲を超えてしまったんだったら、見慣れている部分だけ見続ければいい。という作戦は、完璧なハズだったんだ。
「……斯様に愛らしい表情で熱心に見つめてい頂けると、年甲斐もなく照れてしまいますね」
「ふぇっ……ご、ごめんなさい……」
「ふふ、謝らないで下さい……大変嬉しく存じておりますので」
そう、俺はとんでもない誤算をしていた。完全に失念していたんだ。
俺が唯一見慣れているのは、彫りの深い彼の顔なのだから。作戦を実行している間は、必然的に彼と見つめ合う形になってしまうということを。
傍から見ると、俺の姿は不審者でしかないだろう。黒いハーフパンツの水着一丁でひたすらバアルさんを見つめ続けながら、手探りで彼のシャツのボタンを外しているのだから。
そんな、明らかにおかしい行動をしているにもかかわらず、バアルさんは柔らかい笑みを浮かべたまま。大きな手で時折、俺の頭を撫でてくれる。彼は、もしかしなくても、優しさの化身なのかもしれない。
「本日は……いかがなさいますか?」
全てのボタンを外し終えた頃。どこか嬉しそうに触覚を揺らしながら彼がぽつりと尋ねてきた。聞き返すまでもない。昨日ギブアップしてしまった下の件だろう。
「やります……やらせてください」
バアルさんは色っぽい目尻をゆるりと下げ「畏まりました」と俺の頭をひと撫で。彼のキュッと引き締まった腰に瞬きの間に、すらりと伸びた長い足を覆い隠すタオルが巻かれる。
上の方も、いつの間に脱いだのか。すでに畳み終えた白いシャツを、バアルさんは手元からどこかへと手品のように消してしまっていた。ホント魔術って便利だよな。
さすがに学習した俺は、すぐさまタオルへと視線を移した。見つめれば見つめるほど、体温も鼓動の早さも上昇してしまう、彼の温かい微笑みから。
取り敢えず……外すことが出来ないと、お話にならないよな……
覚悟を決めて、巻きタオルの中へと両手をお邪魔させてもらい、ベルトのバックルに指をかける。
手を動かすたびに、打ち鳴る小さな金属音は、自分ので散々聞き慣れているはずなのに。
好きな人のズボンを脱がす手伝いをさせてもらっているんだと、脳が強く認識してしまったのか、顔から火が出せそうなくらい、カッと熱くなってしまう。寒くもないのに、指先が小刻みに震えてしまう。
いやいや、これくらい大したことないだろ?
だって昨日は……もっと刺激の強いことを、彼に致してもらったんだからさっ!
自分で自分を励ましながら、俺はどうにかこうにかベルトを外すことが出来た。そのままの勢いに任せ、手触りのいい上質な生地のズボンを引き下ろしていく。
丁度いいタイミングで足を軽く上げてくれた、彼の配慮のお陰もあり、無事脱がすことが出来た。
「ありがとうございます」
安心していると彼の大きな手が、俺の頭を撫でてくれた。俺からズボンを受け取り、手早く畳むと今までの衣服同様、手元からパッと消していく。
なんだ……俺にも出来たじゃないか。
小さな小さな成功体験から生まれた余裕。儚いそれは、あっさりなくなることになる。彼の引き締まった身体に、ぴっちりと纏っている下着を下ろさせてもらった瞬間に。
……重量を感じた。明らかに俺にはない、大人の男性の重量を。
……いや、そりゃあ俺より圧倒的に年上なんだし、背だって高いし、男らしい身体つきをしていらっしゃるんだからさ……あちらも、ご立派であられるのは当然というか…………って今は、そんなことを考えてる場合じゃないだろっ……
自分を叱りつつも、俺の頭はすでに真っ白に塗り潰される寸前だった。
勿論、手の方も。彼の下着を摘んで少し下げたまま、完全に止まってしまっていたんだ。
「……そこまでに致しますか?」
「ひょわっ……だ、大丈夫、です……大丈夫ですから」
心配そうな声色で「左様でございますか……」と答えた彼を、これ以上困らせる訳にはいかない。早く済ませなければ。気を紛らわそうとしたせいで、頭の中でひたすらモコモコと湧き出し始めた、羊の数を数えながら一気に下ろす。
それから、俺と同じ水着を穿くお手伝いをさせていただいたんだろうが……ぶっちゃけ覚えていない。必死過ぎて、がむしゃら過ぎて、どうやったのかも。ちゃんとやれたのかも、全く。
気がついた時には、どこか上機嫌に羽をはためかせている彼に、青い石造りの浴室で全身を隅々まで綺麗に洗ってもらった後だったからな。
で、結局作戦はどうなったのかって? 想像はつくだろうけどさ……失敗だよ失敗。
あ、でも今回は、限界になる前にちゃんと彼にギブアップ宣言をすることが出来たからさ。一緒にお湯には浸かれたんだ。これだけでも、また一歩くらいは進んだだろ? 進んだよな?
見慣れていない部分を見続けて、ドキドキの許容範囲を超えてしまったんだったら、見慣れている部分だけ見続ければいい。という作戦は、完璧なハズだったんだ。
「……斯様に愛らしい表情で熱心に見つめてい頂けると、年甲斐もなく照れてしまいますね」
「ふぇっ……ご、ごめんなさい……」
「ふふ、謝らないで下さい……大変嬉しく存じておりますので」
そう、俺はとんでもない誤算をしていた。完全に失念していたんだ。
俺が唯一見慣れているのは、彫りの深い彼の顔なのだから。作戦を実行している間は、必然的に彼と見つめ合う形になってしまうということを。
傍から見ると、俺の姿は不審者でしかないだろう。黒いハーフパンツの水着一丁でひたすらバアルさんを見つめ続けながら、手探りで彼のシャツのボタンを外しているのだから。
そんな、明らかにおかしい行動をしているにもかかわらず、バアルさんは柔らかい笑みを浮かべたまま。大きな手で時折、俺の頭を撫でてくれる。彼は、もしかしなくても、優しさの化身なのかもしれない。
「本日は……いかがなさいますか?」
全てのボタンを外し終えた頃。どこか嬉しそうに触覚を揺らしながら彼がぽつりと尋ねてきた。聞き返すまでもない。昨日ギブアップしてしまった下の件だろう。
「やります……やらせてください」
バアルさんは色っぽい目尻をゆるりと下げ「畏まりました」と俺の頭をひと撫で。彼のキュッと引き締まった腰に瞬きの間に、すらりと伸びた長い足を覆い隠すタオルが巻かれる。
上の方も、いつの間に脱いだのか。すでに畳み終えた白いシャツを、バアルさんは手元からどこかへと手品のように消してしまっていた。ホント魔術って便利だよな。
さすがに学習した俺は、すぐさまタオルへと視線を移した。見つめれば見つめるほど、体温も鼓動の早さも上昇してしまう、彼の温かい微笑みから。
取り敢えず……外すことが出来ないと、お話にならないよな……
覚悟を決めて、巻きタオルの中へと両手をお邪魔させてもらい、ベルトのバックルに指をかける。
手を動かすたびに、打ち鳴る小さな金属音は、自分ので散々聞き慣れているはずなのに。
好きな人のズボンを脱がす手伝いをさせてもらっているんだと、脳が強く認識してしまったのか、顔から火が出せそうなくらい、カッと熱くなってしまう。寒くもないのに、指先が小刻みに震えてしまう。
いやいや、これくらい大したことないだろ?
だって昨日は……もっと刺激の強いことを、彼に致してもらったんだからさっ!
自分で自分を励ましながら、俺はどうにかこうにかベルトを外すことが出来た。そのままの勢いに任せ、手触りのいい上質な生地のズボンを引き下ろしていく。
丁度いいタイミングで足を軽く上げてくれた、彼の配慮のお陰もあり、無事脱がすことが出来た。
「ありがとうございます」
安心していると彼の大きな手が、俺の頭を撫でてくれた。俺からズボンを受け取り、手早く畳むと今までの衣服同様、手元からパッと消していく。
なんだ……俺にも出来たじゃないか。
小さな小さな成功体験から生まれた余裕。儚いそれは、あっさりなくなることになる。彼の引き締まった身体に、ぴっちりと纏っている下着を下ろさせてもらった瞬間に。
……重量を感じた。明らかに俺にはない、大人の男性の重量を。
……いや、そりゃあ俺より圧倒的に年上なんだし、背だって高いし、男らしい身体つきをしていらっしゃるんだからさ……あちらも、ご立派であられるのは当然というか…………って今は、そんなことを考えてる場合じゃないだろっ……
自分を叱りつつも、俺の頭はすでに真っ白に塗り潰される寸前だった。
勿論、手の方も。彼の下着を摘んで少し下げたまま、完全に止まってしまっていたんだ。
「……そこまでに致しますか?」
「ひょわっ……だ、大丈夫、です……大丈夫ですから」
心配そうな声色で「左様でございますか……」と答えた彼を、これ以上困らせる訳にはいかない。早く済ませなければ。気を紛らわそうとしたせいで、頭の中でひたすらモコモコと湧き出し始めた、羊の数を数えながら一気に下ろす。
それから、俺と同じ水着を穿くお手伝いをさせていただいたんだろうが……ぶっちゃけ覚えていない。必死過ぎて、がむしゃら過ぎて、どうやったのかも。ちゃんとやれたのかも、全く。
気がついた時には、どこか上機嫌に羽をはためかせている彼に、青い石造りの浴室で全身を隅々まで綺麗に洗ってもらった後だったからな。
で、結局作戦はどうなったのかって? 想像はつくだろうけどさ……失敗だよ失敗。
あ、でも今回は、限界になる前にちゃんと彼にギブアップ宣言をすることが出来たからさ。一緒にお湯には浸かれたんだ。これだけでも、また一歩くらいは進んだだろ? 進んだよな?
46
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
圏ガク!!
はなッぱち
BL
人里から遠く離れた山奥に、まるで臭い物に蓋をするが如く存在する、全寮制の男子校。
敷地丸ごと圏外の学校『圏ガク』には、因習とも呼べる時代錯誤な校風があった。
三年が絶対の神として君臨し、
二年はその下で人として教えを請い、
一年は問答無用で家畜として扱われる。
そんな理不尽な生活の中で始まる運命の恋?
家畜の純情は神に届くのか…!
泥臭い全寮制学校を舞台にした自称ラブコメ。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
『恋愛短編集②』婚約破棄の後には、幸せが待って居ました!
Nao*
恋愛
9/18最新『婚約者の妹より良い成績を取った私は、シスコンの彼の怒りを買い婚約破棄されました。』
規約改定に伴い、今まで掲載して居た恋愛小説(婚約者の裏切り・婚約破棄がテーマ)のSSをまとめます。
今後こちらに順次追加しつつ、新しい話も書いて行く予定です。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
王妃のおまけ
三谷朱花
恋愛
私、立夏は、異世界に召喚された後輩とたまたま一緒にいたことで、異世界について来ることになった。
ただ、王妃(ヒロイン)として召喚された後輩もハードモードとか、この世界どうなってるの?!
絶対、後輩を元の世界に連れて帰ってやる!
※アルファポリスのみの公開です。
※途中でリハビリ方法について触れていますが、登場人物に合わせたリハビリになっていますので、万人向けのリハビリではないことをご理解ください。
死に戻りオメガと紅蓮の勇者
渡辺 佐倉
BL
オメガであることが分かったユーリは屋敷で軟禁されて暮らしていた。
あるとき、世界を救った勇者と婚約が決まったと伝えられる。
顔合わせをした勇者は朗らかでとてもやさしい人で……
けれどアルファ至上主義であるこの国の歪みが悲劇を生む。
死んだと思ったユーリは気が付くと性別判定の儀式の前に逆行していることに気が付いたが……
一度目の人生で引き離された二人が二度目の人生で幸せをつかむ話です。
オリジナル設定のあるオメガバース異世界です。
タイトルの通り死に戻りの物語です。逆行前は不幸な話が続きますのでご注意ください。
勇者と言ってますがこの世界の勇者は魔法使いです。
後半にラブシーンが入る予定なのでR18としています。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる