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とある兵士達の昼食、星型クッキーを添えて
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朝のしんどい鍛錬も終え、待ちに待った昼飯時。いつもなら、大声を張り上げなければオーダーのひとつも伝わりやしない賑やかさが、食堂を支配しているってのに。
皆一様にだらしなく目尻を下げながら、あるいは目の前のコイツのように涙ぐみながら。緑のリボンで可愛くラッピングされた、甘い香りが漂う包みを、後生大事に抱えて黙りこくってしまっている。
……まぁ、その気持ちは分からんでもないが。
「……なぁ、いい加減食ったらどうだ?」
「何を罰当たりなことを言っているんだよ! 手作りだぞ? アオイ様のっ!」
何度目かの提案もやっぱり断られてしまった。白銀の耳どころか、尻尾まで逆立てたヤツにあっさり。
「しかも、居なかった俺達の分まで……わざわざ作ってくださって……ぐぅっ……」
顔をくしゃりと歪め、大粒の涙をこぼすヤツの訴えは、思わず眉間にシワが寄るくらい、さっきから何度も繰り返し聞いたってのに。俺と同じく、呆れたような苦笑いを浮かべている連中より、分かるわーってうんうん頷いてる連中の方が多いのは、なんなんだ。
まぁ、確かに。ただ演習を見学させてもらったからといって、お礼を持ってくるどころか。きっちり全員分用意してきてくれていたのには、俺も思わず大声を上げちまったけどな。
いや逆に、喜ばねぇヤツが居んのか? って話だが。
「それなのに……お前ってヤツはさぁ、うめぇうめぇ言いながら簡単に食いやがってよ……」
「ああ、美味かったぜ。疲れてたからな、あの優しい甘さは余計に嬉しかったな」
テーブル越しにジトリと、どこか羨ましげな視線を送ってきたヤツに率直な感想を伝える。
大好きな御方が手ずから作ってくださったお菓子だ。勿体無いとは思いつつも、やっぱり食べたい気持ちもあるんだろう。
「マジかよぉ…………うぅ……」
分厚い肉球で俺の腕をペシペシ叩きながら、崩れ落ちるみたいに、濡れた頬を木製の板に押しつけ、嗚咽を漏らし始めてしまった。
「いや、お前も食えばいいだろうが」
「……食べたら、無くなるだろ」
「あの方なら、また作ってくださるって! ほら、団長が率先して食った時にさ、また持ってくるって仰ってたじゃねぇか」
頬を染め、心配そうにそわそわしていたアオイ様の前で、すかさず先陣を切ったのは団長だった。
お二方に一言断って包みを開けてから一口味わい、料理評論家顔負けの表現でつらつらとクッキーの感想を述べた。そして、残りのクッキーも欠片も残さず綺麗に完食してしまったのだ。やっぱり団長は、頼もしい。カッコよかったな。
団長に褒められて顔を真っ赤にして、嬉しそうにはにかんでいたアオイ様も。ええ、そうでしょうともって感じで、得意げに頷いていたバアル様も微笑ましかったが。
「それは……そうだけどよ」
「折角のご厚意だぜ? 無駄にする方が良くねぇだろ。6枚あるんだしさ、取り敢えず1枚くらい食ってみろよ。な?」
「それも……そう、だな。じゃあ1枚だけ……」
壊れ物でも扱うかのように丁寧に、慎重にリボンを解いていく。
そうして取り出した星の形をした白いクッキー。その一角を一口かじったヤツの、しょんぼりと垂れ下がっていた耳が、面白いくらいにぴょこんと立ち上がる。滲んでいた水色の瞳がキラキラ輝き出す。
よっぽど気に入ったのか、残りの角が折れた星を今度は一口で頬張り、幸せそうに鋭い目を細めている。
「な、美味いだろ? ココア味のも美味いぜ?」
長いふさふさの尻尾を、上機嫌に振りながら何度も頷いているヤツに茶色の星を勧める。
クッキーが入った包みと俺とを、交互に眺め、頭を抱えてうんうんと唸りながらも、結局甘い星の誘惑には勝てなかったらしい。今度はココア味の方を口に含んだ。
こちらも気に入ったらしかった。さらに勢いを増した尻尾は、風を切るような音を出しながら激しくブンブンと揺れていた。
皆一様にだらしなく目尻を下げながら、あるいは目の前のコイツのように涙ぐみながら。緑のリボンで可愛くラッピングされた、甘い香りが漂う包みを、後生大事に抱えて黙りこくってしまっている。
……まぁ、その気持ちは分からんでもないが。
「……なぁ、いい加減食ったらどうだ?」
「何を罰当たりなことを言っているんだよ! 手作りだぞ? アオイ様のっ!」
何度目かの提案もやっぱり断られてしまった。白銀の耳どころか、尻尾まで逆立てたヤツにあっさり。
「しかも、居なかった俺達の分まで……わざわざ作ってくださって……ぐぅっ……」
顔をくしゃりと歪め、大粒の涙をこぼすヤツの訴えは、思わず眉間にシワが寄るくらい、さっきから何度も繰り返し聞いたってのに。俺と同じく、呆れたような苦笑いを浮かべている連中より、分かるわーってうんうん頷いてる連中の方が多いのは、なんなんだ。
まぁ、確かに。ただ演習を見学させてもらったからといって、お礼を持ってくるどころか。きっちり全員分用意してきてくれていたのには、俺も思わず大声を上げちまったけどな。
いや逆に、喜ばねぇヤツが居んのか? って話だが。
「それなのに……お前ってヤツはさぁ、うめぇうめぇ言いながら簡単に食いやがってよ……」
「ああ、美味かったぜ。疲れてたからな、あの優しい甘さは余計に嬉しかったな」
テーブル越しにジトリと、どこか羨ましげな視線を送ってきたヤツに率直な感想を伝える。
大好きな御方が手ずから作ってくださったお菓子だ。勿体無いとは思いつつも、やっぱり食べたい気持ちもあるんだろう。
「マジかよぉ…………うぅ……」
分厚い肉球で俺の腕をペシペシ叩きながら、崩れ落ちるみたいに、濡れた頬を木製の板に押しつけ、嗚咽を漏らし始めてしまった。
「いや、お前も食えばいいだろうが」
「……食べたら、無くなるだろ」
「あの方なら、また作ってくださるって! ほら、団長が率先して食った時にさ、また持ってくるって仰ってたじゃねぇか」
頬を染め、心配そうにそわそわしていたアオイ様の前で、すかさず先陣を切ったのは団長だった。
お二方に一言断って包みを開けてから一口味わい、料理評論家顔負けの表現でつらつらとクッキーの感想を述べた。そして、残りのクッキーも欠片も残さず綺麗に完食してしまったのだ。やっぱり団長は、頼もしい。カッコよかったな。
団長に褒められて顔を真っ赤にして、嬉しそうにはにかんでいたアオイ様も。ええ、そうでしょうともって感じで、得意げに頷いていたバアル様も微笑ましかったが。
「それは……そうだけどよ」
「折角のご厚意だぜ? 無駄にする方が良くねぇだろ。6枚あるんだしさ、取り敢えず1枚くらい食ってみろよ。な?」
「それも……そう、だな。じゃあ1枚だけ……」
壊れ物でも扱うかのように丁寧に、慎重にリボンを解いていく。
そうして取り出した星の形をした白いクッキー。その一角を一口かじったヤツの、しょんぼりと垂れ下がっていた耳が、面白いくらいにぴょこんと立ち上がる。滲んでいた水色の瞳がキラキラ輝き出す。
よっぽど気に入ったのか、残りの角が折れた星を今度は一口で頬張り、幸せそうに鋭い目を細めている。
「な、美味いだろ? ココア味のも美味いぜ?」
長いふさふさの尻尾を、上機嫌に振りながら何度も頷いているヤツに茶色の星を勧める。
クッキーが入った包みと俺とを、交互に眺め、頭を抱えてうんうんと唸りながらも、結局甘い星の誘惑には勝てなかったらしい。今度はココア味の方を口に含んだ。
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