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バアルさんは、いつも大人の余裕たっぷりだ。こっちは、なけなしの勇気を振り絞ってるってのに
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身近な人っていうかさ……一緒に居る時間が長ければ長いほど、その人の変化に気づきやすいよな。髪型とか、服装とか……言動とかさ。
まぁ、単純に俺がその人を……彼のことばかり見てたり、考えたりしているからなのかもしれないけど。
あー……とにかくその変化がさ……悪いものじゃなくてむしろ良いものだったらさ。別に心配したり、不安になったりする必要はないよな。ないんだが。
ガラス細工のように透き通った羽をはためかせ、軽やかに光の軌跡を描きながら、俺達の周りでキラキラ瞬く緑の粒。
バアルさんの従者である小さなハエのコルテが、その針より細い手足で奏でるヴァイオリンのリズムに合わせて、ステップを踏む。
以前は、とにかくバアルさんの足を誤って踏んでしまわないか心配で、足元ばかり見ていたり、動きがぎこちなくなったりしていたけど。
練習を重ねたお陰で、ようやく俺でも自然と足が動くようになり、彼の顔を見ながら踊れるようになったんだ。
まぁ、単純なステップの繰り返しであることと、ゆったりとしたテンポの曲にかぎるってのが、前提条件なんだけどさ。
青く透き通った水晶で作られた、シャンデリアの明かりに照らされて、艷やかに光る床の上を大きな手に引かれながら弾むように歩き、時にはくるくる回る。
最後に腰を、筋肉質の長い腕に支えてもらいながら上体を反らし、思いっきり腕を伸ばしてポーズを決めた瞬間。ぱぱんっと弾けた音がして、俺達に向かって勢いよく、色とりどりの細く長いテープが伸び、紙片が舞った。
コルテだ。いつの間にやら、小さな小さな彼専用のヴァイオリンから、俺達にとっては手のひらサイズだが、彼にとっては自身の身体より大きなクラッカーに持ち替えている。
ご機嫌そうに緑色の光をぴかぴか放ちながら、俺達の側でゆらゆら飛んでいる。
「はは、ありがとう。コルテの演奏もカッコよかったよ」
少し乱れた息を整えている間に、今度は「カッコよかった!」と大きく書かれたボードを掲げていた小さな彼にお礼を言う。
すると、いつものように一際激しく輝きながら、ハートマークを宙に描いてから、ポンッと煙のように消えてしまった。
「あ、消えちゃった……」
「ふふ、照れているのでしょう。彼も貴方様のことを大変慕っていますから」
バアルさんが、綺麗に整えられた白い髭が似合う口元を綻ばせる。陽だまりのように柔らかい眼差しで、俺を見つめてくれる。
白い手袋に覆われた細く長い指が、俺の頬をゆるりと撫でてくれる。ごく自然に流れるような動作で、額にそっと口づけてくれる。
それだけでも、俺の胸は歓喜に震え、激しく高鳴っているっていうのに。彼ときたら。
「勿論、私めも彼以上に、アオイ様のことをお慕い申し上げておりますよ」
などと嬉しいことを、サラリと言いのけてしまうのだ。
更には、宝石みたいに煌めく瞳を細め、今度は……く、口に優しくキスしてくれるもんだから困ってしまう。
「ひぇ…………お、俺もバアルさんのことが…………す、好き……です」
こっちは、なけなしの勇気を必死に振り絞って、なんとか応えているってのに。バアルさんは大人の余裕たっぷりに、スマートに想いを返してくれる。
背中にある半透明の羽をはためかせ、嬉しそうに微笑みながら、穏やかな甘ったるい響きを含んだ低音で、耳元で「私も愛しております……」と囁いてくれるのだ。
ズルい……ズル過ぎる。もっと俺に触れて、撫でて欲しいって。ずっと、ぎゅっと抱きしめて欲しいって、思っちゃうじゃないか。
もっとこの前みたいに、息も出来ないくらいに沢山……き、キスして欲しいって……思っちゃうじゃないか。
そんな俺の願望が漏れ出て彼に伝わってしまうほど、きっと俺は、もの欲しそうな顔で見つめてしまっていたのだろう。
片手で軽々と俺を抱き抱えたバアルさんは、どこか上機嫌そう。後ろにキッチリ撫で付けられた、オールバックの生え際から生えている触覚を揺らしている。
術によって、優雅なダンスホールへと変わっていた室内は、元の高級ホテルのような部屋へと戻っていた。
バアルさんは俺を抱き抱えたまま、器用にソファーへと腰掛けて、俺を向かい合わせの形で膝の上に抱き直した。
「……アオイ様」
「は、はい…………んっ」
返事をしてから、すぐだった。額が重なって、唇が触れ合う。
今回は、俺の腰が立たなくなる手前で、ちゃんと止めてくれた。とはいえ、何度も優しく食まれてしまえば、結果は同じこと。
満足そうに微笑んだ、彫りの深い顔が離れていく頃には、俺は力なく彼に縋りついてしまっていた。その大きな手から余すことなく全身を、よしよしと撫で回してもらってしまったんだ。
まぁ、単純に俺がその人を……彼のことばかり見てたり、考えたりしているからなのかもしれないけど。
あー……とにかくその変化がさ……悪いものじゃなくてむしろ良いものだったらさ。別に心配したり、不安になったりする必要はないよな。ないんだが。
ガラス細工のように透き通った羽をはためかせ、軽やかに光の軌跡を描きながら、俺達の周りでキラキラ瞬く緑の粒。
バアルさんの従者である小さなハエのコルテが、その針より細い手足で奏でるヴァイオリンのリズムに合わせて、ステップを踏む。
以前は、とにかくバアルさんの足を誤って踏んでしまわないか心配で、足元ばかり見ていたり、動きがぎこちなくなったりしていたけど。
練習を重ねたお陰で、ようやく俺でも自然と足が動くようになり、彼の顔を見ながら踊れるようになったんだ。
まぁ、単純なステップの繰り返しであることと、ゆったりとしたテンポの曲にかぎるってのが、前提条件なんだけどさ。
青く透き通った水晶で作られた、シャンデリアの明かりに照らされて、艷やかに光る床の上を大きな手に引かれながら弾むように歩き、時にはくるくる回る。
最後に腰を、筋肉質の長い腕に支えてもらいながら上体を反らし、思いっきり腕を伸ばしてポーズを決めた瞬間。ぱぱんっと弾けた音がして、俺達に向かって勢いよく、色とりどりの細く長いテープが伸び、紙片が舞った。
コルテだ。いつの間にやら、小さな小さな彼専用のヴァイオリンから、俺達にとっては手のひらサイズだが、彼にとっては自身の身体より大きなクラッカーに持ち替えている。
ご機嫌そうに緑色の光をぴかぴか放ちながら、俺達の側でゆらゆら飛んでいる。
「はは、ありがとう。コルテの演奏もカッコよかったよ」
少し乱れた息を整えている間に、今度は「カッコよかった!」と大きく書かれたボードを掲げていた小さな彼にお礼を言う。
すると、いつものように一際激しく輝きながら、ハートマークを宙に描いてから、ポンッと煙のように消えてしまった。
「あ、消えちゃった……」
「ふふ、照れているのでしょう。彼も貴方様のことを大変慕っていますから」
バアルさんが、綺麗に整えられた白い髭が似合う口元を綻ばせる。陽だまりのように柔らかい眼差しで、俺を見つめてくれる。
白い手袋に覆われた細く長い指が、俺の頬をゆるりと撫でてくれる。ごく自然に流れるような動作で、額にそっと口づけてくれる。
それだけでも、俺の胸は歓喜に震え、激しく高鳴っているっていうのに。彼ときたら。
「勿論、私めも彼以上に、アオイ様のことをお慕い申し上げておりますよ」
などと嬉しいことを、サラリと言いのけてしまうのだ。
更には、宝石みたいに煌めく瞳を細め、今度は……く、口に優しくキスしてくれるもんだから困ってしまう。
「ひぇ…………お、俺もバアルさんのことが…………す、好き……です」
こっちは、なけなしの勇気を必死に振り絞って、なんとか応えているってのに。バアルさんは大人の余裕たっぷりに、スマートに想いを返してくれる。
背中にある半透明の羽をはためかせ、嬉しそうに微笑みながら、穏やかな甘ったるい響きを含んだ低音で、耳元で「私も愛しております……」と囁いてくれるのだ。
ズルい……ズル過ぎる。もっと俺に触れて、撫でて欲しいって。ずっと、ぎゅっと抱きしめて欲しいって、思っちゃうじゃないか。
もっとこの前みたいに、息も出来ないくらいに沢山……き、キスして欲しいって……思っちゃうじゃないか。
そんな俺の願望が漏れ出て彼に伝わってしまうほど、きっと俺は、もの欲しそうな顔で見つめてしまっていたのだろう。
片手で軽々と俺を抱き抱えたバアルさんは、どこか上機嫌そう。後ろにキッチリ撫で付けられた、オールバックの生え際から生えている触覚を揺らしている。
術によって、優雅なダンスホールへと変わっていた室内は、元の高級ホテルのような部屋へと戻っていた。
バアルさんは俺を抱き抱えたまま、器用にソファーへと腰掛けて、俺を向かい合わせの形で膝の上に抱き直した。
「……アオイ様」
「は、はい…………んっ」
返事をしてから、すぐだった。額が重なって、唇が触れ合う。
今回は、俺の腰が立たなくなる手前で、ちゃんと止めてくれた。とはいえ、何度も優しく食まれてしまえば、結果は同じこと。
満足そうに微笑んだ、彫りの深い顔が離れていく頃には、俺は力なく彼に縋りついてしまっていた。その大きな手から余すことなく全身を、よしよしと撫で回してもらってしまったんだ。
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