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失礼かとは存じますが、そのような行為に関する知識は、どの程度ございますか?

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 思っているだけじゃ、伝わらないのは当然だ。

 だからこそ、行き違いになってしまわないように、言葉で伝える必要があるのは分かる。分かってはいるんだが。



「では……アオイ様は、私との関係の進展に前向きではございますが、ご経験の無さ故に不安に思っていらっしゃる……ということで宜しいでしょうか?」

「はぃ……宜しいです……」

 まさか涼しい顔で淡々と、根掘り葉掘り胸の内を問いただされることになるとは、思ってもみなかったんだが?

 恥ずかし過ぎるんだけど……なんか変な汗出てきたし。顔どころか、目の奥まで滅茶苦茶熱いんだけど……

 引き締まった彼の腕に支えてもらわなければ、俺は今にもソファーからずり落ちてしまうだろう。そんな情けない俺に対して、隣で長い足を上品に組むバアルさんは、誰が見たって余裕綽々だ。

 まぁ、さっきバスルームで彼が言ってくれた通り、大事なことなんだから、恥ずかしがってばかりじゃいけないよな……

 そう自分に言い聞かせ、彼を見習って堂々としていようと、思い直そうとしていた矢先。再び投げかけられた質問が、いとも容易く俺の決意を挫いたんだけどさ。

「失礼かとは存じますが、そのような行為に関する知識は、どの程度ございますか?」

「……ッ、それは……その…………」

 真っ直ぐに見つめてくる緑の瞳から、俺は思わず逃げてしまっていた。顔ごと背けてしまった俺の背を、バアルさんが「ゆっくりでいいですよ」と撫でてくれる。

 単純な俺は、その優しい手つきにあっさり落ち着きを取り戻した。

 とはいえ、頭の中にある引き出しをいくら開けても、一般的な知識しかない。同性同士の知識すらなかったのだ。

 ましてや人間と悪魔との、あれやこれやのことなんか、入っている訳がない。

 かといって、何も答えられないのもどうなんだ? と変なプライドが邪魔をした。

「えっと……お互いの身体を……触り合うとか、ですかね?」

 結果、逆に自分の無知を白状してしまっているくらいに当たり前のことを、さも知っていてるかのように口にしてしまっていたんだ。

「ええ、左様でございます」

 穏やかな低音から紡がれた、思いもよらない肯定の言葉。優しく微笑みかけてくれる彼を前にして、笑われてしまうんじゃないかと決めつけていた自分が情けなくなる。

「何事も段階を踏んでいくことが、大切でございますからね」

 勝手に見栄を張って、勝手に落ち込んでいる俺の手に、一回り大きな手が重なり、繋がれた。

「……私達も少しずつお互いを知り、より深く愛し合って参りましょうね」

 ……バアルさんはきっと、いや絶対、俺を励ます天才なんだろう。

 いつも完璧なタイミングで、たちまち心が舞い上がるようなことを、胸のドキドキが止まらなくなる言葉をくれるんだから。

「……はい」

 満たされ過ぎて、頭がぽやぽやする。俺は、ただ頷くことしか出来なかった。

 なのにバアルさんは、とても嬉しそうに微笑んでくれた。全身を包み込むように、ぎゅっと俺のことを抱き締めてくれたんだ。
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