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偶然なんかじゃなかったんだ、サタン様は最初から死神さん達の話をするつもりで

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「どう、思う……って?」

 質問で返してしまっていた。意図が読めなかったってのもある。でも、それ以上に驚きが上回っていたのだ。

 どうして彼らの話を、こんなタイミングで?

 俺の困惑が伝わったんだろう。少しだけ表情を和らげてくれたサタン様が、今度はゆっくりと優しい声色で問いかける。

「……おぬしの本心を、素直に包み隠さず教えて欲しいんじゃ」
 
 それでも俺の頭には、こびりついて離れなくなってしまっていた。先程の、魂ごと凍ってしまいそうな鋭い眼差しが。

 恐れは不安を、不安は新たな不安を生んでしまう。

 現に俺は結びつけてしまったのだ。以前にバアルさんが言っていた、彼らの処遇。俺が二人を赦さなかったのならば、首を切らねばいけなかったのだと。それだけの罪を犯したのだと。

 もしかして、俺が赦しても二人は赦されなかったんじゃ……

「……っ、どうか……御慈悲を、いただけないでしょうか?」

 気がつけば俺は訴え、勢いよく頭を下げていた。

「慈悲……とな?」

 訝しげな声に、おのれの膝を掴む手が震えてしまう。額に汗が滲んでいく。熱くもないのに、むしろ肌寒いくらいなのに。

「はいっ……俺なら、大丈夫ですから……怒ってませんし、元々彼らを恨んでなんかいません……それに」

 こみ上げてきた色んな感情で、ぐちゃぐちゃになってしまった頭から導き出した考え。

 たとえ俺が赦したとしても、地獄を治める王族として彼らに責任を取らせる必要が、別の重い罰を与えなければならないのかと。

 今日、俺達の部屋を訪れたのはたまたまではなく、現地獄の王であるヨミ様に代わって、そのことを伝えに来たのではないかと。

 その推論に囚われた俺は、必死に訴えていた。

「俺っ……今、スゴく幸せなんですっ……」

 立ち上がり、震える喉から声を振り絞り、頭を深く下げ、祈るように言葉を重ねていたんだ。

「大切な人に……バアルさんに出会えて…………皆さんから、受け入れていただけて……だから、どうか彼らにご慈悲を……お願いします……」

 お互いを守る為に、必死で庇い合っていた彼ら。死神さん達への罰が、どうか少しでも軽くなりますようにと。

「……バアルよ」

「…………はい」

 室内を占めている重苦しい空気。そして前方から、サタン様から放たれている威圧感に喉が勝手に締まっていく。上手く呼吸が出来ない。

 堪えられず、胃の中身を全てぶちまけてしまいそうだった俺の耳に届いたのは。

「絶っ対に、アオイ殿を逃してはならんぞっ」

「……重々承知しております」

 力強い重低音と、僅かに震える低音だった。

 逃がしてはならないって、俺を? 何で?

 お二人は、何やら分かり合っているいるようだが、俺からしたら何が何だか。

 恐る恐る顔を上げれば、余計に頭の中が疑問符で埋め尽くされた。サタン様が、真っ赤な瞳をますます赤く滲ませて、俺を見つめていたのだ。

 今までの話の流れに、泣きそうになる要素、あったっけ?

 助けを求めて横を向けば、バアルさんの瞳も潤んでいた。口元を覆い、肩を震わせている。白い頬も、優しい目元も真っ赤に染めていらっしゃる。

「へ?」

 間抜けな声を漏らした俺はようやく気がついた。俺だけが、とんでもなく明後日の方向へと、頭を働かせてしまっていたことに。
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