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今夜こそ、バアルさんと一緒にお風呂を
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最近の日課になっているお散歩デートを終え、夕ご飯もしっかりいただき、すっかり窓の外が暗闇に染まった頃。俺は、とある決意を固めていた。
今夜こそバアルさんをお風呂に誘おう! と。
以前の俺は、少し時間をくださいなどとヘタレてしまっていたけど、今は違う。
もうバアルさんとは何回もキスしてもらえている。触り合いっこだって。おまけにこの前は、一応、俺が、バアルさんを押し倒したんだからな。次のステップに進めるだけの経験は積めているハズだ。
頭の中で……ただ呼び捨てで呼んでもらえただけで、嬉しすぎて腰砕けになっているくせに大丈夫なのか? という心配の声が上がっているが気にしてはいけない。こういうのは、勢いが大事なハズだからな。
相変わらず穴ぼこだらけの、作戦と呼ぶのもおこがましい企みを胸に抱いている俺に、早速チャンスがやって来た。
「アオイ様、湯浴みのご用意を致しました」
黒いジャケットを脱ぎ、ネクタイと白手袋を外して、動きやすい白いシャツと黒のズボンだけになったバアルさん。きゅっと引き締まった腰には、足首まである黒いエプロンが巻かれている。胸に手を当てたまま、俺に向かって綺麗な角度のついたお辞儀を披露した。
いつもだったら、はいっありがとうございますと返事をしてから、差し出される手に手を重ねて浴室へと向かうところだが……
「ありがとうございます……あの、バアルさん……」
「いかがなさいましたか?」
ただでさえ高鳴っていた心臓が、不思議そうに首を傾げる緑の瞳に見つめられ、さらに激しく早鐘を打つ。
ぐずぐずすればするだけ言葉が、震える喉の奥へと引っ込んでいってしまう。だから、とにかく早く言うだけ言ってしまえっ! と焦って口を開いたのがいけなかったんだろう。
「今日は、お風呂……い、一緒に入りたいですっ」
勢いをつけすぎてしまった。
今日は一緒に入りませんか? とスマートに誘うことさえも出来ずに、ただワガママを言っているだけのようになってしまった。
羽を大きくぶわりと広げ、ピンと背筋を伸ばしたまま固まってしまっていたバアルさん。ピクリとも動かない彼の姿に、一瞬、時が止まってしまったんじゃないかと錯覚してしまう。
やっぱりダメだろうか。
「……畏まりました」
なんと、意外にもあっさりと承諾してくれた。断言してしまったのが、逆に功を奏したのだろうか?
更には何やらスゴく前向きなご様子。ポカンと突っ立っていた俺の手を取り「では参りましょうか……」と頬を染めて微笑んでくれたのだ。
胸の内が、徐々に達成感で満たされていく。
大きな手を握り返した俺の足取りは軽やかで、気持ちはスキップするくらいに弾んでいた。これから、彼と裸の付き合いをするというのに、これといった緊張もなかった。
いつもどおり彼に手伝ってもらい、俺自身の着替えが済むまでは。
もう、言うまでもないだろうが……この時の俺は、バアルさんをお風呂に誘うということ自体が、最終目標になってしまっていた。
そう、彼を押し倒そうとした時と一緒。先のことなど、何も考えていなかったのである。
だからまぁ、俺が想像出来ないような展開になるのも、当然といえば当然だろう。
今夜こそバアルさんをお風呂に誘おう! と。
以前の俺は、少し時間をくださいなどとヘタレてしまっていたけど、今は違う。
もうバアルさんとは何回もキスしてもらえている。触り合いっこだって。おまけにこの前は、一応、俺が、バアルさんを押し倒したんだからな。次のステップに進めるだけの経験は積めているハズだ。
頭の中で……ただ呼び捨てで呼んでもらえただけで、嬉しすぎて腰砕けになっているくせに大丈夫なのか? という心配の声が上がっているが気にしてはいけない。こういうのは、勢いが大事なハズだからな。
相変わらず穴ぼこだらけの、作戦と呼ぶのもおこがましい企みを胸に抱いている俺に、早速チャンスがやって来た。
「アオイ様、湯浴みのご用意を致しました」
黒いジャケットを脱ぎ、ネクタイと白手袋を外して、動きやすい白いシャツと黒のズボンだけになったバアルさん。きゅっと引き締まった腰には、足首まである黒いエプロンが巻かれている。胸に手を当てたまま、俺に向かって綺麗な角度のついたお辞儀を披露した。
いつもだったら、はいっありがとうございますと返事をしてから、差し出される手に手を重ねて浴室へと向かうところだが……
「ありがとうございます……あの、バアルさん……」
「いかがなさいましたか?」
ただでさえ高鳴っていた心臓が、不思議そうに首を傾げる緑の瞳に見つめられ、さらに激しく早鐘を打つ。
ぐずぐずすればするだけ言葉が、震える喉の奥へと引っ込んでいってしまう。だから、とにかく早く言うだけ言ってしまえっ! と焦って口を開いたのがいけなかったんだろう。
「今日は、お風呂……い、一緒に入りたいですっ」
勢いをつけすぎてしまった。
今日は一緒に入りませんか? とスマートに誘うことさえも出来ずに、ただワガママを言っているだけのようになってしまった。
羽を大きくぶわりと広げ、ピンと背筋を伸ばしたまま固まってしまっていたバアルさん。ピクリとも動かない彼の姿に、一瞬、時が止まってしまったんじゃないかと錯覚してしまう。
やっぱりダメだろうか。
「……畏まりました」
なんと、意外にもあっさりと承諾してくれた。断言してしまったのが、逆に功を奏したのだろうか?
更には何やらスゴく前向きなご様子。ポカンと突っ立っていた俺の手を取り「では参りましょうか……」と頬を染めて微笑んでくれたのだ。
胸の内が、徐々に達成感で満たされていく。
大きな手を握り返した俺の足取りは軽やかで、気持ちはスキップするくらいに弾んでいた。これから、彼と裸の付き合いをするというのに、これといった緊張もなかった。
いつもどおり彼に手伝ってもらい、俺自身の着替えが済むまでは。
もう、言うまでもないだろうが……この時の俺は、バアルさんをお風呂に誘うということ自体が、最終目標になってしまっていた。
そう、彼を押し倒そうとした時と一緒。先のことなど、何も考えていなかったのである。
だからまぁ、俺が想像出来ないような展開になるのも、当然といえば当然だろう。
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