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★ さっきのって、マッサージじゃなかったんですか?

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 まだほんの少し熱を持っている身体には、奥の方がそわそわするような、なんだか妙に落ち着かない感じが残っていた。けれども俺は、すっかりご満悦だった。

 逞しい膝の上で、引き締まった長い腕にすっぽりと包み込むように抱きしめてもらっているからだ。白くてキレイな手に、頭や背中をよしよしと撫で回してもらっているからだ。

 おまけに言葉で強請らなくても、穏やかに微笑んでいる彼の瞳をじっと見つめさえすれば、キスを送ってもらえる。笑みを深くした唇で、何度だって触れてもらえるもんだから、ますます浮かれた熱で頭がぽやぽやしてしまう。

 そんなネジが緩みきった状態だから、口まで緩んでしまっていたんだろう。

 彼から尋ねられている訳でもないのに、気がつけば俺はぽつぽつと、先程、自分の身体に起きていた異常事態を、彼に報告していたんだ。

 それによって、緩みきっていた顔を、再び一気に熱くすることになるとは知らずに。

「へ? ……さっきのって、マッサージじゃ……なかったんですか?」

「ええ、貴方様からスキンシップ以上のことを……と求めて頂けましたので……貴方様に気持ちよくなって頂けるよう、性感帯を刺激させて頂いておりました」

「せっ!?」

「ですから、何もご心配される必要はございませんよ。お体がおかしくなってしまった訳では、ございませんので」

 穏やかに微笑んで、髪の毛を梳くようにゆるゆる撫でてくれながら。一から十まで淡々と説明してくれた彼は、いつも通り冷静そのものだ。すべすべの白い頬が照れくさそうに、ほんのりと染まることもない。

 そんな大人の余裕に満ちあふれている彼と違って、最初で最後の好きな人が目の前にいるバアルさんな俺はというと、頭をぐわんぐわん回していた。

 ……え? 性感帯って、男にとっての大事な部分か、女性の方でいったら、お胸やお尻のことじゃないの? 耳とか首でも気持ちよくなれちゃうの?

 そういった経験がゼロな俺にとって、よっぽど衝撃が強かったのかもしれない。頭に浮かんだ純粋な疑問を、うっかりそのまま彼に向かってぶちまけてしまっていたのだから。

「……じゃ、じゃあ、さっきバアルさんから触ってもらっている度に、変なぞくぞくする感じがしてたのも……勝手に身体が震えたりしてたのも……全部、ただ俺が、気持ちよくなってただけってこと……ですか?」

「……っ……ええ、左様でございますね……恐らくは」

 まだ衝撃の余波からか、冷静な思考回路に戻っていない俺は気づかない。

 手を止め、もごもごと小さく頷く彼の頬が、ポッと真っ赤に染まっていることに。ピンっと立ち上がった触覚を忙しなく揺らし、ぶわりと広げた白い水晶のように透き通った羽を、落ち着きなくはためかせていることに。

 それどころか、先程のぶっちゃけた質問よりも、とんでもない失態をやらかしてしまったんだ。

「あ、ホントだ……やっば、パンツ着替えないと……」

 多分、彼からは見えていなかったとはいえ、ズボンのゴムと一緒に、下着を前にぐいっと引っ張ってから確認するという失態を。

 この時、俺を乗せた彼の全身が、ビクンッと大きく跳ねたことについては、一応気づいてはいた。

 しかし俺の頭の中は、中の悲惨な状態のことでいっぱいだった。

 なんか、ヌルヌルして気持ち悪いなぁ……って思ってたんだよな……

 え? まさかとは思うけど、ちょっと出ちゃったりしてないよな? ……こっちは触ってもらってもいないのに……大丈夫か、俺……

 などと。だから、分からなかった。

「……お召し替えるのは、もう少し後に致しませんか?」

「え? ……んっ……」

 なんで彼にキスしてもらえているのかも。なんで俺を真っ直ぐ見つめる瞳が、妖しい熱を帯びているのかも。

 分からないまま優しく何度も食まれた後に、彼のスッと通った高い鼻が、甘えてくれているみたいに擦り寄ってくる。

 それだけで、俺の頭は芯まですっかり蕩けてしまっていた。なのに、触れ合っている間に、しれっと俺にとっての気持ちのいい箇所を、さっきと同じ手つきで優しく刺激されてしまったのだ。身体の疼きまでもが、強くなってしまっていた。

「……もう一度、貴方様に触れても宜しいでしょうか?」

 俺が返す答えなんて、バアルさんになら分かっているだろうに……

 手を止めてしまった彼は、艷やかな笑みを浮かべたまま俺をじっと待っている。

 懸命に見つめ続けても、そっと指を絡めて手を繋いでくれるだけ。さっきみたいに、俺のして欲しいことを叶えてはくれない。

「…………いつでも大歓迎だって、言ったじゃないですか……」

 ヘタレた俺には、これが精一杯だった。もっと素直に、ストレートに、触って欲しいと伝えることすら出来ずに、彼が汲み取ってくれることに期待して、手を握り返すのが。

 ぱちぱちと瞬いていた、煌めく宝石のような瞳がゆるりと細められる。清潔感のある白い髭が素敵な口元に、柔らかい笑みが浮かぶ。

 繋いでいない方の手が、俺の頭をひと撫でしてから頬にするりと添えられた。

「ふふ、左様でございましたね……」

 どこか上機嫌に羽をはためかせている彼が、今度は瞳が絡んだだけで、俺の望みを叶えてくれた。

 俺はやっぱり単純だ。ほんのちょっとだけ離れていた距離がなくなって、彼と重なり合えただけなのに、こんなにも胸が満たされるんだから。
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